第62話 テンプレはお腹いっぱいだ
迷宮都市と呼ばれるだけあって、その規模はまあまあ大きかった。街をぐるりと囲う城壁は圧巻だが、逆に言えばそれくらいしかない。街の中の建物が城壁のさらに上から見えるが、普通サイズだ。
「古都観光ってレベルか。ありだな」
「楽しそうじゃない。観光してみたいわ」
そんな呑気なことを言いながら城壁に設置されている門に近づいて行く。すると、遠目ではわからなかった事実も見えてくる。門から少し離れた城壁外部にスラム街が形成されていた。テレビで見たことあるような光景に、アイナは目を伏せる。
ま、普通はそうだわな。子供に見せる光景ではない。……あ? 子供にもしっかり見せるべきだと? まずはお前らが現実を見ろよ。子供に何ができるんだよ。大人のお前らが動いてあるべき背中を見せろ。
「ま、異世界だろうと貧富の差はどこにでもあるわな」
「……そうね」
異世界ものの主人公ならここを統治している貴族か何かをぶっ飛ばすんだろうが、生憎、俺は興味ないわ。統治者が腐っているならここを離れる。それで完結だ。
爽やか君が門の兵士らしき人と話している。すぐに先頭から街に入っていく。俺も無事に街に入れた。爽やか君が兵士と何か会話し、こちらにやって来る。
「盗賊団はどうなりましたか?」
「後日、報奨金を貰えるようです。入場税はそこから天引きとなりました。冒険者カードを提示すると入場税は免除になるそうです。冒険者組合に向かいましょう」
冒険者組合ってかなり大きな権力でも持っているのかね? 税金免除ってすごいな。
馬車の一団とはここでお別れだ。彼らから教わった通りに冒険者組合に向かう。
「はー、意外と立派な建物だな」
冒険者組合の建物は古めかしい大きな建物だった。中は広々としていて市役所に酒場が併設されている感じだ。木材がいい味を出している。
アイナは普通くらいの大きさ、と言っていたが、どれだけ大きな屋敷に住んでいたんだよ。俺の住んでいた安アパートに比べたら、ここは巨大と言っていい。
爽やか君が受付嬢らしき女性を口説いて、もとい口説き落として一人ずつ冒険者として登録していく。
え? 言い換えが意味を成していないだと? だって事実だもん。受付嬢は頬を紅色に上気させて、爽やか君は甘い笑みを浮かべながら受付嬢の手を両手で優しく包んでいる。これをナンパと言わず何と言うのか。
「オイ」
爽やか君、あれは天然か? とんだジゴロじゃん。やべーわ。何時か女に刺されても知らんぞ。
「オイ、聞いてんのか?」
あ、他の受付嬢が来た。こめかみに青筋が浮き出てるよ。修羅場じゃん。ざまぁ。……あれ? なんで困惑顔になったの? なんで二人して頬を赤く染めてんのさ。ふざけんなよ!
「オイ! てめぇ!」
「アァ?」
「ぅひ……な、何でもないです……」
なんか後ろから肩を掴まれたけど、振り返ったら謝ってきた。何だったんだろう?……ハッ、まさか、これは冒険者になるときのテンプレでは? 三流冒険者を彗星のごとく現れた新人が歯牙にもかけず叩きのめすという、あのテンプレでは?
やっちまたぁァァァッ! 折角の異世界テンプレを味わうチャンスだったのに、なんてことしたんだ、俺はよぉ……。ぐすん。
「あなた。さっきから騒がしいわよ」
「声出てた?」
「いいえ。そんな気がしたの」
よかった。独り言が口からこぼれたわけじゃないならいいや。
そんなことを考えながらいると、ようやく俺たちの番になる。受付嬢がカウンターの上に設置されている魔道具っぽい物の上に手を置くように言う。そこにアイナが手を乗せると、魔道具からカードが排出された。
「これが冒険者カードになります。再発行にはお金がかかりますので紛失にはご注意ください」
ようやく俺の番になり、アイナと同じように魔道具に手を乗せる。同じようにクレカ大のカードが排出された。そして、一言一句同じ注意事項を受けた。
「全員発行が終わりましたね。注意事項は私が聞いたので、後でみんなに教えます」
それでいいのか、冒険者組合。適当過ぎんか。
「では宿探しに向かいましょう」
「お金はどうするつもりですか?」
「え? あ……」
報奨金がすぐにもらえなかったのは誤算だ。それに気が付いた爽やか君は間抜け面を晒す。
俺は仕方なしに空いているカウンターに行くと、暇そうにしていたおっさんに質問を投げかけた。
「すいません。魔石か何かを換金できますか?」
「あん? 冒険者ならそれくらい知ってんだろ」
「その説明をされなかったので、聞いているのです」
受付嬢たちは爽やか君にぞっこんだったから、俺たちは聞いてないんだよ。教えてくれよ、おっさん。
「……あいつらは後で説教だ。で、その質問の答えだが、向こうのカウンターに行けば魔石や魔物を買い取る。魔物によっては買い取れないものもあるから気つけろ、ゴブリンとかな。そういう魔物は討伐証明部位ってのがあって、それを渡せば金が貰える。買い取りできるか分かんねぇ場合は持って来い。以上だ」
「ありがとうございます」
俺は指をさされたカウンター向かい、ゴブリンの討伐証明部位が角であることを確認して、擬装用バックパックからゴブリンの角を取り出した。袋にはずっしりと大量のゴブリンの角が入っている。買取カウンターで換金すると結構なお金になった。
「はい、どうぞ」
「申し訳ないです。神崎さん」
いやホントよ。ま、貸しにしておくから問題ないけど。
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