第31話 下準備が肝要だ

 外でどんちゃん騒ぎをしていたら、いつの間にかいろんな人が出てきて、猪一頭分の肉は無くなっていた。俺はシェフにヒレ肉を焼いてもらい、アイナへのお土産とした。体調が良ければ食べれるように、と考えてだ。


 騒がしい集団を抜けて、俺は建物に入る。そのまま、身綺麗にして、アイナの部屋のドアをノックする。


 すぐにドアが開いて、顔色が良くなったアイナが出て来た。




「何かしら?」


「体調は良くなったようだな」


「おかげさまでね」


「それはどうも。それと、猪は解体して調理してもらったが、食べれそうか?」




 あの映像を見ておきながら、この質問は残酷かもしれないが、早く慣れてもらわないと困るのは俺なのだ。貴重な食料を前に、俺しか作業できないのは効率が悪い。




「うーん……」


「無理に食べる必要はない。食べる気になったら言ってくれ」




 悩むような素振りを見せたアイナに、俺はそう告げる。ここで無理をして、トラウマにでもなったら、もっと面倒だ。


 全く、俺も甘いな。




「この後、アイナの靴と服を作る予定だが、リクエストはあるか?」


「そうね……」


「絵でも描いてくれれば、多少はそれを取り入れるが?」


「紙とペンをちょうだい」




 何か案があるのか、アイナはテンション高めだ。これまでで一番ウキウキしている。


 この期待度に沿うことができるか。俺? 美的センスが壊滅的な俺には、荷が重いかもしれない。でも、この楽しそうな雰囲気を壊せるほど、俺は強くない。頑張るぞ、俺!


 アイナは俺の部屋に来て、鼻歌を歌いながらペンを走らせる。色ペンを強請られたので、俺は急遽、拾ってきた石を素材に、石材インクを作る羽目になった。色数自体が少ないうえ、全体的に黒っぽい色だが、一応満足してくれたようだ。


 てか、あの鼻歌ってあれだな。日曜朝に放送してる女児向けアニメのオープニングだな。


 何で知っているのかって? 俺も心に女児がいるんだよ。ちなみに、俺は初代が一番好きだ。


 中々、仕上がらないアイナの絵に、俺は不安に駆られる。不安なので、素材を作っておこう。


 昨日は錬金術で馬鹿みたいに頑張ったからか、錬金術はLv.4まで上がっていた。そして、新たに覚えた技がある。その名も上位錬成。


簡単に言うと品質や属性を上昇させたり、1つ上の素材に変化させる技だ。




「実に錬金術っぽいな。石の山を金塊に変えるのも夢じゃないってことだ」




 そしたら、俺は大金持ちだ! ヒャッホー! こんな生活おさらばだぜ! この建物から離れた世界がどうなっているのは知らんがな!




 俺はしれっと大量に拾ってきた石を作業台の上に置く。上位錬成は魔石が要らない代わりに、魔力を大量消費するらしいが……イケるイケる。知らんけど。


 俺は上位錬成を発動した。目を瞑り、魔力を流す。


 おぉう! 魔力消費がやべーぞ。普通の錬金術なんて比じゃねえ。数倍は持ってかれる。


 そして、目を開けると、そこには鉄の延べ棒が鎮座していた。




「嘘だろ……。こんだけかよ」




 山のような石から生成された鉄は、作業台にちんまりと鎮座していた。大体10分の1くらいに小さくなった鉄を見て、俺は失望の色が隠せない。これでは、俺の金塊作って大儲け作戦ができないではないか。




「どうするか……。想定よりも質を下げる? いや、ダメだ。手抜きして怪我されたら、寝覚めが悪い。頑張るか」




 俺が作ろうとしているのはミスリルだ。鉄から二段階上の素材なので、恐らくここから100分の1くらいの体積になる。


 足りねぇ。資材から回すか。明日は補填が中心になるな。石集めだ。


 俺は鉄を上位錬成し、魔鉄を作った。魔力を多分に含んだ鉄だ。鉄の上位錬成は鋼も存在するが、敢えてこちらを選んだ。見たことなかったからな。




「薄く虹色に反射しているな。レアカードみたいだ。飾っても綺麗かもしれない」




 地球では見たことない金属に、俺は興味をそそられる。取っておきたい感情に駆られつつ、俺は渋々、ミスリルの材料とするために作業台の上に置いた。


 随分と小さくなり、片手で持てる大きさになった魔鉄を見納めてから、俺は目を瞑る。


 再び目を開けると、そこには半分くらいの大きさになったミスリルが鎮座していた。


 あれ? 少なくはなったけど、想像以上に残っている。少ないけど。思い返せば、上位錬成の必要魔力が少なかった気がするが、体積が減ったから以外の理由があるのかもしれない。魔力が含まれているからか? うん、わからん。後にしよう。




「俺の三分クッキング。材料はこちら。ミスリル、糸、品質向上剤、魔石になります」




 1つも食い物がないとか、三分も必要ないとか、そもそも何作るんだとか、ツッコミは必要ありません。そこで見ていてください。


 俺はそれらを作業台にのせて魔力を流す。そして、出来上がったものは、糸だ。


 あー、諸君等から暴言が伝わってくるようだ。説明責任を果たしてくださいって。俺、政治家じゃないんで、お断りです。


 あ、ごめんなさい嘘です話しますから! 何処か行かないでくださいお願いします。なんでもしますからぁ!


 あ、はい、説明でしたね。私が作ったのは金属繊維です。ミスリルは魔法金属なので、軽くて強度があるので、アイナでも使いやすいと思ったんです、はい。


 というわけで、俺が作ったのは服や靴の素材となる金属繊維。これに、資材回収で集めた皮と金属類があれば、余程のことが無い限り対応できるだろう。


 丁度そのタイミングで、図案が完成したアイナが作業部屋に飛び込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る