異世界ものを嗜む若おっさんがマジで異世界に行っちまう話（仮題）

第43話 ハメ技は基本

　いつの間にか面会は終わり、会議室に戻ってくる。

「共同戦線を張ることができて、幸いでした」

　爽やか君はそう言うが、俺は心中穏やかでない。俺は関わりたくないので、奴のことは爽やか君に丸投げしよう。事態が悪化したら、その時はその時だ。諦めよう。

「では、私はこれで」

「神崎さんは何をするのですか？」

「私のできることをするだけです」

　俺はさっさと退出する。その足で建物の外に向かった。アイナもついてきた。

　建物を守る結界の端はすぐそこに迫っていた。まだ建物が普通に見える。ついでにゴブリンも見える。ぶっ殺すか。

「ちょっと」

「何だ？」

「あなたどうしたの？　様子がおかしいわよ？」

「可笑しいなら、笑えばいいんじゃないか？」

「そういう意味ではないわよ！」

　怒られた。でも、おかげで少しだけ気が晴れた気がする。

「あの男と会ってから、何で急に態度を変えたの？　顔見知り？」

「いや、見たことも、聞いたこともない」

「じゃあ、なんで？」

　答えたくねぇなぁ。心配してくれるのはこそばゆいものがあるが、古傷に触れられたくない。はぁ……。

「あいつは信用できない」

「確かに、あまりにも簡単に事が運んだけれど、今考えると安請け合いしすぎよね。それに、急な話なのに一切動揺していなかったわ。命の危険が迫っていると聞いて、あそこまで平然としていられるものかしら。おかしな点が浮かび上がるわね」

「そうじゃない」

　大して動揺しなかったのは、俺とアイナも一緒だろうに。そもそも、そんな理論的なことは何一つなく、俺の目がそう訴えているだけで、証拠など何一つない。だが、それでも確信をもって言える。あいつは下衆の部類だ。

「いいか、アイナ。あいつには近づくな。絶対だぞ」

「いきなり何よ。でも、あなたがそこまで言うんだもの。何かあるのね」

　察しが良くて何よりだ。アイナなら問題なく勝てるだろうが、それはアイナに人殺しをさせることになる。それは俺には許容できない。

「少しはマシな顔になったわね」

「無愛想ですまんな」

　長年、まともに表に感情を出していない俺の顔色を読み取るか。流石だな。そう言うアイナは、どこか面白そうな表情をしているぞ。

「さて、目の前にゴブリンがいるな」

「そうね」

「出待ちとは、随分と熱心なファンだことで」

　結界の境界線前にズラリと並んだゴブリンたちは、ある意味壮観である。既に包囲網は敷かれつつあるようだ。戦うことにして正解である。

　ということで、俺は槍をマジックバッグから取り出して、結界内部から横なぎに振るった。それだけで最前列にいたゴブリンの首が飛ぶ。

「な、何しているのよ！？　あなたは！」

「何って、ゴブリン狩り」

「それは見ればわかるわよ！」

　折角、敵が入らない無敵エリアから攻撃できるんだぜ？　やるでしょ。

　俺の言葉を聞いたアイナは、大きくため息を吐いた。

「呆れたわ」

「今のうちに数を減らせば、後の戦闘が楽になるだろ？」

「それもそうね」

　アイナはビームサーベル、もとい“柄ちゃん”を取り出した。

　そのネーミングセンスは置いといて、随分とチャーミングな名前になっちまって。完全に俺の物ではなくなったな。……別に惜しくなんてないから。ないったらないから。

　柄ちゃんでゴブリンの首を刎ねていくアイナを見て、俺は魔力が勿体なく感じる。柄ちゃんはかなり高性能な武器だ。代わりに魔力を消費する。そう考えると、費用対効果が悪すぎると思う。

「アイナ、これを使ってみな」

　俺はマジックバッグからエクスカリバー（仮）を取り出して、アイナに渡す。剣にしては小さめで、軽いので、アイナには丁度良いと思ったからだ。それに、俺には引き抜けなかったが、アイナには引き抜ける気がしたのだ。

「あなた、まだ武器を隠し持っていたの？」

「隠してなんていない。持っていると言っていないだけだ」

「それを世間では隠しているって言うのよ」

「なら世間が間違っているな」

「間違っているのはあなたよ」

　アイナにド正論をかまされてしまった。くそう……。

　そんな俺をよそに、アイナはエクスカリバー（仮）を引き抜いた。そして、二人してそれに見とれてしまう。

「綺麗……」

　その刀身は純白を基調にして、幾何学的模様が薄っすらと刻み込まれ、光の反射で浮かび上がる様は幻想的と言う言葉がぴったりだ。

　アイナが剣を振るうと光の粒子が舞い散り、アイナの衣装と相まって、一つの芸術の領域だった。

「すごいわ！」

　花のように笑顔をほころばせるアイナは、ゴブリンに次々と血の花を咲かせてゆく。

　俺も負けじとゴブリンを血祭りにあげながら結界の境界を回っていると、偵察部隊の一団と接触した。

　最初こそ、ゴブリン惨殺をしている姿をドン引きされたが、事情を話すと偵察部隊の一団も参戦することになった。それがあれよあれよという間に広がって、いつの間にか偵察部隊はゴブリン狩り部隊になっていた。

「どこに行っても誰かと会うわね」

「そうですね、天導さん」

「……あなたは何をしているの？」

「ただの工作ですよ」

　俺？　ちょっとした悪戯を敢行中だ。結果はわからないが、実験なので悪しからず。

　こうして俺たちは日が暮れるまでゴブリンを狩りまくって、大量の素材を手に入れた。