第58話 冷静になると色々見える

 俺達は遅めの昼飯を食べていた。道を発見してテンションが上がり、数時間歩き続けてようやく落ち着いたからだ。




「誰もいないし、人工物もないわね」


「困りましたね」




 何だよ、アイナ。俺の口調が変わってご立腹か? でも、目の前に爽やか君たちがいるからしょうがないじゃん。




「本当に人がいるのか?」


「そもそも友好的かはわからんぞ」


「今からでも戻るべきでしょうか……」




 うわー、負のスパイラルに陥ってるじゃないか。出番ですよ、アイナさん。そんな考え吹き飛ばしてやりなさい。




「少なくとも、最近この道を使った人はいるわよ」


「何故そう言い切れる、嬢ちゃん?」


「よく道を見てみなさいな。答えがあるじゃない」




 爽やか君たちの目線が道を彷徨う。俺は食事中なので見ない。それが答えだ。




「……何があるんだ?」


「……あなた」




 食事中の俺に喋らせるつもりか!? なんて非道なことをしやがる!? つっても女の子の口から糞の話はしたくなぇわな。しゃーない。




「道に動物の糞が落ちていますね。それもずっと。形状からするに牛や馬ではないかと。乾いていないのでつい最近のものです」




 しかもアイナ曰く、1匹2匹の量ではないらしい。そこそこの数の馬か牛が道を外れることなく進み続けている。道に残った微かな轍の跡からも、複数の馬車ではないか、という話だ。




「道をたどって数時間歩きましたが、すぐそこの糞も乾いていませんでした。数時間あれば表面は乾きます。そこから考えられるのは、この先に馬車の集団がいるということです」


「おぉ、ならこのまま進むべきだな。集落があるだろう」


「そうしましょう!」




 人がいる希望が見えてはしゃぐ御一行。でもな、糞見て喜んでるんだぜ? ちょっと嫌だよ。


 そんなこんなで俺達は昼飯を終えると立ち上がる。そして、道をそのまますすむ。


 そんな俺達に、お目当ての馬車の集団が見えたのは夕方だった。この道を行く人の休憩地らしき、地面がむき出しになって広がる場所に固まって火を囲んでいた。


 俺達が近づくと、かなり警戒された様子で人が出てくる。俺は最後尾から爽やか君とその集団のやり取りを見ていると、髭熊に呼ばれた。




「神崎、来てくれ。話が拗れそうなんだ」




 爽やか君にできないことを俺ができるわけないだろ、という言葉を何とか飲み込んで爽やか君のところに向かう。


 でもさ、俺目つき悪いから余計警戒されるんじゃない? 初対面で信用された事ないんだけど。ほらやっぱり。


 彼らの警戒レベルが一段高くなった。剣に手を掛けたぞ。




「九城さん、状況を教えていただけますか?」


「あ、神崎さん。実は……」




 爽やか君から事情を聴く。どうやら彼らは俺達が盗賊だと勘ぐっているらしい。


 ……当然だよな。こんな武装集団がいきなり現れたら、誰だって警戒するだろ。しかし、どうしたものか。俺の愛すべきバイブルだと、こういう時は何故か武力を行使するんだよな。そんでもって「お前らを殺すなんて簡単だ。でも盗賊じゃないからしない」とか言い張って、何故か認められる。ファーストコンタクトが最悪過ぎんか。何故なんだ。


 もしくは盗賊に襲われているところを助けるのも定番か。こいつら今から襲われてくれねぇかな。すぐに助けるから。




「仕方ないですよ。見ず知らずの人間を簡単に信じるほど不用心では、簡単に殺されてしまいます」




 魔物もいるし、盗賊もいるんだろ? 警戒するに越したことはないぜ。寧ろ、おつむの弱い人間でなくて良かったよ。


 俺は営業スマイルを装備して彼らに向き合う。




「その人相で盗賊じゃないとは無理がある」


「よく言われます。ですが、本当に盗賊じゃないのですよ。心当たりありませんか? こういう人相の人間がいる集団の」




 彼らは顔を見合わせる。この世界に生きる彼らには心当たりがあるのだろう。彼らが出した答えに俺らは全力で乗っかるだけだ。


 ちなみに俺は心当たりなどない。ヤクザとかマフィアとかじゃね、知らんけど。




「まさか傭兵団か?」


「はい。その通りです」




 ごめん。大嘘だわ。




「だが、何でこんなところにいる? 傭兵団が壊滅でもしたか?」


「ええ、そうなんですよ。命からがら逃げ出した次第です」




 これは事実。空飛ぶ即死トラップにやられたからな。




「それは……大変だったな。貴族の無茶振りに巻き込まれたか」


「おかげで傭兵団は壊滅。ほうほうのていで逃げたため、お金すら持っていないのです」




 この世界、貴族いるのか。馬車で移動しているし、よくある中世ヨーロッパくらいの文明なのかね?




「金もないのか。街に入れんぞ」


「そうなんですよ。なので何か買い取っていただけませんか?」




 街に入るのに金要るのかよ。入場料的なものか。夢の国かよ。だが金は必須だな。何が売れるんだろう。




「む、そうだな……おい、お前ら、何が買い取れる?」


「あー、食料だな。迷宮都市に行くから、それくらいしか必要ないだろ」




 おい待てそこの。迷宮都市と申したか。マジで?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る