第24話 深夜テンションって怖い
「……にわかには信じられないわね」
「それは同感だ」
俺の話に、幼女はそう言ってカップに口を付ける。その堂に入った姿と、年齢にそぐわない艶やかさに引き付けられる何かがある。
幼女―天導 アイナ 13歳。それが彼女の名前だ。
「魔法に魔物、転移か転生か……。分からない事ばかりね」
「3日でここまで調べた、と言ってくれ」
天導は今しがた部屋から出て来たばかりという話だ。ずっと引きこもっていた天童にとって、俺が汗水たらして得た情報は、物足りない量だったらしい。
「文句は言っていないわ。わたくしは恐怖で部屋から出ていなかったのだから。右も左も分からない中、情報を集めたあなたは十分凄いわよ」
あら、意外と素直なのね。現状をしっかり理解していることで。でも、意外だった。13歳とはいえ、いきなりこんな状況に放り込まれたら、泣きわめいてもおかしくはない。最初こそ困惑が強かったが、気がつけば人の話を聞いて、対話できる程度には冷静なのだ。随分優秀である。
「何かしら? わたくしの顔に何かついていますか?」
そんなことを考えていたら、天導が俺の顔を覗き込むように見ていた。
ただでさえ疲労困憊で寝る直前だった上に、長々と話したので疲れが溜まっていた俺は、半分ボケていた。
心の中で、可愛いな、と思っていたら、口からそれが出た。
「可愛いな」
「な……何を、いきなり……!?」
あまりに予想外な言葉だったのか、顔を真っ赤にして顔を逸らす天導。
自分の言った言葉を遅まきに理解して、自身が寝ぼけ気味になっている事に気がついた俺。
お、ラブコメか? と思った諸君、そこは俺だ。安心しろ。
「事実を言ったまでだ」
「……お……」
「お?」
「おバカ!」
おぅ、俺の心にクリティカルヒット。俺の心は砕け散った。そして、元通り。
そんな事を考えていたら、天導は逃げ去るように部屋を出ていった。気配探知では隣の部屋に逃げ込んだらしい。あそこの住人だったか。
外に逃げたり、遠くに行くようであれば、天導が怪我なりをしないよう尾行するつもりだったが、手間が省けた。
「さて、寝るか」
俺は開け放たれた扉を閉めて、ベッドにダイブする。さすがの不眠症も、これだけの疲労感には勝てなかったようだ。
―
「あぁ、恥ずかしい……。誰か俺を殺してくれ……」
俺は今、絶賛後悔中である。中学生に面と向かって可愛いとか、なにそれ、絶対変人と思われてるよ。死にたい。
それだけじゃなく、相手が幼女だと思ってペラペラ話し過ぎた。情報の重要性は知っていたはずなのに。俺はおバカだよ。
「あー、あー、しんどい」
既に外は明るくなっており、日の出したくらいだろうか。早く出発したいのに、俺は受けたダメージで起き上がれない。
そんな感じでベッドの上で悶えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
バッと顔を上げ、すぐさま表情を整えてドアの前に立つ。
「どちら様でしょう?」
「わたくしです。天導です。入ってもよろしいですか?」
今まさにあなたことを考えていました。恥ずかしいのでダメです、なんて言えるわけもなく、俺はドアを開ける。
「ごきげんよう」
「ええ、おはようございます」
「……話し方を変えたのかしら?」
「こちらが元々です」
嘘です。もっと適当な話し方です。
ニッコリと営業スマイルを張り付けていると、天導は俺の顔をまじまじと見つめる。
「昨日の方が素敵よ」
「っ……お褒めいただき光栄です」
「ふふっ、そう」
おいこのガキ。絶対昨日の意趣返しだろ。目が笑ってんぞ。ほんの一瞬、素が出ただろ、ふざけんな。また顔を真っ赤にしてやろうか。
「今日はお話があって参りました。入ってもよろしくて?」
「どうぞ」
「失礼するわ」
優雅に挨拶をして入ってくる天導。慣れたように椅子に座った。
「それで、お話とは何でしょう?」
「態度を崩してもらって構わないわ。その話し方は外用でしょう?」
「人様に向ける用です」
世間に顔向けできるように、話し方だけはまともにしたのだ。別に犯罪をしたわけではないが、目つきの悪さを態度で補填するイメージだな。
だが、天導は不満げな顔をして口を尖らせる。
「直す気はないのね」
「天導さんには毒になります」
「アイナよ。アイナ」
「知っていますよ」
「名前で呼びなさい」
はぁ? 恥ずかしいだろ。異性を名前呼びとか俺にはハードルが高すぎる。むしろ女は苦手で、二次元に逃げ込んだくらいなのに、俺にはできんよ。
「天導さんで」
「アイナ」
「天導さん」
「名前で呼ばないと、人を呼ぶわ」
「名前で呼ばないと、人を呼ぶわさん」
「違うわよ!」
こいつ面白いわ。揶揄い甲斐がある。反応が面白い。だが、そろそろ潮時だ。涙目になって来た。
「では、アイナさん、と」
「最初からそう呼びなさい」
「ところで、話とは何でしょう?」
さん付けが不満だったのか、未だに頬を膨ら目せている天導に、俺は本題を話すように促す。
「わたくしが魔物を倒す手伝いをしてほしいの」
「本気ですか?」
「本気よ」
その目からは揺るぎない決意が見えて、その本気度が窺い知れる。だが、天導は勘違いしている。魔物は“倒す”ではなく“殺す”なのだ。それを理解して尚、進むのか、俺は問わねばならない。
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