第37話 さあ、代金を頂こうか

 昼飯をパパッと取り終えた俺は、アイナを連れて再び会議室に向かう。そこにいた爽やか君を鮮やかにスルーして、生産職の人間のいる場所を聞き出し、そこへ歩を進めた。




「良かったの? 放置して」


「先に注文しておかないと、装備品を作製するのに時間がかかるらしいからな。作製時間中に聞けばいいさ」


「時間がかかるの? 錬金術は一瞬じゃない」


「錬金術は錬金術だからな」


「意味が分からないわ」




 それは俺も分からないんだよ。研究対象だな。できればやるよ、できれば。


 俺たちが向かったのは、会議室と同じく一階にある部屋だ。正確には、この一帯全てが生産職の工房と化している。わざわざ自室から、製作用の道具を運んだらしい。




「村正さんはっと、ここか?」




 俺は教えられた部屋をノックする。中から返事があった後、入室した。




「もう来たのかい。ま、こっちとしては積もり積もった借りを返す、いい機会なんだけども」


「このあと九城さんと情報交換があるのですよ。依頼だけでもしてしまおうと思いまして」


「そうかい。じゃ、早いとこ決めちまおうか」




 机を挟んで座り、紙に要望を書き込みながら案を練っていく。


 俺の要望は、まず軽いこと。次に動きやすいことだ。その上で防御系や耐性系のスキルが欲しいことを告げる。




「中々、要望が多いね。だが、やりがいはありそうだ」




 村正さんは楽し気だ。この人も俺と同じく、作ることが楽しいタイプだろう。そんな感じがする。




「そう言えば、その娘ちゃんの服はアンタが作ったのかい?」


「そうよ」




 何故、アイナが答える? しかもドヤ顔で。




「ちょっと失礼。……こりゃまた、凄いね」


「そうでしょう」




 アイナの衣装に少し触れた村正さんは、驚きの声を上げる。そして、何故かアイナが胸を張る。




「負けられないね、これは」




 獰猛な目は、確かな熱があった。これは良い装備ができそうだ。


 俺は村正さんが欲しいといった資材を渡す。数日でできるとの話なので、次の生産職から代金を毟り取りに向かう。











「結構、時間かかったわね」


「それだけ俺の商品が売れた証拠だな」




 ついでに使い心地や、この環境で欲しい道具のアンケートをとった。これで、次回も売れる商品が作れる。そして、高く売りつけて、ウッハウハだぜ。


 そもそも、時間がかかったのは俺のせいではない。俺は要望を伝えて資材を渡すだけなので、大した時間は必要ない。自分の考えたデザインまで要求した誰かさんがいたから、余計に時間がかかっただけである。




「俺は爽やか君の所に行くけど、アイナは?」


「爽やか君?」




 あ、やっべ。俺が頭の中でのみ使っていた、適当あだ名を口走っちゃった。




「九城って、見た目は爽やかだろ」


「ぷ……。み、見た目はね」




 笑って差し上げるな。人の顔を見て笑うのは失礼すぎる。人を傷つける行為だ。


 それをアイナに言うと、「勝手にあだ名をつけるのはいいの?」と返される。




「相手が傷付かないあだ名ならアリだ。ただ、俺は心の中だけで言うようにしている」




 あだ名自体を嫌がる人もいるからな。胸の内にしまっておく方が無難だ。


 そんな事を話しながら、会議室に戻ってきた。中には爽やか君とイケおじ、髭熊、俺を睨んでくる女がいた。恐らく、爽やか君のグループの首脳陣だろう。




「ずいぶんと長かったですね」


「自分の命に係わるものですからね。適当に済ますことなんてできませんよ」




 おい、アイナ。何だその目は? 俺は事前に決めていたから早く済んだだけだぞ。




「では早速、情報をいただきましょうか、九城さん」


「はい、構いません」




 爽やか君は、紙を張り付けて巨大な一枚の紙にした物を机の上に広げた。紙には中心に“拠点”と書かれていて、各方面に何かの記号が記入されている。




「これは……地図ですか」


「はい。この数日、各方面に偵察部隊を出して、様子を探ってみました」




 はー、頑張ってるなぁ。生きるのに精いっぱいの俺とは大違いだ。




「現在分かっているのは、この土地は四方を山に囲まれた盆地。もっと言えば、陸の孤島です」




 それは分かる。この建物の5階に住んでいる俺は良く知っている。三方は馬鹿みたいに高い山脈が連なっていて、残りの一方も、そこそこ高い山々が鎮座している。




「どの方向も探索を続けていますが、ここを出る時は、こちらの山脈を踏破しようと考えています」




 爽やか君が地図の一点を指差す。そこは、俺がそこそこ高い山々、と評した方向だ。




「ふむ、その方がよろしいでしょうね。他の方向よりは負担が少ないでしょう」


「……驚かないのですね」


「驚いていますよ。今の段階でここの脱出の事を考えているのですから」


「驚いているようには見えませんよ」




 苦笑い風ではあるが、その目は楽しそうだな、爽やか君。そして、俺を巻き込む気満々か。


 いつもなら営業スマイルをぶっ放すところだが、今回はわけが違う。俺一人の力で進めようにも、事が大きすぎる。


 仕方ない。今回は巻き込まれてやるよ。苦労するのは大っ嫌いだが、俺の命がかかっているのならば話は別だ。サービスしとくよ。


 俺はいつになく真剣な顔をして、口を開いた。

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