第33話 なぜ巻き込む
アイナの衣装を作り終わってから、アイナは自室に戻って就寝した。初めての魔物狩りと、衣装を貰ってはしゃぎ過ぎたのだろう。うとうとしながら舟を漕いでいたので、アイナの部屋まで送っていった。綺麗にする魔法もかけたので、熟睡できるだろう。
俺? 不眠症が全力で襲ってきたので、起きてます。魔力は多少回復したので、魔力回復ポーションと、迷子防止用のコンパスモドキを作りました。
コンパスは北を指すのでなく、セットで作った魔道具を指し示すものだ。俺の部屋にこの魔道具を置いておけば、何処に居ようとこの建物に帰る事ができる。
「そろそろ寝るかぁ。明日も魔物狩りだし」
時刻は、俺の腹時計で午前0時。よく仕事帰りにコンビニで買い物していた時間だ。
そんな時間から晩酌をすれば、加齢で新陳代謝の落ちた体では太るに決まっている。そもそも、そんな時間まで残業させる方がおかしいのだがな。
俺はベッドに入り、魔物狩りの予定を立てながら、しばらくして寝入るのだった。
ツンツンと頬を突かれた。俺は眠いので、寝返りを打って、掛け布団を頭から被る。鉄壁の構えだ。休日のクソ上司からの電話はこうしてやり過ごすのだ。
今度はゆさゆさ体を揺すられる。あのクソ上司でも、こんな強引ではなかった。自宅の住所は教えていないから、直接来ることできないのだ。
待てよ? じゃあ何で、俺は直接揺すられているんだ? それに頬を突かれる? おかしいじゃないか。
俺は眠い目を無理やりこじ開けると、間近にアイナの顔があった。
「あ……」
呆けた顔のアイナも可愛いものだ。顔を赤らめるのも、情緒があって素晴らしい。
「おはよぅ……」
「お~はよう」
尻すぼみになった朝の挨拶に、俺は大欠伸をしながら答える。新鮮な酸素が俺の体中を巡り、段々と意識がはっきりしてくる。
「朝よ」
「そうだな」
まだ日は出ていない。ほんのりと白み始めたくらいだ。
再び大欠伸をしてアイナを見ると、昨日作った衣装を着ていて、今すぐにでも魔物狩りに行く準備ができている。
あー、これは、楽しみ過ぎて早く起きちゃったパターンか。昨日は早く寝たもんな。それと、おっさんの寝起き顔なんてまじまじと見るものではないぞ。皺とシミがバレる。
「少し待ってな。着替えるから。そしたら出発しような」
「うん……」
アイナは顔を赤らめて部屋から出ていく。自分の考えを読まれたのだから恥ずかしいのだろう。俺くらいになると、幼女の内心を言い当てるくらい、余裕なのだよ。……なんかそれは変態っぽいな。偶然にしておいてくれ。
俺はパパッと着替える。早着替えはほぼ毎日していたからな。大得意だ。部屋を出ると、アイナが待ち構えていた。
「行くわよ」
「その前にトイレだ」
「お花摘みと言って! 早く行ってきなさい!」
朝から怒られちまった。でもな、お花摘みは女が使う言葉だぞ。男はキジを撃ちに行くんだ。
もちろん早トイレも得意な俺は、顔を洗って髪を整えトイレから出る。
「待ちくたびれたわ」
「5分しか経ってないじゃないか」
クソ上司の下だと、5時間どころか5日待たされることもあるぞ。そのせいで締め切りがヤバくなるんだ。
「早く行くわよ」
「はいはい」
「ハイは一回」
「はいよ」
「もうっ!」
元気いっぱいだな。やせ我慢もしてなさそうだ。
そんなやり取りをしていると、階段で怪しい気配が動いた。曲がり角から俺とアイナの姿が見えた途端、逃げるように動いたのだ。実に嫌な予感がする。
「どうしたの?」
「面倒事になるかもな」
「え?」
そして、それは現実のものとなる。
一階に下りて廊下に出ると、爽やか君が待ち構えていた。いつもの爽やか笑顔は鳴りを潜め、真面目な顔でアイナを見ている。
「何かしら?」
「……昨日は熱くなり過ぎました。その謝罪を、と思いまして」
爽やか君は言いにくそうに頭を下げる。後ろには腕を組んだイケおじと村正さんがいた。
あー、二人に叱られたのね。あのグループで、爽やか君と対等以上の存在らしき二人に叱られれば、グループのリーダーでも勝てないのか。
「それと、天導さんの言い分を聞いていませんでした。一方の言葉だけで公平な判断はできないと。だから、神崎さんはそちら側についたのだと言われて、得心がいきました」
へ? 公平? そんなこと考えても無かった。説明がなくてムカついただけなんだが?
「九城さんがお気づきになって、安心いたしました。何事も気づくことからが始まりですから」
おい、アイナ。そんな目で見るな。こういう時は盛大に勘違いさせておくのが吉なんだ。
「なので、天導さんの言い分を聞かせていただきたいのです。できれば、神崎さんもご一緒に」
えー、俺を巻き込むなよ。面倒くさ。他所でやってくれよ。って言いたいけどさぁ、アイナが隠れて俺の服を掴んでんだぜ? 逃げらんねぇよなぁ!
「どうしますか、天導さん。断っても問題ありませんが」
「……言うわ。案内してちょうだい」
少し迷ったようだが、決心を固めたアイナの目は綺麗だった。
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