第65話 いざダンジョンへ

 おはようございます。俺です。街に来たというのにキャンプグッズを使うとは思ってもみませんでした。ふかふかのベッドで寝たいです。ふぁ~ぁ。




「今日はダンジョンに向かうぞ。不要なものはここに置いて行けばいい。生産職だろうが関係なしだ。今は金が必要だからな。メシ食って早く行くぞ」




 イケおじに急かされて、皆は朝食を詰め込むように食べる。晩飯と同じメニューで量だけは多い。俺は朝飯を食べられない体質なので、別皿に全て移してマジックバッグに放り込んだ。捨てるのは勿体ないが、食べる機会はないかもしれない。




「全員食ったな? 早く外に出るぞ。九城たちと合流だ」




 宿屋の外に出ると、太陽が顔を出したくらいだ。だが、意外にも外には活気があった。道は冒険者らしき人たちが往来し、多くはダンジョンの方に流れていく。子供や若い少年は冒険者組合に向かっている様子だった。




「おはようございます、皆さん」




 朝から爽やかな笑顔で挨拶をしてくるのは爽やか君だ。女性陣はまだ来ていない。と思ったら出てきた。全員が集まったところで爽やか君が口を開く。




「みんなに伝えていると思いますが、今日からダンジョンに挑みます。その前にパーティ分けをします。最大6人でパーティを作ってください」




 なんて非情なことを言うんだ、爽やか君は!? 俺はこの手のヤツだと一人になること請け合いの陰キャだぞ! ふざけるな! 訴えてやる!




「パーティって2人でもいいのかしら?」




 あ、俺にはアイナがいた。解決したわ。




「ま、大丈夫だろ」




 結局、俺とアイナは2人でのパーティとなった。他にも3人パーティとかもいるので問題ないだろう。ダンジョン攻略が進めば勝手にパーティの統廃合が繰り返されて、最適解のパーティができると思う。


 その後はダンジョンに向かう。ダンジョンを囲む城壁に設けられた門にいる兵士に冒険者カードを見せて、ダンジョンに突入した。入り口は洞窟のような見た目だが、入ってすぐに階段があるという、正にダンジョンな作りだった。




「そんな深刻な顔してどうしたのよ」


「いや、下に向かうのなら、川から水を引っ張って流したらどうなるんだろう、と思ってな」


「まともに攻略しなさいよ」




 至って真面目なんだが? だが、ダンジョンの不思議パワーでせき止められるとか、水が何処かに消え去るとかありそうだな。水が残ったら人間が攻略できないし、この作戦は中止だ。


 階段を下ってすぐの広場にはたくさんの冒険者がいた。広場の中央には巨大な石碑が鎮座しており、その周囲では人が消えたり現れたりを繰り返している。




「中央のは転移石と呼ばれるものです。5層ごとに存在していて、到達したことのある層に任意で移動できるものです」




 1層の次は6層、11層……と増えていき、これはどのダンジョンでも同じだそうだ。


 俺たちは転移石を通り過ぎて、広場の空いているスペースで一時停止する。




「これからは各パーティで挑むことになります。なんでも6人以上で固まって攻略をしていくと、ダンジョンから盛大なしっぺ返しを受けるとのことです。気を付けてください」




 かつてダンジョンを軍で攻略しようとした国があり、その国は超大規模なスタンピードで壊滅したらしい。その話はまことしやかに語り継がれていて、どの国も必ず守るそうだ。




「すぐにスタンピードが起きるわけではないので、危機的状況のパーティがいたら助けても問題ないです。では、各自行動を開始してください」




 爽やか君の言葉を皮切りに、幾つかのパーティが競うようにダンジョンに突撃していった。




「わたくしたちも行きましょう」




 アイナと共に複数ある入り口から適当なところを選ぶ。洞窟は剣を振り回せるくらいの広さはあるが、横一列に複数並ぶと満足に武器を振り回せない程度の広さだ。


 俺は槍を取り出し、アイナはビームサーベルとエクスカリバー(仮)を腰に装着した。一応、人通りも気にして擬装用バックパックも背負っている。




「気配探知にはそこそこの数が引っかかるな。弱いけど」


「とりあえず進みましょう。2人しかいないのだから攻略は他人に任せて、1層を手広く観光する気持ちで十分だわ。焦って進む意味はなくてよ」




 それもそうか。そもそも長らくダンジョンが存在しているなら、定番の攻略ルートくらいあるだろう。それを他人が見つけるか聞き出すかした情報をもらえばいいや。貸しはたんまりとあることだし、定番ルートから大きく外れた道を選ぶことも一興だ。




「それに、気配をたどって人の多いルートを見ていけば、必然的に2層への階段はみつかるわ」




 ほぉ。流石、賢い。俺は他人から聞けばいいと思っていたから、気配から推測しようなんて考えもしなかった。


 俺たちは気配探知で人気がなさそうな方向に進んでいく。道中はスライムがいた。寧ろ、スライムしかいなかった。1層は初心者専用なのかもしれない。




「スライムばっかりだな。てか、ここに人が来てないからスライム溜まってんのか?」


「ゴブリンならたくさん動くけれど、スライムは遅いし、人がいても向かって行かないから、定番ルート以外にたくさんいそうね」




 俺とアイナはそんな会話をしながらスライムを駆逐していく。魔石もゲットできるしラッキー、と思っていると、そいつが姿を現した。

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