第46話 外道が基本さ

「な……な、何ですか、あれは……」


「火属性魔法のエクスプロージョンですね。九城さんの法術によるバフも入っているでしょうが、大した威力です」




 いいなぁ、俺もあれくらい派手に魔法が使いたい。魔法陣Lv.6でも、まだエクスプロージョンのスクロールは作れていない。つまり、火属性魔法Lv.7以上が必要なわけだ。




「さてさて、こちらもスクロールを構えましょう。スクロールと魔力回復ポーションの在庫は十分です。皆さん、経験値稼ぎだと思って盛大にやってください。代金は敵の魔石と素材で良いですよ」


「代金は取るんですね」


「出血大サービスですよ」




 血を流すのは敵だがな。


 各自がスクロールを取り出して起動する。様々な属性の魔法が飛び出して、結界の境界線の向こうにいるゴブリンたちを薙ぎ払っていく。こちらに攻撃できず、一方的に数を減らしていくこの戦いは、ほとんど作業のようなものだ。




「……一方的ですね」


「こちらに被害が出なくて良いではないですか」




 ハッハッハッハ、ゴブリンがゴミのようだ! 何? まともに戦え、だと? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。これが俺のまともな戦い方だ。策を弄し、自分の土俵に相手を引きずり込み、敵を嵌め殺す。正々堂々なんていうヤツは、その考え自体が正々堂々ではないことを知れ。




「お? 敵の大将が動くようです。警戒をしてください」




 そのゴブリンは大柄で全身鎧を着ていた。デカい斧を担ぎ、こちらに突っ込んでくる。




「コイツ、結界が効かないのか」


「ど、どうすれば……」


「落ち着いてください! ここは俺と神崎さんが抑えます。皆さんは殲滅に注力してください!」




 えっ? 俺もやるの? 謹んで遠慮したいけど、門番君一人では無理だろうなぁ。仕方ない。ちょっと戦い方ってのを伝授しますか。


 俺と門番君は突っ込んでくるデカゴブリンと対峙する。そしてスクロールを起動した。


 デカゴブリンは地面から生えた土壁を5枚破壊して停止した。低い声でグギャグギャ鳴くデカゴブリンは、壁を壊してなお無傷のようだ。そして、当然のように結界内部に踏み込んでくる。




「結界の内部に入れないわけではありませんが、嫌がる素振りも無いとは……。考察のし甲斐がありますね」


「神崎さん、今はそんなことどうだっていいでしょう!?」




 まぁ、最初に爽やか君が無理やりゴブリンを結界内部に連れ込んだはずだ。別に入れないのではなく、単に嫌がるだけのものなのだろう。そして、一定以上の強さがあれば、その効果を無視できる、といった具合か。アイナの予想が当たったな。後で意見を貰おう。




「神崎さん! どうして攻撃しないんですか!」


「おっと、すいません。考え事をしていました」


「それは後にしてください!」




 怒られちった。てへぺろ。さーて、真面目に戦いますか。余裕で勝てそうだし。


 ステータスはデカゴブリンの方が高そうだが、何分知能が足りていない。俺がコソコソ準備しているものに気がつかないのだから。




「さっさと終わらせて、北部の増援に向かいましょうか」




 俺はスクロールを取り出して起動する。先ほど使った、ストーンウォールの魔法だ。ただし、発動場所はデカゴブリンの足元だが。


 急に地面から壁が勢いよく飛び出したらどうなると思う? 正解は簡単だ。デカゴブリンは空を飛んだ。


 俺は効かないと分かっているスクロールで攻撃し、こちらに注意を向ける。そして、デカゴブリンが着地すると同時、その足元が崩壊し穴に落ちた。俺が物体の形を整える魔法で落とし穴を掘ったのだ。




「グギャ!?」


「目隠ししましょうねっと」




 俺は生活魔法の内、日陰を創る魔法を穴の上に発動する。穴を塞ぐように黒い幕が展開した。


 これは、本来頭上に向けて発動し、黒い幕が日を遮って日陰を創るものだ。当然、触ることはできない。


 しかし、俺はこれを目隠しとして使った。俺がいま手に持っている物を見たら、デカゴブリンに見られたら警戒されるからな。




「神崎さん、それって……」


「これと言って特別なものは何もない、ただの高温で溶けた鉄です」


「えぇ……」



 ドン引きされちまったよ。でもさ、突然銃とか出す方がおかしくない? 溶けた鉄なんて熱するだけでできるんだぜ? 村正さんに頼めば楽勝よ。


 柄杓みたいな形の容器を使って、デカゴブリンの頭上に溶けた鉄を流し込む。きっと、突然暗くなった頭上を、反射的に見上げているだろうデカゴブリンに直撃するだろうなぁ、と俺は呑気に考えていると、穴の中からゴブリンの悲鳴が聞こえた。




「うわぁ……」


「敵に同情はしてはいけません。どんな手段を使ってでも勝たなければ、明日は来ませんよ」




 どれだけ分厚い鎧を着こもうが、顔面に溶けた鉄をかければ問題なかろう。寧ろ、鎧を簡単には脱げないからこそ、大ダメージを狙える。




「やりましたか?」


「神崎さん、それはフラグです」


「ならばへし折りましょう」




 言ってみたかったんだもの。そもそも、まだ生きているのは気配探知でわかっている。だから大詰めといこうか。


 俺はマジックバッグから巨大な金属の塊を取り出し、穴の上に設置する。金属の塊はΦの形をしていて、真ん中の棒の部分に鋭い刃がついている。




「これはマジックバッグでないと持ち運べませんね。重すぎます」


「神崎さん、まさか……」




 デカゴブリンがジャンプして出てこようとしたら、刃に体当たりすることになる。怒りに我を忘れたあの力強さのジャンプなら、綺麗に真っ二つになること請け合いだ。ほら、こんなふうに。ミスリルの分厚い刃は流石だね。




「う……」


「ここは戦場です。吐いている時間はありませんよ。しかし、これはグロテスクですね。今回は許しましょう」




 デカゴブリンの死体から少し離れた門番君は、地面に胃の中のものを吐き散らした。

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