第61話 冒険に寄り道はつきもの

 首領からアジトやらを聞き出したら、俺のやり取りを見ていた人たちがドン引きしていた。


 何だよ。君たちがしっかりしていれば俺がでなくて済んだんだよ? 自身の不甲斐なさを嘆きなさい。


 首領は紐を噛ませて口封じした後、イケおじに丸投げしておく。俺は得られた情報を片手に爽やか君のもとに向かった。




「アジトは近そうですね。往復しても問題なさそうです」


「まさか行くつもりですか?」


「まだ残党が数名残っているようですし、仕留めておかなければ誰かが襲われてしまうでしょう」




 という建前で、俺は盗賊団が貯めこんでいるお宝に興味がある。回収しておきたい。




「その可能性はありますね。ここから半日ほどで迷宮都市に到着するらしいので、そこで合流しましょう」


「ええ、そうしましょう」




 爽やか君たちは馬車の一団と一緒に迷宮都市に向かうようだ。アジトに向かうのは、俺とアイナ、門番君、髭熊の四人だ。




「お気を付けて」




 日の出とともに俺たちは出発した。森の中をハイペースでずんずんと進み、一時間足らずでアジトに到着した。




「疲れましたね」


「まだ何もしてないぞ」


「ここで休憩しますか?」




 なんて優しい言葉なんだ。俺の心に沁み渡るぜ。大丈夫だ。俺はまだ戦える。




「気配は三人だけね。それも弱そうな」


「では神崎さんはここで警戒をよろしくお願いします」




 あれ? 俺っていらない子……? がっくし。


 結局、俺の助力などなしに制圧を完了してしまった。俺は制圧後にのんびりとアジトに向かう。そこは如何にもな洞穴で、かなり臭いがキツイ。




「誰が入る?」


「嫌よ」




 アイナは即答だった。流石の俺でもアイナに行けとは言えないので、大人しく男三人で相談する。




「3人で入るか? 一番諍いが少なそうだ」




 髭熊が最良の答えを最初に言った。誰かに押し付ける形になるくらいなら、諦めて3人とも汚れようという形だ。門番君も苦笑いだが賛成のようだ。


 だが、俺は反対だね。一人だけ何もしていないのだから、これくらいはするさ。それに、俺にはマジックバッグがある。荷物を運び出す手間がかからない。




「本当に一人で行くんですか?」


「私も男です。自分にできることがあるにも関わらず、誰かに任せっきりなのは許せません」




 俺の熱い言葉に門番君と髭熊は涙ぐむ。少年漫画の燃えるシーンのような光景だ。


 やっているのは臭い洞穴に入るだけなんだけどね。


 俺は意を決して洞穴に入る。そして、その臭いに一瞬意識を持っていかれた。


 臭いっていうか、もはや凶器だわ。涙が出てきた。何というか、剣道部の小手の臭いをひたすら煮詰めて凝縮した感じ。盗賊団、こんなところに略奪物なんて置くなよ。臭いが移っちまうだろうが。


 俺は朦朧とする意識を何とか繋ぎ止め、半泣きで探索をする。幸い、洞穴自体は短いので簡単に目的のものは見つかった。干されたパンツらしき布を避けて、金目の物を全て綺麗にしてから回収して素早く撤退した。洞穴から出るとすぐさま俺は自分に綺麗にする魔法をかける。




「カハッ……ハァ……ハァ……。死ぬかと思った……」




 言葉を取り繕う気力すらなく、俺は新鮮な空気を肺いっぱいに取り込む。




「大丈夫?」


「大丈夫に見えるか?」


「見えないわ」




 俺は存分に新鮮な空気を取り込んだ後、これ以上ないくらい真面目な顔でこう言った。




「……燃やしましょう」


「賛成ね」




 アイナは火属性魔法で洞穴内部を燃やし尽くした。


 汚物は消毒だー。ヒャッハー!


 火の始末だけはちゃんとしてから、俺達は盗賊団残党を縛りあげて帰路に就く。髭熊は方向感覚が優れてるらしく、どの方向に行けば道に出るかわかるそうだ。




「ねえ、あなた。何があったの?」


「じっくり見る余裕はありませんでしたが、高そうな装飾品や装備などがありました。落ち着いたら戦利品を確認しましょう」


「ええ、楽しみにしているわ」




 爽やか君たちを追って、残党を引きずるように走ること2時間。俺と残党がへとへとになったくらいで合流できた。


 やべぇ、吐きそう。うっぷ……。




「ご無事で何よりです」




 どこが無事だ。俺は無事じゃねぇ。一番役に立ってねぇ。情けねぇ。




「後3時間もあれば迷宮都市に到着するそうです。そしたら冒険者組合に登録して、宿を探しましょう。これだけの盗賊団ならそこそこの報奨金が貰えるそうです」




 いつの間にか仲良くなったらしい馬車の一団から、色々と情報を仕入れたそうだ。おかげで今後の方針が大方決まった。


 俺にできないことを平然とやりやがって。そこに痺れも憧れもしないぜ、俺は。寧ろ、羨ましいわ。肩甲骨の間が痒くなる呪いでもかけてやろうか。




「そうでしたか。お金の工面ができたのなら幸いです。その辺りはお任せしますので、頑張ってください」




 俺はさっさと最後尾に戻る。正確には疲れでペースが遅くなり、いつの間にか最後尾だ。




「頑張って3時間歩くぞ、アイナ」


「頑張るのはあなたよ」




 ごもっともなお言葉だな。頑張るか。


 そこから約三時間。俺たちは異世界初の街に到着した。

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