第54話 最後の面倒事

 以外にも生存者たちはすぐに戻ってきた。部屋ごと荷物がなくなった人は、死んでしまった人の荷物を持ってきたようだ。




「全員集まりましたね。ついてきてください。案内します」




 爽やか君の声が聞こえた。そして、爽やか君を先頭に列をなして移動し始める。俺とアイナは最後尾だ。


 改めて後ろから全体を見ると、人数が減っている事が良くわかる。メタボゴブリンとの戦闘後時点のこちらの生存者は60人。それが今は38人だ。火葬場へのたった一撃で3分1が死んだことになる。


 俺の知り合いの多くが生き残っているのは幸いと言うべきか。だが、槌術の先生である松村さんや、俺の教え子の内、魔法陣を教えていた金田さんが亡くなってしまった。少しばかり心が痛む。




「神崎さん」


「どうされましたか、後藤さん」


「ずっと黙っているといろいろ考えちゃって。何か話そうと思ったんです」




 確かに門番君の言う通りだ。別の何かに没頭することで、辛い気持ちを紛らわせることができる。だから、俺はできるだけ前向きな話をしようと思う。




「後藤さんはここを出て街についたら何がしたいですか?」


「そうですね……。俺は一日中寝ていたいです」


「それは幸せでしょうね。同感です」


「神崎さんは?」




 俺か? そうだなぁ。ダラダラゴロゴロしたいのは確かだし……。そうだ。




「私はポテチでも食べたいですね」


「ははっ、俺はコンソメ派です」


「私はしょうゆ派です。天導さんは?」


「わたくし? ポテチを食べたことがないわ」


「なら榊原さんに作ってもらいましょう」


「それは楽しみだわ」




 他愛もない会話をしていると、それがどんどん伝染していく。気がつくと、お通夜の行列だった雰囲気が少しだけ和らいでいた。




「ここです。一時休息です」




 爽やか君の声が聞こえた。月明かりに照らされた場所には見覚えがあるので、俺は先頭に向かう。




「神崎さん、お願いします」


「はい」




 俺は渓谷の手前に立つと、マジックバッグから自作の橋を取り出した。ガシャンッと音を立てて、頼りない橋が渓谷に架かる。




「……これは……」


「材料の節約と重量軽減のためですので、文句は受け付けません」




 まぁ、文句を言いたくなる気持ちもわかる。何たって、梯子を横倒しにしただけにしか見えないからな。手すりはロープを張る予定だから、支柱だけは一定間隔であるぞ。




「最初に誰かがロープを持って向こうに渡る必要があります。ただ、ある程度戦える人の方が良いでしょう」




 向こうで魔物と戦う可能性もある。渡るのは一人ずつの予定なので、増援を送るにしても、時間稼ぎできるだけの強さは必要だ。




「俺が行こう」


「では斎藤さん。お願いします」




 髭熊が立候補したので、腰に緊急用のロープを結び、手すり用のロープを持たせる。


 はー、すげえ。あの体格で安定感が半端ない。簡単に設置していくじゃん。


 あっという間に手すりロープを設置し終えた髭熊は、渓谷も向こうから手を振った。




「最初は戦闘職、守れる人員が揃えば生産職が渡ってください。一人ずつです。慌てないでください」




 爽やか君の指示に従い、少しずつ人が渡っていく。高所恐怖症の人はいなかったようだ。俺は殿として最後に渡ることにしているので、しばらく待機だ。


 門番君が渡り、残りは俺とアイナとイケおじになった時、一番の懸念事項がやって来た。どうやら死んでいなかったらしい。


 アイナだけでも渡らせよう。場合によっては死ぬかもしれないし、見せたくない姿を見せることになる。




「天導さん、早く渡ってください。そして、出発するように九城さんに伝えてください」


「それって……」


「早く」


「……わかったわ」




俺の態度で何が起きたか伝わったのだろう。渋々といった態度でアイナは頷いた。




「あなた。絶対に戻ってきて。約束よ」


「……約束だ」




 アイナはそう言って渡ってゆく。向こうに合流し全員が動き出した。最後にアイナは心配そうな顔で振り返ったのが、とても印象に残った。




「死ねなくなったな」


「そうですね。意地汚く生き残るとしましょう」




 イケおじよ、何故ニヤニヤと笑うのだ? 俺たちはこれから圧倒的に不利な戦いに臨むんだぜ?




「敵は摺木か?」


「そうでしょうね。数は13。内1つが強敵の反応ありです。あの強いゴブリンより少し弱いくらいでしょうか」


「むぅ……」


「戦いようはありますよ」


「神崎の戦い方は外道過ぎる」




 それは光栄ですな。実に弱者の俺らしい。


 そんな軽口を叩いていると、招待していない客人が現れた。




「おやおや、お出迎えかい? それにしては少ないけど好都合だ」




 そこには嫌らしい笑みを浮かべた摺木が姿を現す。そして、両脇に側近らしき立派な装備をしたヤツが2人。半円状に俺たちを囲うように10人。その中に茶髪君もいた。




「いやー、してやられたよ。あの化け物に襲われてさ、襲撃準備がパーだよ」


「それは良かったです」


「良くねぇから。馬鹿かお前」


「あなたほどではありませんよ」


「お前うぜぇわ」


「それほどでも」




 おーおー、短気だねぇ。バッカじゃねぇの。俺コイツ嫌いだわ。




「まー良いわ。お前みたいなスカしたヤツが泣いて許しを請う瞬間がすっげぇ楽しいから。精々楽しませてくれよ」




 ワァオ、何て下衆発言。容赦しなくていいのは楽だね。

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