第42話 戦の準備だ
「で、どうするのよ?」
アイナが質問する。そして、誰も答えない。俺も答えない。
今? アイナが女王様ごっこをやってんだ。で、俺はモブに成り下がっている。要は背景だな。はー、モブはしゃべらなくていいから楽だなぁ。
そもそも、紛糾した会議室の様相にイラついたアイナが、魔法をぶっ放したのが事の始まりだ。しんと静まり返った会議室に「どうするのよ?」とアイナが問い、再び紛糾したところに、アイナが魔法をぶっ放し、今に至る。
「結論を早く出してくれないかしら。敵は待ってはくれないのよ? それをわかって、時間を無駄にしているのかしら。だとしたら、わたくしたちだけで脱出してもよろしいかしら?」
あー、アリだな。俺の準備なんてすぐに終わるし、アイナもそうだろう。食料も俺が沢山ため込んでいるし、キャンプグッズもある。
あれ? 名案では?
俺はそう思ったが、他人には違って見えたようだ。
「自分たちだけ逃げるのか?」
「戦いの準備すらまともにしていないのに、戦えるわけがないでしょう? それなら脱出した方が、生き残る確率が高いだけよ」
確率論か。大学でやったなぁ、ほとんど覚えてないけど。でも、アイナが生き残る確立が高いって言うならそうなんだろうな。俺は俺の魂を賭けるぜ。
イケおじの意見を切り捨てたアイナに、誰も何も言おうとしない。爽やか君ですら押し黙っている。みんなで揃って逃げるのは、現実的ではないと理解はしているのだろう。
てか、何でみんなして俺を見るの? 俺にアイナの頭脳を越えろと? 馬鹿言ってんじゃないよ。出来るわけないだろ。考えてものを言え。
でも、この居心地悪い空間にもいたくないから、頑張っちゃう。
「天導さん」
「何かしら?」
「天導さんは逃げるか、戦うか。どちらの方が、皆が生き残る確率が高いとお考えですか?」
アイナが他人の上に立って指示するのを嫌っているのは知っている。父親に命令されて、様々な人間に指示を出して、気味悪がられたからだろう。だが、今はその頭の良さを貸してほしい。俺には名案が浮かばないからな。
「……言わなければならないかしら?」
「できれば教えて欲しいですね。その上で、皆に指示を出すのは九城さんにお任せしましょう」
アイナに嫌なことはさせたくない。少なくとも、成長するまでは。なら、他人に責任は投げてしまえばいい。幸い、ここには隠れ蓑に相応しい賢い爽やか君がいるし、答えを欲しがっているのも他人だ。方向を示せば、後は勝手にやってくれる逸材なんだから、責任何ぞ、被せてしまえ。
そんな、俺の心の言葉が聞こえたように、アイナは笑うと、答えを口にする。
「わたくしは戦う方が、生き残る可能性が高いと考えているわ。敵の不確定要素が多いけれど、それは逃げても同じ。想定以上に敵が強いとしたら、脱出するまでに追いつかれるわ。それなら籠城して、戦いの準備を整えた方が勝ち筋はある。それだけのことよ」
想定以下の強さなら問題なく対処して、しっかりと脱出の準備した方が良い。どちらにしろ、敵の到達時間まで時間がないのだから、迎え撃つ準備をした方が建設的だ、とアイナは語る。
「これでいいかしら?」
「はい。ありがとうございます。では、九城さん。まだ悩むか、それとも動くかはお任せします。それによって、私たちの取るべき行動が変わりますので」
はい、責任転嫁。任せたぞ、爽やか君!
その爽やか君はアイナの言葉を吟味するように俯いていたが、すぐに顔を上げた。
「戦いましょう。天導さんの意見の方が正しそうです」
爽やか君は例のグループとコンタクトを取るように命じた。その後も、矢継ぎ早に指示を出す。
その内、例のグループに出した使者が戻ってきた。その人は爽やか君に何か耳打ちすると、爽やか君が俺を見る。
「神崎さん、例のグループとの面会に立ち会ってくださいませんか?」
えー、やだー、面倒くさい。でも、例のグループのリーダーのご尊顔を拝むチャンスでもある。面倒だが、やる価値はある。
「仕方ないですね。では、天導さんはここで待って……」
「わたくしも行くわ」
「……天導さんは……」
「わたくしも行くわ」
絶対についてくるらしい。相手は推定洗脳スキル持ち。俺は弱いから、洗脳されても大して問題ないが、アイナが洗脳されたら困るんだが? 誰も止められない気がしてやまない。
「大丈夫よ」
なっ!? まさか、俺の思考を読んだのか!? いやいや、そんなまさか。アイナがジト目で見てくるけど、俺の思考なんて読めるわけないよ、うん。
「早く行きましょう。時間がありません」
「そうね。案内してちょうだい」
アイナの同行が勝手に決まり、使者を先頭に3階のとある部屋に向かう。部屋の前にいた人に声をかけると、中に通された。
「初めまして、かな? 僕は摺木 マサキ。よろしくね」
「初めまして。九城 ハヤトです。急な面会に応じていただき、ありがとうございます」
一見すると、互いににこやかな笑顔をしながら、和やかに面会は始まった。
しかし、洗脳を警戒して爽やか君は握手をしなかったし、後ろにいるイケおじたちは警戒心剥き出しである。
俺は営業スマイルを張り付けながら彼を見た。
あぁ、これは駄目な奴だ。目が腐ってやがる。自分以外を須く見下しているタイプだ。あー、心の傷が疼くようだ。許されるならこの場で殺したいくらいには、俺はコイツが嫌いだ。
俺が心の中で、どうやったらコイツを殺せるか思案していたら、面会は終わっていた。
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