第47話 圧勝が基本ですわ

「はぁ……」


「そう辛気臭いため息を吐くなよ、嬢ちゃん」


「斎藤さんは不安でなくて?」


「後藤は心配だが、神崎は大丈夫だろ」


「そうかしら?」


「寧ろ神崎が馬鹿やって、後藤が大変な目に合ってないか心配だ」




 戦力的に考えると、わたくしの方が後藤さんに付くべきだと思いますけれど、斎藤さんは違って見えるのですね。不思議です。


 神崎は賢そうに見えて、その実何も考えていない事も多く、適当な人間です。その奇々怪々な戦術は恐ろしいですが、純粋な戦闘力は後藤さんよりも低い。だから心配なのです。




「この作戦も神崎が考えたんだろ? あいつとは戦いたくねぇな。何されるかわかったもんじゃねぇ」




 結界が存在しているうちに、遠距離から敵を殲滅する作戦。結界が消滅するまで待ち、正面から打ち合おうとしていた九城さんが目を点にしていましたね。面白かったですわ。


 魔法が使える人が少ないと言った言葉に、いつの間にか用意していたスクロールと魔力回復ポーションを大量に配り、反論を封殺したあたり、神崎は未来予知でもしていたのでしょうか。いえ、違いますね。たぶんですが、錬金術と魔法陣のスキル上げのために量産していただけでしょう。




「見えましたわ」


「よし、全員隊列を組め! 九城からの合図で攻撃を開始する!」




 斎藤さんが全体に声をかけました。その数分後、北門から爆音が聞こえてきました。火属性魔法のエクスプロージョンを使用したようですわね。威力は控えめでしたが、十分でしょう。スクロールで倒すのが基本の考えですから。




「攻撃開始!」




 色とりどりの魔法が結界の外にいるゴブリンたちに向かって行きます。しかし、反撃はありません。いえ、ゴブリンマジシャンの魔法が飛んできましたね。大量の魔法に打ち消されましたが。魔法で魔法を打ち消すことができるのですね。初めて知りました。




「あら? あの大きなゴブリン、走ってきていませんか?」


「ぬ? チッ。嬢ちゃんの予想通りかよ」


「来るのは1匹だけみたいですわ」


「そのようだ。嬢ちゃんはここにいてくれ、俺が……」


「わたくしが行きますわ」




 わたくし、指揮を執りたくないもの。それにしても、神崎は何故か知っているかのような態度をとっていたのは何故かしら? 人の心でも読めるのでしょうか? いいえ、それはないわね。あり得ないわ。




「嬢ちゃんが?」


「わたくし、強いのよ?」


「天賦の才は認めるが、その自信に足を掬われるぞ」


「肝に銘じておくわ」




 わたくしはそう言い残すと、大きなゴブリンの進路上に立ちました。そして、神崎から貰った綺麗な剣を構えます。


 大きなゴブリンは止まる様子を見せません。この勢いでぶつかられると、切った血しぶきで折角の衣装が汚れてしまいます。綺麗にする魔法はありますが、それでも嫌なものは嫌です。このゴブリンを止めましょう


 わたくしは土属性魔法のストーンウォールを発動します。これにぶつかれば痛いでは済まないでしょう。


案の定、大きなゴブリンは大きな音を立てて石壁に追突し、顔から血を流しました。




「グギャァァァァ!」


「うるさいですわ」




 ストーンウォールを迂回した、大きなゴブリンが振り下ろした斧を剣で受け止めました。力はそこそこあるようですわね。


 それに、この剣は恐ろしいほどの切れ味です。単なる金属なら易々と切り裂けるほどなのです。それを受け止めるだけの斧なのですから、きっと良い物でしょう。神崎に渡せば喜んでくれるでしょうか? そして、褒めてくれるでしょうか? 決めました。渡しましょう。できるだけ綺麗な状態で渡したいので、打ち合いは避けましょうか。


 大きなゴブリンはわたくしを叩き潰そうと、両手で斧を天に掲げました。格上を目の前にして、なんて隙だらけな攻撃でしょう。この程度の知能なら、無駄に戦力を減らし続けたことにも納得がいきます。




「隙が多すぎますわ」


「グギャ!?」




 わたくしは大きなゴブリンを飛び越えるようにして、斧を持った両手を切り落としました。血しぶきは衣装についていないことを確認しながら着地します。


 斧がドスンと地面に落ちました。大きなゴブリンは振り返ってこちらを睨みつけてきました。その目は恐怖に揺れています。


 かつての使用人たちの顔が浮かびました。わたくしのような子どもが、大人顔負けの知識と物言いでは仕方のないことかもしれません。今回も体格差を覆すような事態なっているのです。理解が追い付かないのでしょう。




「早く終わらせましょう。甚振るのは下衆のすることだ、と神崎も言っていました」




 わたくしは大きなゴブリンの首を切り落としました。絵具のような血が吹き出ています。最初はこれだけで気分が悪くなったものですが、慣れましたね。ゴブリン殲滅も順調に進んでいるようです。斎藤さんもいらっしゃいますし、問題ないでしょう。


 わたくしは斧を回収して、マジックバッグに入れておきます。




「これでよし。神崎は褒めてくださるでしょうか?」




 わたくしが一人で大きなゴブリンを倒したこと、きっと神崎は褒めてくれるはずです。神崎はわたくしのことを知って尚、わたくしに普通に接してくれました。それがとても嬉しいのです。だから、きっと褒めてくれることでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る