第73話 目標は口に出すといいらしい

 皆さん。おはようございます。今日もいい朝です。キャンプグッズで寝るのもようやく慣れてきました。でも、異性と同じ部屋で寝るのはハードルが高かったみたいです。クソ眠くて、今からでも二度寝したい気分です。




「どうしたの? 隈ができているわよ」




 元凶が話しかけてきました。どうやらよく眠れたようで何よりです。罰としてほっぺたモチモチの刑に処します。……とても柔らかいですね。おっさんとは大違いです。さて、そろそろ起きましょうか。えいっ!


 俺は自身の頬をバチーンと叩いて眠気を退治する。痛覚耐性のおかげかそれほど痛みがなく、思ったほど目が覚めなかったのでもう一度。




「いきなりどうしたのよ!?」




 2度目は強めにやったら丁度いいくらいの痛さだった。痛覚耐性はM向けのスキルなのかもしれない。……待て。俺はMじゃない。Mはアイナだ。




「そうだろ?」


「何がよ?」


「やはりそうだったか……」


「一人で勝手に納得しないでちょうだい!」




 朝からアイナが大声を出すので目が覚めた。朝から大声を出すなんて悪い子め。俺は伸びをしてから立ち上がる。おっさんだから髭を剃らなきゃならない。その後、朝飯だ。




「今日はどこまで進む気だ?」


「そうねぇ。九城さんに負けるのは悔しいわ」


「そうかい。だが、九城は何か目標があるっぽいから手強いぞ」


「そうなの?」




 あの情報を集めて慎重にものを運ぶ爽やか君がハイペースで攻略しているのだ。かと言って焦っている様子も見受けられない。ならば理由があると考えるのが普通だろう。




「……あなたは九城さんをよく見ているのね」


「はぁ……?」




 何言ってんだ? アイナは。俺は俺に関係ある他人を観察する癖があるだけだ。関係ない他人は知らん。興味ないからな。




「俺はアイナも見てるぞ」


「え? あ、うぅ……、もう!」




 あ? 何怒ってんだよ。意味わかんねぇ。ま、反抗期と思春期なんてそんなもんか。お父さん、アイナが成長していて嬉しいよ。


 アイナが謎の怒りを発しながら朝飯は終わる。そして、今日も今日とてダンジョンに出発だ。




「あ、おはようございます。神崎さん、天導さん」


「おはようございます。九城さん」




 朝から爽やかな挨拶をする爽やか君にエンカウントする。三日連続で出会うと流石にくどいな。味変したいぜ。




「九城さん」


「何でしょう?」




 お? アイナが爽やか君に話しかけるなんて天変地異の前触れか? 明日は雨かもしれんな。爽やか君の返答次第では血の雨になるかもしれんが。




「神崎が言っていたのだけど、何か目標でもあるのかしら?」


「あー、神崎さんは何故知っているんでしょうね?」


「知らないわよ。そんなこと」


「謎ですね」


「謎よね」




 おうおうおうおう、意気投合してんじゃねぇぞ。お前ら目は口程に物を言うってことわざ知らないのか? つまりそういうことだ。




「それはさておき、私の目標でしたね。私はクランの設立をしたいんですよ」


「クラン?」




 首をコテンと傾けているアイナが可愛いなぁ。じゃなかった。クランとか存在すんのか。へー。え? 納得してんじゃねぇ、だと? まー、クランっていうのは、ソシャゲでいうグループとか、チームとか呼ばれる集団だな。知らんけど。




「はい。クランを設立して私たちの拠り所を作りたいんです。もしかすると、私たち以外にも転移してきた人がいるかもしれませんし、在っても不都合はないでしょうから。そのためには冒険者ランクをC以上にしなければならないんです」




 クラン設立にはCランク以上のクランリーダーが必要らしい。爽やか君はランクを上げるためにハイペース攻略しているそうだ。




「そう。……あなた、行くわよ」


「え? はい」




 アイナがご機嫌斜めだ。何故だ?




「どうした急に?」


「……なんでもないわ」


「まさか、九城が目標を持って活動している事に劣等感でも感じたか?」




 おぅ、ビンゴ。ちょっと悔しそうな顔も絵になるな。素晴らしい。だが、アイナには笑顔が似合うぜ。だからアドバイスでもしようかね。人生の先人として。




「九城は大人として生きていたから色々知っている。だから目標を持てる。だが、アイナは子どもだ。普通は目標なんて目先のテストくらいなものだ」


「でも……」


「アイナは賢いもんな」




 そうだよな。アイナは飛び抜けて賢いから大人と比べちまうんだよな。




「なら簡単だ。九城は大人だからどれだけ高くても現実的な目標しか立てない。でもアイナは子どもだ。子どもらしく馬鹿みたいに大きな目標を立てな。アイナは賢いから達成できるさ」




 爽やか君もかなり賢いが、その一族全てを相手取って完封したアイナならどんな目標だって達成できるさ。俺が保証する。




「言っておくが、九城は他人のために目標を立てたが、それは九城の性分だ。アイナは自分のために目標を立てなさい。自己犠牲はダメだからな」




 自己犠牲なんてのは、俺みたいな非才の凡人ができる唯一の花形だ。凡人の見せ場を天才が奪うんじゃねぇよ。




「……自分のため……」


「ま、今すぐに決める必要はない。小さな目標をたくさん立てるも良し。漠然と大きな目標を立てるも良し。そこは自由さ」


「そう、ね」




 お、いい顔になった。やっぱりアイナは笑顔が似合う。

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