第66話 いちげきひっさつ
「何、あれ?」
「超巨大スライム」
「通路が塞がっているわ」
「詰まっているの間違いでは?」
俺の気配探知にすら人影らしきものが感じられなくなるほど過疎った1層の最奥に俺たちはいた。
いやね、このダンジョン広すぎでは? と思ってたところにこれだよ。たぶん、2層へのルートは確立されて久しく、スライムしかいないこの層は探索が放棄されていたのだろう。だから討伐されていないスライムが時間をかけて淘汰されてコイツになった、といった具合か。
「無理に倒す必要もないが……」
「倒すわ」
「メタボゴブリンくらい強いし……」
「倒すわ」
「どんな攻撃してくるかわかんないし……」
「倒すわ」
話聞いてないよ、この人。だってさ、スライム+美幼女(?)っていったらもうね。答えは1つしかないよな? はい、そこのお前。スケベなこと考えただろ。逮捕だ。処刑する。
「あんなの倒す当てあるのか?」
「スライムは身体を構成するほとんどが水分みたいなものよ。凍らせてしまえば、怖くないわ」
さらっと言ったけど、この大きさのスライム凍らせるって結構なコトよ? アイナだからできるとしか言えないぜ?
アイナは細くて綺麗な腕を前に出すと、周囲の気温がグッと下がった。かなりの大規模魔法を使うつもりだろうが、俺にも被害が出るかもしれないので少し下がろうとすると、アイナに睨まれた。
「……どこに行くつもりかしら?」
「近くにいると余波で死ぬんじゃね? 俺が」
「逆よ。わたくしの傍にいなさい。指向性はある程度操れるけど、多少周囲に被害は出るわ。わたくしから離れる程制御が甘くなるから、近くにいなさい。それに……」
アイナが理論的に説明をしてくる。俺は丸め込まれて、最終的にアイナの真後ろに立つ形となった。
あれだな。遊園地の行列に並ぶお父さんなった気分だ。子供をあやすのはこんなに大変だったのか。この世のお父さん、頑張れ。
「いくわよ」
アイナは魔法を放った。氷属性魔法のダイヤモンドダストという技だ。殺人的冷気が瞬く間に通路を凍らせ、巨大スライムに直撃する。スライムは一瞬身動きを取ろうとするが、すぐにカチコチに凍ってしまった。
「……終わったわ」
気配探知から気配が消える。強力な魔法とはいえ、一撃でメタボゴブリン級の強敵を倒すんだもの。アイナの強さは底が知れない。
「あー、寒……」
急激な温度変化は風邪をひく原因だ。俺はテントを作る過程で大量に作った布をアイナに巻き付ける。
「何するのよ」
「風邪ひくぞ」
「せめてカーディガンとかにしなさいよ。見た目が悪すぎるわ」
「見る人間がいないから気にするな。それと、デザインはアイナが描いてくれ。俺の分も」
この一か月で外気温は温かくなっている気がするので要らないかもしれないが、こういうことも起こりうるので持っておきたい。デザインはアイナに任せておけば完璧なものを描き上げるので、俺は材料を作っておくだけだ。
「よくってよ」
「んじゃ、任せた」
俺はアイナと同じく布を巻きつけて氷漬けスライムに近づく。鑑定をしてみると、コイツはキングスライムとかいう魔物だった。
「はー、なるほど」
「何かわかったの?」
「ん? 魔法で倒して正解だったな」
キングスライムは体内に物質を取り込んで溶かすという特性が、化け物みたいに強化された個体らしく、生半可な装備はすぐに溶かされてしまう。しかも耐久力が高く、再生能力もあるので弱い攻撃では倒せない。
「1層にいていい魔物ではなさそうね」
「それは同感だ。だが、おかげで上質な素材が大量に手に入った」
スライムを構成するプルプルのゼリーは高品質の素材だった。それを大量に手に入れたので、錬金術で何か作れるかもしれない。俺はマジックバッグに凍ったキングスライムを放り込んだ。
「あ、あれは何かしら?」
「……宝箱っぽいな。ならキングスライムは宝箱を守る魔物か? 元から強くて、時間とともに成長したのか」
もしかすると2層とかも同じ現象が起きているかもしれない。だとしたら素材ゲットのチャンスだ。楽しみだなぁ。
俺はこれからを妄想して、内心ウハウハだ。尚、こういうのを俗に捕らぬ狸の皮算用ともいう。
「ねぇ、早く宝箱を開けましょう?」
「アイナ、宝箱を開ける時は注意だ」
「何故?」
「宝箱が魔物だったり、その部屋に罠があったりするのが常識だ」
「……それはどこの常識なのよ」
サブカルおじさんの常識だ、とは言えなかったので、俺は適当に誤魔化してアイナと共に宝箱に近づく。俺は宝箱を鑑定するとただの宝箱だったので、ひとまず安心だ。
「……中身は微妙ね」
「1層にしては破格なんじゃないか?」
宝箱の中には鉄の剣が入っていた。はっきり言って魔物の強さと中身が釣り合っていない。スライムやゴブリン相手なら十分な武器だ。今の俺たちにとっては無用の長物だが。
鉄の剣は俺にくれるそうだ。俺はありがたく貰っておく。素材になるから。
「この調子でどんどん魔物を狩りましょう」
アイナはそう言って歩き出す。通った道はアイナが覚えているので、俺は大人しくついていくだけだ。
……あれ? 立場的に俺が子供みたいじゃ……。
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