第28話 人足が倍だと効率も倍

「いや、すまん」


「もうっ、本当にっ、おバカっ!」




 否定できねぇ。でも後悔はない。非常に良いものを見た。


 ぷんすか怒っているアイナを見下ろしながら、俺は脳内ファイルに、今の光景を保存した。


 ん? 何だそのゴミを見る目は? 男ならわかるだろう? 別に犯罪じゃねぇし。




「怒ってないで、次行くぞ、次」


「話を逸らさないで!」


「後でいくらでも聞いてやる。明るいうちに、出来ることはやっておかねぇとな。時は待ってくれないんだ」




 俺はアイナを口先ではぐらかして歩き出す。渋々ついてくるアイナは、当分怒りは治まらなさそうだ。


 それからはゴブリンを殺し、スライムと戯れた。途中で薬草や香草、毒草なども集めた。実物を見せるとアイナはすぐに特徴を覚えて持ってくるので、俺はかなり楽に素材を集めることができた。




「ねえ、あの木になっている木の実は何かしら?」


「あれか。下ばっかり見てたから気がつかなかった」




アイナは俺を見上げる関係上、視線も上へ向く。それで気がついたらしい。


 俺はそれを槍で突いて落とし、鑑定を行う。どうやら、このこぶし大の大きさで黄緑色の木の実は食べられるようだ。




「毒はなさそうだが、味は分からん」


「あなたの鑑定って不便ね」


「そもそも鑑定じゃないからな。素材や完成品の品質や属性を知るためのものだから」




 ちょっと特殊な使い方をしている自覚はあるが、毒の有無と可食かどうかの情報が分かるだけマシだ。


 俺は恐る恐る、その木の実を果物ナイフで切って口にしてみた。


 うわぁ、皮が渋い。果実の甘さを全て打ち消してやがる。




「ねえねえ、どうなの?」


「皮は剥いた方が身のためだ」




 俺は皮を剥いた果物を渡す。それを食べたアイナは顔をほころばせた。




「少し青臭いけど、甘くて美味しいわ」




 その一言で、この果実を集めることになった。主に頑張ったのは俺だが、代わりに薬草系の回収はアイナがやってくれたので、お相子か。


 そんなこんなで昼になる。昼食はもちろんカ〇リーメ〇トもどきだ。それとあの果実。名前はフラの実だ。




「フルーツがあるだけで、こんなにも食事が楽しくなるなんて、思いもしなかったわ」


「それは同感だ」




 食事が上手いと兵士の士気も上がると聞く。やっぱり飯は大事ってことだ。あー、肉食いてぇ。




「あなたはずっとこんなことしていたの?」


「2日目だけだな。後は資材回収とスキル上げがほとんどだ」


「凄いわね」




 しみじみと呟くアイナだったが、俺も確かにそう思った。


 だって大変だったんだよ? 何の予備知識もない状態で、全て手探りで始めたんだから。導いてくれる人もいないし、ともに歩む人もいない。孤独だった。あれ? 俺って結構頑張ってないかい?




「まあ、大変だったが、楽しかったな」


「大変なのに、楽しい?」


「自分の好きなことやって、誰にも縛られず自由に生きる。楽しいさ」


「それは……そうかもしれないわね」




 それも昨日でお終いだがな。これからここで生活するには、他人と付き合っていかなければならない。他人に縛られ、自分の嫌なこともしなければならないのが、集団生活ってやつだ。


 俺が圧倒的に強くて、どんな環境でも生きていけるなら別だが、生憎、俺は凡人の類なので、集団生活を甘受するしかない。諦めが肝心さ。




「さて、そろそろ行くぞ。時間は有限だ」


「そうね。ようやくわたくしも慣れて来たところですし、少しペースを上げてくださる?」


「構わんぞ」




 午前と比べると、明らかなハイペースでゴブリンを掃討していく。アイナも慣れたようで、魔石の回収もできるようになった。


 イモムシの集団にも会敵したが、そこではアイナが大活躍した。正確にはビームサーベルだが。刃を長く伸ばし、イモムシをぶった切っていく様は、中々に戦乙女していたと思う。


 尚、虫肉は絶対に食べたくないと言っていた。同感だ。


 そんなふうに魔物狩りをしていると、気配探知にこれまでと違う反応があった。ゴブリンよりも強く、しかしながら、敵意などは薄い。




「新しい反応があるな」


「どうするの? 引くのも勇気よ」


「いや、ゴブリンより強そうだが、問題なく勝てる」


「そう。なら向かうのね」




 その反応は移動と停止を繰り返している。俺たちは気配を殺しながら、速足で近づいて行く。




「変わった反応ね」


「もしかしたら野生動物かもしれないな。……この感じは猪か」




 俺は足元にある、地面をほじくり返したような跡を見てそう言った。テレビとか動画サイトで見た事のある光景に、俺は当たりを付ける。


 そのまま、その反応に近づいて行くと、俺の予想通り猪だった。地面を掘って、食料か何かを探していた。

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