第59話 テンプレが襲って来るぞ

 迷宮都市ってマジ? あの異世界もののテンプレ何でもありのダンジョン? 楽しみだわ。ちょっと詳しく聞かせてくれよ。




「この先に迷宮都市があるのですか?」


「何だ、知らなかったのか。てっきり冒険者になると思っていたんだが」




 冒険者! オイオイ、ここにきてテンプレが大量に襲い掛かってきやがった。俺のサブカル知識が火を噴くぜ。




「その予定でしたが、迷宮都市があるとは思いませんでした。貴族から逃げるために森を抜けてきましたので」


「他国の傭兵団か。それなら知らなくて当然だ。それに森を抜けられるのなら腕は確かそうだな」




 俺以外の腕は確かだよ。……俺? 俺は、ほら、あれよ。あれ。




「ま、食料なら買い取ってやる」


「ええ、ありがとうございます」




 え、迷宮都市と冒険者の話は終わりなの? そんなぁ……。




「九城さん。少し食料を売りましょうか。森でとった猪の肉がありますので取ってきますね」


「え? それならマジ……」


「取って、きますね」




 マジックバッグを持っている、なんて言うなよ。何で金を入れておかない、とか突っ込まれるだろ。


 俺は飛び切りの笑顔で爽やか君を黙らせて、一度その場を離れる。そして、何人かに声をかけて、5匹分の猪肉を運ばせる。




「これでどうでしょう?」


「……チッ、随分と綺麗に処理してあるな」




 おい、今舌打ちしたろ。買い叩いてやろうって魂胆が丸見えだぞ。




「これだけあれば、全員が街に入れますね?」


「……ああ、余裕だな。一匹につき小銀貨2枚でどうだ? 合わせて小銀貨9枚だ」




 あ、こいつ俺らを馬鹿にしてやがんな。お前の目の前にいる集団は全員計算くらいできるぞ。たぶんな。てか、傭兵団は計算できないと思われてんのか。もしかすると、この世界の教育水準って低いのか? そこもテンプレか。




「おや、計算が違うと思うのですが?」


「おっと失敬。俺としたことが計算を間違えちまった。合計で小銀貨10枚。中銀貨1枚だな」




 悪びれる様子もなく訂正しやがった。慣れてんなこいつ。しかし、小銀貨10枚で中銀貨1枚か。なら中銀貨10枚で大銀貨1枚になるのかな?




「少し安すぎませんかねぇ? 本日取れたばかりの新鮮な肉ですし、処理も完璧ですが?」




 くらえ、俺の営業スマイル! お前の目論見なんてわかってんだよビームの視線を受けて、お前らはどう動く?




「……はぁ、小銀貨2枚と大銅貨8枚だ。これ以上なら買い取らん」




 はい勝った。買取価格約1.5倍だぜ。やったね!


 彼らの目を見て、俺を侮るような色が無くなったことを確認してから、その条件を飲んだ。


 合計中銀貨1枚と小銀貨4枚を貰い、猪肉を渡す。


 彼らとの交渉はこれにて終わり、俺たちもこの場所に泊まることとする。彼らから少し離れたところに陣取り、慣れた手つきでテントを建てた。


 よくよく考えると、こんな立派な装備があるのに金だけ無いのは不自然だよな。ま、金は手に入れたからどうでもいいけど。




「助かりました。色々情報も手に入ったので、街に入ってからの身の振り方も検討できそうです」


「それはよかったです。あと、これは九城さんが持っていてください」




 俺は彼らから巻き上げた中銀貨を渡す。このグループのリーダーは爽やか君なので、面倒事は一任する。




「でも、これは神崎さんが手に入れたものですよ?」


「街に入る際のお金の支払いや、冒険者になるための交渉などはお任せします。もちろん皆さんに説明などもよろしくお願いしますね」


「……やっぱり神崎さんですね」




 俺は俺だよ? 意味が分からないね?




「とりあえず早く休みましょう。明日も朝が早いのですから」




 そろそろ営業スマイルを続けるのが辛い。昔の俺はよくこんな顔を丸一日できたな。


 そんな感じで爽やか君たちから離れてアイナのところに向かう。そこにはふくれっ面のアイナがいた。


 なにこれ可愛い。




「遅いわ」


「ごめんて」




 あ、もっとふくれた。ふぐみたい。可愛い。しかし、これ以上危険だな。そろそろ魔法をぶっ放しかねない。




「面白そうな話があるけど、聞きたい?」


「……しょうがないから聞いてあげるわ」




 口ではそういうけど興味津々だな。声のトーンが少し高いぞ。


 俺は彼らから得た情報を話すと、アイナは目をキラキラさせて聞いていた。




「迷宮って面白いのかしら?」


「だが話しぶりからすると人は集まるようだな。少なくとも人を惹き付ける何かはあるんだろう」


「うふふ、楽しみね」




 あらあら、何て可憐に笑うのでしょう。交渉頑張った甲斐があったわ。


 そこからはシェフの料理に舌鼓を打ってからの就寝だ。今日は後半の不寝番なので憂鬱だ。




「神崎さん」


「起きていますよ」




 この声は門番君だな。俺は一睡もできていないぜ。不眠症許すまじ。


 俺は門番君と不寝番を交代して焚き火の方に向かう。彼らも何人かが起きて焚き火を囲んでいるようだ。




「神崎か」


「斎藤さんも不寝番ですか」


「そうだ。登山ではこんなことしなかったからな。慣れん」




 髭熊は欠伸をした。そして、俺を含む数人に伝染する。




「神崎さんが欠伸なんて珍しいですね」


「アンドロイドじゃなかったんだ」


「地球にいた頃はこの時間に就寝でしたから。ほとんど寝ていないんですよ」




 何故どよめくんだ君たち。俺だって地球ではまともに会社員していたんだぞ。

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