第23話 やっとヒロイン登場

「寝るか。名前なんて後でいいわ」




 結局名案が浮かばなかった俺は、睡眠することを決めた。少しでも寝ておかなければ、起きた後が辛い。それは地球で知っている。




「その前にトイレトイレ」




 何だかんだ長時間作業していて、俺の膀胱が限界を迎えていた。このままでは膀胱炎になってしまう。俺は急いでトイレに向かった。あまりに急いでいたので、部屋のドアが半開きになってしまったが、こんな時間に出歩くやつはいないだろう、と思い、そのままトイレに向かってしまった。


 まさか、俺がトイレに入ったタイミングで、俺の部屋とトイレの間にある鍵付きドアが開くなんて、誰が想像しただろうか?











 わたくしは恐る恐る目の前の扉を開けました。わたくしの体格にとって扉は重くて、もたれ掛かるような格好になってしまいました。




「ここは……何処かしら」




 部屋についていた窓はすりガラスでしたので、外の様子は分かりませんでしたが、廊下の窓は普通の透明な窓でした。




「外は見えませんわね」




 外は真っ暗で、様子を窺い知ることはできませんでした。


 廊下の左右を見れば、明かりはついていても、人っ子一人いない、延々と続く廊下は不気味で、そちらに向かうことは躊躇われます。反対側は行き止まりです。




「あら?」






 行き止まり側にある扉が開いています。どなたがいらっしゃるのでしょうか? もしいるのなら、この意味不明な状況について、何か知っているかもしれません。恐怖心はあるのですが、たった一人という状況があまりにも心細いのもあって、わたくしは扉の方に向かいました。




「誰か、いらっしゃいませんか?」




 扉から少し顔を出し、わたくしはそう声をかけました。しかし、返事はありません。


 しかし、部屋の中はわたくしの部屋と違って机や椅子が並べられていて、奥には衝立がありました。しかも、机の上には紙とペンが置いてあります。誰かがいるのは間違いないでしょう。




「あの、誰か、いらっしゃいませんか?」




 わたくしは部屋の中にはいり、もう一度そう声を掛けました。しかし、今回も返事はありません。留守にしているのでしょうか?


 わたしは机の上に置いてある紙を手に取り、書いてある文字を読みます。そこには走り書きで、日本語が書いてありました。錬金術や魔法陣と言った言葉も散見されます。


 この人は何故、科学的に否定された事柄を研究しているのでしょうか? わたくしは、何かおかしい人に攫われてしまい、人体実験に利用されるのかもしれません。


 スゥっと血の気が引きました。今すぐこの場から逃げなければなりません。そう思った直後、後ろから声が聞こえました。




「ほう? 随分と可愛らしいお嬢さんだ」


「ひぃっ!」




 情けない声を上げて、わたくしは振り返ります。そこには、今にもわたくしを射殺さんとするような目つきの男性が立っていました。


 物凄く怖いです。ですが、その男性は無理に動こうとはせず、わたくしを観察するようにじっと見てきます。


 わたくしはどうにかして、この状況を脱しなければなりません。わたくしは人生の中で、一番必死になって思考を巡らせました。











 トイレから戻ってきたら、随分と可愛らしい泥棒さんがいた。


 身長とあどけなさの残る顔から、中学生くらいの年齢だと、俺は見当をつける。それにしても可愛い。


 長く伸びた美しい紫色の髪は、かつて紫が一番高貴な色として扱われていた理由を如実に表していた。不安に揺れるアメジストの瞳は、全てを飲み込みそうなほど澄んでいた。可愛いと美しいの丁度中間、幼女が少女になる僅かな時間しか見ることができない、一番可憐な顔は見るもの全てを魅了すること間違いない。ワンピースから覗く細い手足は華奢という言葉が似あい、庇護欲を誘う。血色の良い肌は健康そのものだ。


 え? キモい? ……思い返すとそうかもしれない。幼女をまじまじと見つめるおっさんとか犯罪臭しかしないわ。




「わ、わたくしをどうするおつもりですか!」




 俺すっごい警戒されてないかね? 目が警戒心剥き出しだ。でも、しょうがない。こんな夜中に目つきの悪いおっさんに出会えば、そうもなろう。


 てか、この子、自分のことをわたくし呼びするんだ。お嬢様か、マジもんの。




「どうするつもりもない」




 俺、ロリコンじゃないから。大人のゲームでなら喜んで攻略するが、現実では法令を守る人間だ。


 そう言った俺に対し、警戒心を緩める事の無い幼女は質問をぶつけて来た。




「では、何故わたくしをこんなところに攫ったのですか!」


「攫ってなどいない。私も気がついたらここにいたのだ。私だけではない。何人も同じ境遇の者がいる」




 爽やか君のグループでは過去の話を集計していて、その結果、俺と同じ状況と言うことが分かっている。つまり、原因不明ということだ。


 警戒から困惑の色が強くなった幼女は、何か必死に考えているようだ。




「立ち話では疲れるだろう。座ったらどうかな? アイスココアくらいしか出せんが、勘弁してほしい」




 俺はそう言うと、机の上に資材回収で手に入れた、お洒落なカップを用意する。




「えっ!? 今のはどうやって!?」


「それも踏まえて話しましょう。と言っても、私もこちらに来て三日ですが」




 ココアの粉末を入れて、生活魔法で水を入れる。ティースプーンでかき混ぜて完成だ。


 そんな様子を、幼女は愕然とした表情で見つめていた。

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