第27話 会話って楽しいね

「マジックバッグって便利ね」


「便利だから使ってるんだ」




 俺は仲間となったアイナに、スペアのマジックバッグを渡した。子供にバックパックを持たせるのは気が引けからだ。


 あぁ、俺のマジックバッグ……。




「これも軽くて便利」


「壊すなよ」


「壊さないわよ」




 ビームサーベルの刃を自在に変形させて遊んでいるアイナはそう言った。ナイフ以外の武器がないと言っていたので、仕方なく、アイナでも取り回しができそうなビームサーベルを渡したのだ。


 というか、この子、賢すぎんか? 魔力の話をしたら、すぐに魔力操作を覚えたし、身体強化も覚えた。気配探知と隠密もだ。俺の立つ瀬がない。


 本人は魔法が主軸らしいが、この分だと、俺より強くなりそうだ。そうなったら、アイナに戦闘は任せよう。俺は陰でのんびり暮らそう。




「あなたの装備は良さそうね。特に靴が」


「……魔物狩りが終わったら、作ってやるよ」


「お願いするわ」




 あーあ、安請け合いしちゃった。愚かすぎる。こういう時はポジティブに考えよう。スキル上げに丁度良い。そう考えるんだ。




「これから魔物狩りをするが、いざとなったらスクロールをガンガン使え。補填は利く」


「わかったわ」


「最初はレベル上げのために、不意打ちで倒すが、近いうちに正面から戦うことになる」


「スキル上げと、技術を磨くのね?」


「そうだ。分かっているならそれでいい。疲れたら何時でも言え。それと、気配探知におかしな反応があったら、すぐに報告すること」


「ええ」


「あと……」


「何度も言わなくてもわかるわよ」


「何だ? もう一回言ってほしいのか」


「違うわよ!」




 ツッコミが入った。あぁ、この感覚はたまらねぇぜ。ボケたくなってくる。だが、時間を無駄にするのもダメだな。真面目にいこう。




「じゃあ行くぞ」




 俺は槍を取り出して歩き出す。その後をアイナがついてきた。


 それから十分もしないうちに、俺の気配探知に反応があった。ゴブリンだ。




「どうしたの?」


「向こう。魔物がいる」


「え? 本当に?」




 俺が指差す方向を見て、アイナは懐疑的な顔をする。スキルレベルが違うので、アイナの探知外なのだろう。俺は気配を辿って向かうと、途中でアイナの表情が変わる。




「何かいるわね。数は3つ」


「相手が敵意や害意を持っていると、反応が変わる。覚えておけ」


「わかったわ」




 そのまま息を殺して近づくと、ゴブリンがたむろしていた。座ってグギャグギャ言っていた。


 声を潜めて俺はアイナに指示を出す。




「3匹同時に相手する必要はない。敵を引き離して、その隙をつけ」




 コクコクと頷くアイナからは緊張が伝わってくる。当然のことだ。命を懸けた戦いなのだから。




「いざとなったら俺もいる。行ってこい」




 俺はできるだけ優しく話し、緊張をほぐすように心がける。


 アイナの後姿を見送り、俺は別方向からゴブリンの後ろに向かう。俺が好位置について1分も経たずに、2か所の茂みが揺れた。


 ゴブリンが1匹ずつその確認に向かい、残った1匹にアイナが迫る。




「(早いな。ゴブリンが戻ってくるぞ)」




 焦りからか、茂みを確認に向かったゴブリンが十分離れないうちに、アイナは攻撃した。そして、ゴブリンを一刀両断し吹き出る血と飛び散る内臓に、足が止まる。


 ゴブリンがその音に気がつき、反転して走ってきた。だが、アイナは動かない。いや、動けなかった。




「ひ……」


「よくやった。1匹倒せただけ上等だ」




 俺は素早くゴブリンを片付け、アイナの頭を撫でる。そして、少し離れたところにアイナを座らせ、角と魔石を回収した




「……助けられたわ」




 力なく木に持たれながらアイナは言った。




「仕方ねぇさ。あのショッキングな絵面を見れば、パニックにもなる」


「……あなたはどうだったの?」


「グロいと思っただけだな」


「あなた、どこかおかしいわよ」




 おうおう、言ってくれんじゃねぇかよ。俺がおかしいのは認めるが、他人に言われると傷付くんだぜ?




「良かったな。俺の心が読めない普通の人間で」


「……もう、おバカ」




 少しは気がまぎれたようで、アイナは笑顔になる。やっぱり笑顔が似合うな。




「立てるか?」


「ええ。次は大丈夫」


「そうあってほしいな」




 まだ幼い女の子には酷かもしれないが、この血生臭い感覚に早く慣れないと、ここでの生活は大変だろう。同時に、こんな光景に慣れないでほしいと願う俺もいた。




「あなたがしていたのが、解体?」


「そうだ。魔石は心臓に、それ以外は素材だ」




 死体をナイフで捌くのは慣れないとキツイ。やはり、早く慣れてもらいたい。


 と、立ち上がったアイナの服に血が飛び散っている事に気がついた。




「ちょっと待ちな」


「何かしら?」




 俺はアイナの手を取ると、綺麗にする魔法をかける。服の汚れと一緒に汗なども、綺麗になればよいと思った俺は、アイナ全体に魔法をかけた。




「え? 何これ? あぅ……あん……」




 うわ、エロい。


 艶めかしい声を上げて、アイナは身体をくねらせる。何とも、ヤバい光景を見ながら、俺は自身の失態を思い浮かべた。


 そう言えば、これを最初に使った時にそんなこと言ったけど、完全に忘れてた……。なんてことをしてしまったんだ、俺は。グッジョブだ。


 もちろん、綺麗になったアイナは顔を真っ赤にして俺を睨んだとさ。

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