第51話 格下の戦い方ってのを教えてやるよ

 2対1になって攻撃を止めたメタボゴブリンに、俺から攻撃を仕掛ける。メタボゴブリンは俺のことを脅威と思っていないのか、アイナに意識が向いているようだ。


 無造作に振るわれたどでかい腕を搔い潜り、俺は柄杓を取り出す。中にはあっつあつの溶けた鉄が入っている。それを、メタボゴブリンの目に向かってかけた




「グギャアアァァァ!」




 いい鳴き声を出すではないか、メタボゴブリン君。残酷とか、卑怯とか声が聞こえてきそうだ。でもね、これ、戦いなのよ。格上を倒すには正攻法なんて選べないの。勝つためには何だってするのが俺流さ。だから、こんなこともしちゃう。


 俺は金属のカードを取り出し、首元の鎧の隙間を狙って次々投げ込んでいく。カードには丈夫な紐が繋いである。後はわかるな? こうなるのさ。




「グギャアアアアァアァァァァ!!!」




 盛大に悲鳴を上げるメタボゴブリンは、武器を手放して地面を転がる。鎧の隙間から、一定間隔で炎が吹き出ている。




「……あなた、何したの?」


「溶けた鉄を目に流し込んで、鎧の隙間にお手製トラップを放り投げた」


「……酷いわ」


「俺がこいつを倒すには、これくらいしないと勝ちようがない」




 だって、まともに攻撃が通らないんだぜ? だったら弱点を積極的に狙ってダメージを蓄積させるしかないじゃん。楽しむために甚振っているわけじゃないから。そこを勘違いしないでよね。


 あ、魔鉄製カードに刻んだ魔法陣の使用回数が切れたな。起動の魔力が持っていかれなくなった。




「グギャァァ……」




 まだ立ち上がるか。見上げた根性だ。その根性で痩せろ。




「アイナ、止めは任せる」


「わたくしが?」


「俺の攻撃じゃまともにダメージ通んないし、これ以上は甚振ることになる。せめて最後は苦しませることなく介錯したい」


「……わかったわ」




 アイナはそう言うと、エクスカリバー(仮)を持ってメタボゴブリンのもとに向かう。そして、ふらつくメタボゴブリンの頭を刎ねた。




「流石に再生はしないようね」


「再生すんのか、こいつ」


「切った腕が生えてきたわ」


「どこぞの漫画の世界かよ」




 とりあえず、これでこちらの戦闘はほぼ終わった。東門は門番君が指揮を執って残党狩りをしているし、アイナが来ているなら西門も大丈夫だろう。南門は知らん。運よく摺木が死んでないかな。




「まだゴブリンは残っているわ。殲滅しに行くわよ」


「いや、俺は南門に行く」




 俺は唖然としているイケおじたちに南門の様子を見てくることを伝えて立ち去る。イケおじたちは残党狩りをするようだ。アイナは俺についてきた。




「何で南門に行くの?」


「摺木の戦い方を見ておくのさ。ただし、気持ちのいいものではないぞ。覚悟はしておけ」




 大体予想はつくがな。きっと胸糞悪い戦い方だろう。


 そして、俺の予想は当たっていた。




「何て戦い方……」


「あいつがやりそうな戦い方だな」




 摺木は立派な装備をしている。多分、洗脳したメンバーから接収したのだろう。そして、前衛のメンバーは貧相な装備で戦わされている。怪我をしようが何だろうが、摺木の盾として並ばされていた。既に何人も死人が出ている様子も見える。




「回復魔法が使える人もいるのに、何で助けないのよ!」


「摺木にとって、彼らはゴミ以下の価値しかない。ゴミに回復魔法をかける意味はないわな」


「最低よ」


「彼らを助けるなんて言うなよ? 洗脳が解かれない限り、彼らは摺木の味方になる」




 あぁ、デカゴブリンに2人殺されたな。飛んでいく上半身を見て、摺木は笑っていやがる。猛獣と人間を戦わせて楽しむ昔の貴族かよ。


 しかし、戦力が減っているのに摺木は何で笑っていられる? 戦場全体が違和感しかないな。




「摺木が動くわ」




 デカゴブリンに何人も殺され、埒が空かないと考えたのか、摺木が動いた。目を見張るほどの素早い動きで、デカゴブリンを一刀で断ち切った。




「……強いな」


「でも不自然ね。ステータスとスキルが釣り合っていないわ」


「それを詳しく」




 アイナの目には不自然に映ったようだ。話を聞くと、ステータスがただ高いだけで、剣の技術は全くないに等しいらしい。




「技術だけで言えば、あなた以下よ」


「それは俺を貶しているのか?」


「まさか。あなたは頑張っているわよ。格好いいわ」


「そう?」




 へー、そうなんだ。おじさん、もっと頑張っちゃおうかな?


 冗談はさておき、見るべきものは見たので撤収する。俺たちが北門に戻ると戦闘はほぼ終わっていた。




「あ、神崎さん……」


「九城さん、被害のほどは?」


「……死者11名。怪我人はスクロールで助かりました。欠損や後遺症は今のところありません」




 思い詰めた表情の爽やか君は、絞り出すように声を出した。全員で生き残ると言っていたこともあり、誰かが死んだことが相当堪えているようだ。


 こういう時はイケおじの出番だろうに。俺では役不足だ。でも、イケおじも遠くにいるけど、表情に陰りがあるな。しゃーない。面倒な役回りだが、やってやろう。




「九城さん、自分を責めてはいけませんよ」


「ですが……」


「九城さんの考え方が間違っているのです。九城さんは的確な指示を出して被害を最小限に食い止めました。死者を悼むのは構いませんが、九城さんが見るべきは今、生きている者たちです。死者を数えて悲嘆に暮れるよりも、生者を数えて自身の生かした命を考えなさい」




 どれだけ悩んでも、過去を変えるなど不可能。ならば、未来のことに頭を使うべきだ。悲しみは時間が薄めてくれるから、生者の事を考えて時間を稼ごう。


 最初よりも幾分かマシになった顔の爽やか君は、お礼を述べて立ち去って行った。あの様子なら大丈夫そうだ。素直だからこそ、俺の上っ面な言葉遊びも素直に受け取る。




「たまにはあなたもいいこと言うのね」


「たまにって、おい」




 俺はアイナの頭をぐしぐしと撫でる。抗議のつもりだったが、アイナは少し嬉しそうだった。


 アイナはMなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る