第60話 盗賊ってやられ役だよな
俺の気配察知に異変があったのは夜が明ける前、一番暗い時間だった。
何人かが舟を漕いでいるのを髭熊と眺めながら談笑していると、気配探知の端に嫌な気配を感じた。それは感じたことのある反応で、害意を持つ人間のものだ。
「斎藤さん。敵意を持つ何者かが近づいています」
「何だと! オイ、起きろ! 敵襲だ!」
髭熊が大声で怒鳴ると、舟を漕いでいた面々だけでなく、テントの中からも慌てた様子で人が出てくる。
「神崎、どっちだ」
「あっちです。ゴブリンよりは強く、数も多いです」
「わかった。神崎は向こうの連中にも教えてやれ。俺は迎撃準備をする」
「わかりました」
髭熊の怒声のもと、着々と準備が進む。これなら問題なさそうだ。
俺は彼らの方に行くと、怪訝な顔で出迎えられた。
「何やら騒がしいが、どうした?」
「敵意を持った人間が接近しています。我々は迎撃にあたりますが、あなた方も注意をしてください」
「何だと! 盗賊団だっ! 起きろ!」
その声にぞろぞろと寝ていた人が起き上がる。俺はついでに質問を投げかけた。
「盗賊団は殺した方がいいんでしょうか?」
「好きにすればいい。首だけでも持っていけば報奨金が入るし、生きていれば奴隷商が買い取ってくれるぞ」
「それはいいことを聞きました」
「その時は手足満足にしておかないと買い叩かれる。気を付けろよ」
この世界、奴隷もいるのか。本当にテンプレだな。爽やか君が変な義憤に駆られなければいいが。
そう考えていると、爽やか君が全員を引き連れてやって来た。俺は今しがた得た情報を爽やか君に伝える。
「奴隷、ですか……」
「同情は必要ないですよ。それよりも盗賊団を手足満足で捕らえてください。人殺しをするよりはマシでしょう」
だってその方が高く売れるから、なんて言葉は言わなかった。建前の理由の方が日本人なら動くと思ったから。
こちらの準備をする間に、随分と距離を詰められたようだ。俺以外にも気配探知で盗賊団の気配を感じ取れた人がでてきたようだ。
「九城、相手が立ち止まった。何か仕掛けてくるかもしれん」
「……この距離なら弓か魔法でしょう。ストーンウォールを張ってください。少し傾斜をつけて、その陰に入ってやりすごします」
「魔法が使えるのか、あんたたち」
驚いたような声を無視して、爽やか君の指示でストーンウォールが張られる。その陰に全員が入ると同時、矢の雨が降ってきた。頭上にはシールドも張られ、鉄壁の布陣の前に矢は意味を成さなかった。すぐに雨は止んで、多数の気配が近づいてくる。
「反撃開始です!」
前衛職の人達がストーンウォールを飛び越えて駆ける。
「大和さんたちは後方の部隊を潰してください。神崎さんもです」
俺もかよ。まったく、人使いが荒いねぇ。え、アイナもついてくるの? そう、気を付けなよ。
俺達は側面の暗がりを回って後方の部隊に接近する。弓を持った部隊は数が少なく、混戦の最中、敵のみを射抜けるほどの練度はないようで、暇そうにしていた。
一瞬で制圧して、紐で縛って戻る間に向こうも終わったようだ。完勝である。
「怪我人はいますか?」
「全員治しました。重傷者や死亡者はいません」
盗賊団全員を縛り、喋れないように口にも紐を噛ませておく。何人か変わった縛り方をされているが無視だ。
こらアイナ。見ちゃいけません。
「あんたら強いんだな」
「まだまだです」
「謙遜はよせ。この数を一方的に倒せるんだ。十分強いぞ」
へー、この程度で強い部類に入るのか。ならメタボゴブリンって滅茶苦茶強かったんだな。それを越えるアイナはチートでは?
するとそこに、盗賊団の首領らしき人物を尋問していたイケおじがやって来た。
「神崎、すまんが来てくれ。嬢ちゃんはダメだ」
「何故かしら?」
あー、口を割らないのね。で、俺に役目が回ってきたと。ならアイナには見せれないな。俺の悪い面を見られたくない。
「天導さん、盗賊団の見張りをお願いします」
「わたくしも行ってはダメかしら?」
「これは大人の仕事です。天導さんがしてはならないのです」
俺はアイナの頭をポンポンと撫でてから、イケおじに連れられて少し離れた場所にいる首領のもとに向かった。
首領は手を後ろで縛られて、膝立ちで拘束されていた。だが、その目は死んでいない。俺を睨みつけてきやがった。
「誰を連れてくると思えば、そんな目つきだけのちっこい野郎なんざ怖かねぇんだよ」
誰が小さいおっさんか! 俺か……。てか、ガタイいいな。俺に身長くれよ。
俺はとびっきりの営業スマイルをしながら首領に近づく。布でアイナの方向に目隠しを作ってもらい、ようやく口を開いた。
「さて、素直に話してくれそうにありませんね。殺しましょうか」
「え……?」
誰の声だろうか。間の抜けた声だ。
「盗賊団のアジトなど、別の人から聞き出せば良いでしょう。コレから聞く必要はありません」
だって残機は沢山あるもの。コレにこだわる理由なんてない。
そんな俺の態度に慌てた様子の首領が口を開く前に、俺は追撃をかける。
「安心して下さい。簡単には殺しませんので。人間にスクロールを試したことが無いので、その実験台になってもらいましょう。もちろん、回復魔法のスクロールもあるので、簡単には死にませんよ」
早く話してくれないかなー、と思いながら、俺はスクロールを取り出した。すると、首領は顔を真っ青にして素直に口を開くようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます