第26話 仲間が増えた

「神崎さん、理由をお話しするので、こちら側に来ませんか?」


「理由を聞いて判断するのは私です。その上で、話したければご勝手にどうぞ」




 おいおい、イケメンが苦い顔するなよ。もっと苦しめたくなるだろ。


 後ろのみんなも聞きたがっているぞ? 話したらどうだ? もちろん無料でな。


 そんな俺の声が聞こえたのか、爽やか君は天導との因縁を語り始めた。




「私の生まれた九城家と天導家は、先祖代々から交流がありました」




 そんな語り出しから始まった因縁の話は、長かった。


 とりあえずまとめると、持ちつ持たれつだった2つの家の関係が壊れた原因が天導 アイナだという話だ。九城家の持株会社を潰したり、同業他社を支援して妨害したり、下請けの会社を買収したりと、九城家の没落が始まった。原因を探れば、どうにもアイナの指示のもと、天導家が動いているという話だった。




「最初は疑いましたよ。でも、会ってみるとわかりました。その娘は異常だ。頭がいいなんて話ではないんです。人の考えている事がわかるんです。化け物ですよ」


「人の心なんて読めないわ」


「では、どう説明するのです? あなたのその異常な賢さは?」




 悔しそうにズボンをギュッと掴み、唇を噛むようすの天導は、何も言い返さなかった。


 まあ、年齢を考えると、めちゃくちゃ賢いってか、聡明って感じだったな。びっくりするくらい冷静だったし。爽やか君の言っている事も確かだろう。嘘ならもっとましなものにしてほしい。


 でもなぁ、この子って13だぜ? 大人が守ってやんないといけない年齢だ。それが、その大人から、こんな言われ方したら、冷めるよな、大人ってやつに。


 それに、この子の目は信頼できる。俺は俺の目を信用している。


 よし、決めた。




「神崎さん、こちらに来ませんか? その娘は簡単に人を陥れますよ」




 爽やか君の目は真剣だ。俺の身を案じている事は伝わってくる。それは、ありがとう。


 天導は俺を見ていた。


 あぁ、俺はこの目を知っている。嫌というほど知っている。




「九城さんの言い分は分かりました」


「では……」


「ですが、私は天導さんに付きましょう」


「何故です!?」




 何故って、そりゃあね。俺は外道の自覚はある。だけど、子供を見捨てて後ろ指を指すような下衆に成り下がった覚えはない。




「天導さんは人の心は読めませんよ」


「何であなたがわかるんですか?」


「もし読めていたら、私に助力を申し出るなんて愚行はいたしませんよ」




 なんたって、ひねくれ者ですからね。俺よりも組みし易しな人間はいくらでもいる。




「ご安心を。別に私は九城さんたちと敵対するわけではありません。これまで通り、対等な立場ですので」




 意図せずに、爽やか君はもっと苦い顔になった。面白い顔だ。




「あと、都合よく九城さんのグループは使うので、悪しからず」


「……本当に神崎さんはやりにくい」


「お褒めにあずかり光栄です」




 最上の営業スマイル付きだ。何とお値段無料。返品不可です。




「では、我々は魔物を狩りに行くので、失礼いたします。天導さん、行きましょうか」


「え? ええ」




 俺は天導の手を握って外に出る。涼しい空気が肌に触れて、とても心地が良い。そのまま、ずんずんと森の奥に進んでいった。建物が見えなくなった辺りで手を離すと、天導が話しかけてくる。




「……どうして?」


「何がでしょう?」


「真面目に答えて」




 そんな目で見ても怖くないぞ。俺は毎日、鏡に映る殺人的目つきと向き合っていたんだからな。




「天導さんの目が信頼できると思ったからです」


「ふざけないで」


「ふざけていません。私が人生で培った能力です」




 クソみたいな環境で育った俺の目は、どんなに隠してもそいつの本質を理解できるぞ。そんな人間ばかりに会ってきたからな。




「意味わかんない」


「ははは、意味は分からない方が幸せですよ」




 俺のこの能力を持っている人間もいるだろう。でも、幸せを享受してきた人間には不可能だ。




「どうしても理由がほしいなら、差し上げましょう。真っ当な子供に後ろ指を指すなんて私のポリシーに反しますし、子供を大人が守らねば、一体誰が守るのでしょう」




 驚いたような、嬉しいような、恥ずかしいような、色々な感情が混じった天導は、最終的に俺を睨みつけてきた。


 全く。子猫の威嚇並みに効果はないぞ。庇護欲しか湧かない。




「……おバカ! あなたは本当におバカよ!」




 そんなことは知っている。頭が良ければ巨万の富を築いて豪遊しているよ。はぁ……。




「聞いてるの!?」


「聞いていますよ。未知の巨大生命体相手に、巨大な猫型ロボットに乗って戦う、顔がアンパンのヒーローの話でしょう?」




「全然違うわよ!」




 なんか言っているが、さっきの辛気臭い顔ではなくなった。寧ろ、俺の言った言葉を真面目に考えたのか、吹き出しそうだ。




「ま、天導は笑顔の方が良く似合う」


「な……お、おバカ!」




 もっと悪口のバリエーションはないのか? ない方が良いか。俺みたいにひねくれるよりはよっぽど良い。




「こんなところで駄弁っているのもなんだ。魔物を狩りに行くぞ」


「……口調が変わったわね」


「……疲れたんだよ」




 それは事実。天導の様子を見て気が抜けたのも事実だ。


 そう思っていると、天導が手を差し出してきた。




「よろしくお願いするわ。神崎さん」


「神崎でいい。こちらこそよろしくだ。天導さん」


「アイナよ」


「アイナさん」


「アイナ」


「……アイナ」


「よろしくてよ」




 そんな笑顔を向けられたら、名前で呼ぶしかないじゃない。

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