第67話 ダンジョン攻略1日目

「壮観ね」




 アイナは俺の背後でそう呟いた。俺はそれに返事する余裕はない。何故なら大量に現れたゴブリンを倒すことで精いっぱいだからだ。


 俺は何度目になるかわからないスクロールの束を取り出して、時間を僅かにずらして起動させる。大量の火球がマシンガンのごとく飛んでいく。その先にいたゴブリンの群れが火達磨になった。その群れが全滅すると、ようやくゴブリンは湧かなくなった。




「疲れたぞ……」


「よく頑張ったわ」


「そりゃどうも」




 俺はその場に座り込んでため息を吐いく。そんな俺をアイナは笑顔で迎えてくれた。


 あぁ、癒されるぅ……。魔力回復ポーションが美味しく感じるぅ……。元気100倍になった気分だ。


 そもそも、何故こんなことになっているかというと、1層を大方探索し終えた俺たちは複数の階段を見つけた。適当な階段で2層に下りて、同じように人気のないところを探索していたのだ。そしたら長い通路の先に宝箱があるという、いかにもトラップな場所を発見してしまった。




「トラップにかかるのも一興かしら」




 と言ったアイナは宝箱に直行。宝箱に触れたらトラップが発動。背後に大量のゴブリン登場。俺はスクロールで対抗。で、今に至る。




「この宝箱はハズレね」


「スキル付きだぞ、その鎧」


「わたくしが着れないならハズレよ」




 アイナは宝箱から取り出した鎧を俺に渡す。鎧のスキルは魔力防御、物理耐性、魔法耐性の3つだ。前衛には必須のスキルだろう。初心者なら喉から手が出るほど欲しい代物だ。このゴブリンの数に打ち勝てる人に必要かは知らない。




「さてと、剥ぎ取りしますかね」


「この数をやるの?」




 やるに決まっている。大事な収入源だぞ。


 俺は腰に装備しているナイフでゴブリンの角と魔石を回収する。魔石はナイフを突き刺して、魔石に触れたらマジックバッグに放り込むだけだ。おかげで回収スピードが格段に上がった。




「こ、腰が……」




 それでも時間はかかった。俺は中腰でずっと作業していたので、腰にダメージがきた。俺も歳かな……、なんて考えながらグッと背筋を伸ばす。アイナは椅子を取り出して優雅に座っていたよ。




「さ、行きましょ」


「待て、アイナ。そろそろいい時間だ。戻るぞ」


「……ダメかしら?」




 う……。上目遣いの幼女からお願いされるとか、ヤバい。俺にクリティカルヒットだ。大丈夫、致命傷で済んだ。だが、俺の命に代えてもアイナを夜遊びする悪い子にするわけにはいかない。夜遊びは大学に入ってからだ。それまでは補導されるからダメ。




「ダメだ。今回はあくまでもダンジョンを知るために来ているだけだ。攻略が進めばダンジョン内部で寝泊まりすることもあるだろうが、今はその時じゃない」




 連絡もなしにダンジョンから帰らなければ、爽やか君たちは動揺するだろう。ただでさえ多くの仲間が死んでしまったのに、俺とアイナが帰らなければ心労で倒れるかもしれない。




「……九城さんは兎も角、大和さんや村正さんに迷惑はかけられないわ」




 爽やか君に迷惑はかけていいのか。いいか、別に。


 そういうわけで、俺とアイナは1層の広場に戻った。既に何組かは戻ってきていて、その中にイケおじもいた。




「おう、神崎。戻ったか」


「はい。ダンジョンはどうでしたか?」


「魔物も少ないし何とでもなった。4層までは行ったが、今の俺でも余裕だったぞ」




 イケおじたちは4層の途中まで行ったようだ。そこはゴブリンと豚の魔物がいて、その魔物の名前はノブタ。食用らしい。




「大きくて動きもノロマだから、初心者の金稼ぎにはもってこいの魔物だそうだ。全員が狩れるようになれば、宿代には困らない」


「それは歓迎ですね。私たちも早くそこまでいかなければなりません」


「神崎と嬢ちゃんなら余裕だろう。積もる話は宿屋でしよう。先に帰っていていいぞ。ここは俺たちがいるから」




 イケおじの言葉に甘えて、俺たちはダンジョンを後にする。冒険者組合の出張所がすぐ近くにあるので、そこでゴブリンの角を換金すると結構なお金になった。




「さてと、宿……」


「嫌よ」




 速攻で否定された!? 全部言わせてくれよ……。ま、宿屋に戻っても暇だろうしな。俺も仮面を張り付けたままなのは疲れるし。ちょっとブラブラ歩きますか。




「何処に行きたい?」


「そうねぇ……。昨日行っていない場所かしらね」




 アイナはそう言って俺を引っ張る。昨日の通った道は全てアイナが暗記済みなので、その歩みに迷いはない。




「ここよ」


「随分とまぁ、オサレなお店だこって」




 全体的に落ち着いた雰囲気の喫茶店みたいな店がアイナの目的地だったようだ。ドアを開けて中に入ると、どうやらこの店はアクセサリーショップらしい。




「ねえねえ。似合うかしら?」


「似合うぞ」




 そんな睨まれてもなぁ。彼女どころか女友達すらいなかった俺に、気の利いた言葉なんて言えやしねぇよ。アイナが似合うと思うなら似合うんじゃねぇの? 知らんけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る