第50話 適度な運動は大切

 大和さんを助けた後、わたくしは周囲を確認しました。無残に殺されている人が2人。イノシシ狩りで慣れていなければ吐いていたでしょう。引っ張ってくれた神崎に感謝です。




「お前が犯人かしら? そうよね。あの大和さんを圧倒できる存在は、お前ぐらいしか見当たらないもの」




 わたくしから見ても、大和さんの戦闘能力は高いです。特に、居合はとても早く、よく見ておかなければ命中してしまうでしょう。


 気配探知で探っても、目の前のとても大きなゴブリンが最も危険だと感じ取れます。このゴブリンが敵の大将で決定ですね。


 わたくしは少しだけ本気を出して剣を振るいます。




「あら? 躱しましたか」




 あらあら、躱されてしまいました。縦に真っ二つの予定が腕一本だけとは、甘く見過ぎましたわ。これでは足を掬われてしまいます。


 とても大きなゴブリンをみると、少し怯えているようです。そんなにわたくし怖いかしら。少し傷付きました。




「凄いですわ。腕を再生するなんて。でも、鎧は再生しないのね。それで大丈夫かしら?」




 切り落としたはずの腕が再生してしまいました。そういえば、鎧を切った時に少し硬かったですね。あの大きなゴブリンと違って、鎧も特殊なものなのでしょうか。神崎が喜びそうです。これ以上は傷つけないように気を付けましょう。


 わたくしは無秩序に振るわれるギザギザの剣を全て躱します。


 これはいい訓練になりそうですわ。しばらくはこうして回避の練習でもしましょう。これほど動ける相手も少ないですから。




「嬢ちゃん、何故攻撃しない! どうしたんだ!」




 大和さんの声が聞こえました。心配してくださっているようです。ちゃんとお返事をしなくては。




「大丈夫ですわ。少し戦闘に慣れようとしているだけですの」


「戦闘に……慣れる?」




 何故、疑問形なのでしょう。神崎はよくゴブリン相手にこうしていましたわ。命を懸けた戦闘が一番成長するのですって。それにしても神崎、ゴブリン相手では物足りないのではなくて?




「おや、これは……私の出る幕はなさそうですね」


「神崎! 嬢ちゃんを助けてやってくれ!」


「助ける? あれは遊んでいるだけです。放っておいても問題ないでしょう。我々は負傷者の救助と残党の討伐をしましょう」




 神崎が来ましたわ! でも、わたくしと一緒に戦うつもりはないようです。しかも、この場から離れようとまでしています。何ということでしょう。何とかしなければ。




「あなた、緊急事態です。助けてください」


「天導さんに遊ばれているゴブリンを助ければよろしいですか?」


「おバカ! わたくしを助けなさい」


「どう見ても圧勝しているのに、何処に助けが必要なのでしょうか」




 あぁ、もう! 擦り傷程度の人達を助けるのに、何故わたくしを助けないの! ほら、そこの人、神崎にわざともたれ掛からない。人助けの迷惑でしょう!


 しばらくして、周辺の怪我人を治療し避難させ終えた神崎が、遠くから声をかけてくる。




「皆さんを助け終わりました。もう倒して構いませんよ」


「嬢ちゃんは時間稼ぎをしていたのか」


「そうでしょう。天導さんが本気を出せば簡単に終わりますが、周辺に被害がでます。天導さんはそれをわかっていて、時間稼ぎに徹していたのです。天導さんはよく勘違いされますが、優しい子なのですよ」




 もう、もう、もう! そんなこと全然考えていなかったのに! 大和さんとか坂口さんと楠さんが勘違いしているじゃない! 神崎、覚えておきなさいよ!











 おっと、寒気がするぜ。まだ春先っぽいからな。三寒四温の季節さ。という冗談は置いといて、アイナが俺を睨みながらメタボゴブリンの攻撃を避けている。なんて器用なんだ。


 それにしてもどうしようか。参戦したくても、俺の戦い方ではドン引きされること請け合いだし、俺のステータスだとメタボゴブリン相手に余裕ないしな。




「天導さん、早く仕留めてください」


「あなたも手伝いなさいよ」


「神崎、助けに行ったらどうだ?」


「大和さん、私があのゴブリンに勝てる要素がありますか?」


「……俺の知る限りないな」




 でしょうね。俺の戦い方は基本が外道だ。真面目に戦った姿しか知らないイケおじでは、そう答えるしかないだろう。


 でも、いい加減アイナに加勢しないと、後で俺が絞められる気がする。仕方ない。助けるか。




「私の戦い方は真っ当ではありません。参考になるかはわかりませんが、お見せしましょう」


「勝てるのか、アレに?」


「まさか、私は援護をするだけですよ」




 そう、援護だよ。それで殺せる可能性もなくはないが、メタボゴブリンには気を引くくらいが関の山だろう。たぶんな。




「遅いわよ」


「仕方ないだろ。俺にこいつは荷が重い」


「……嘘つき」


「嘘じゃないって」




 だって俺の命がかかっているんだぜ? 嘘で死にたくねぇわ。


 文句を言っているアイナを放置して、俺はタイミングを見計らってメタボゴブリンに突きを放った。




「硬ってー!」


「本気で戦いなさいな」


「俺はいつだって本気だよ」




 本気で確認のつもりだったから、適当に魔力を込めた力の籠っていない槍だったけど、鉄くらいなら貫通できるんだぞ。こいつの鎧は特殊な物だな。貰おう。


 俺はメタボゴブリンから追剥をすることを決めて、本気で戦うことにした。

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