第55話 戦闘中に情報喋るのはね

 イケおじは片手で刀を構えた。それを見て、摺木はニヤニヤと笑う。




「行け、てめぇら」




 その言葉に動き出した人数は4人。その中に茶髪君がいた。




「西木! 伊藤! 牧野! 山郷! 俺だ、大和だ!」


「アハハッ、無駄無駄。俺がしっかり調教してやったんだ。楽しかったぜ? 大の大人が惨めに泣いて床を舐めるのは」


「貴様ッ!」




 イケおじは摺木に切りかかろうとするが、茶髪君に遮られてしまう。茶髪君を切ることができず、避けることしかできないイケおじは、一時後退した。




「俺のスキルは心をへし折ってやったヤツを支配できるのさ。今のこいつらは俺の言うことを何でも聞く奴隷だな」


「貴様は人を何だと思っているッ!」


「は? いきなり何? もしかして人権がーとか言うの? 俺とこいつらが対等とか思ってんの? そんなわけないじゃん。俺が上に決まってんの。オッサンも同じ目に合わせてやるよ」




 ここまで下衆が極まっていると、いっそのこと清々しいな。でもよかった。こいつを殺しても何の痛みもないや。


 というか、さらっとスキルのこと言ったなコイツ。馬鹿だろ。発動条件がわかったら対策立てられるのに。




「ところでさぁ、お前、その目がうぜぇわ。睨んでんじゃねぇよ」


「それは自意識過剰ですね」


「はぁ? ふざけんなよ」


「至って真面目ですが?」




 睨んでないから。俺は普通に見下しているだけ。自意識過剰じゃないかな?


 イライラしているように摺木は目を吊り上げるが、次に瞬間には笑い始める。


 大丈夫か、コイツ? 情緒不安定過ぎない?




「その態度がいつまで続くか楽しみだ。あ、そうだ。あの紫色の髪のガキをお前の前で犯したら楽しいだろうなぁ。お前が泣いて謝っても許さねぇから」




 は? 何言ってんのコイツ? 発言内容もクソだが、コイツがアイナに勝てるわけないだろ。アイナは控えめに言って天才だぞ。勝てる要素が皆無だ。




「それにしても、いい世界だよなぁ。地球で何人も甚振って自殺させたけど、途中から作業だったんだ。ここは警察もいないし魔法もスキルもある。殺しても足なんて付かないし、刺激が強くてすごく楽しい。キモオタのオカルトグッズも使えるじゃん。本人よりも有能だよ」




 なんかペラペラしゃべり始めたけど、コイツがこの集団転移の元凶か? オカルトグッズでこんなことになったの? 地球ってファンタジーだったのか。




「随分と良く回る口ですね」


「あれ? 怒った? どこで怒ったの? 教えてよ。ねえねえ!」


「弱い犬ほどよく吠える、とはよく言ったものです」


「アァ? てめぇ、殺すぞ」




 凄む割にはかかってくる様子はない。あの実力があれば、喜び勇んで殴りかかってきそうなものだが、不自然だ。吹っ掛けてみるか。




「殺すと言うならかかってきたらどうですか? あのゴブリンを倒したあなたなら、私くらい余裕でしょう?」


「く……てめぇら、殺れ」




 これは、あれだな。スキルで洗脳した人のステータスを奪えるタイプなのかもしれない。だとすると、アイナの言っていた技量の違和感も納得だ。


 俺は刀を構えたイケおじを制して後ろに下がらせると、一歩前に出て本気で戦うことにした。




「ほらぁ、知り合いだろぉ? 切っちゃっていいのぉ?」




 うわぁ、うぜぇ。でもいいや。外道の戦い方ってのを教えてやろう。


 4人が四方から攻撃してくる。だから俺は、四方に向けて大量のストーンランスを発射した。全身に石の槍が突き刺さり、四人全員が即死した。




「な、お前……。知り合いだろ!」


「それが何か? これ以上苦しまないように即死させてあげるのも優しさでしょう?」




 心が折られている以上、洗脳を解除できたところで半死人状態だ。心に深い傷を負って苦しんで生きるより、洗脳状態で即死させる方が幸せだろう。他人はどう考えるかは知らないが、俺はそう思っている。




「……何しやがった」




 簡単さ。装備品に魔法陣を刻んだ金属製のカードを大量に仕込んでいるだけ。今回はストーンランスだけだったが、他の魔法陣も仕込んである。


 だが、わざわざそれを話すわけがない。勝ったわけでもないのに話すほど、俺は馬鹿じゃない。




「言うわけねーだろ、バーカ」




 全力で見下したような言い方をする。こう言うことで、コイツの性格なら激昂するはずだ。なんせ、他人を見下すタイプだから、他人に見下されるのは我慢ならないから。




「ぶっ殺してやるよ!」




 はい勝った。俺に視線が集中した瞬間、足元に起動の魔力を流した。同時に、地面の至る所から鋼鉄の針が摺木たちを貫いた。


 ここの調査にかまけて、俺はトラップを生成していたのだ。物体の形を整える魔法で地中に魔法陣を描き、起動のための紐を埋め込む。一度きりのトラップだ。


 摺木以外は即死。摺木は両足を、足の裏から膝にかけて鉄の針が刺し貫いていた。




「あぁあぁ……痛い、痛い……」




 俺は無言で槍を取り出すと、尻もちをついた姿勢で痛みに耐える摺木に向かってゆっくり一歩を踏み出す。

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