第22話 武器を作ろう
「熱中しすぎた。今何時よ? 眠くないけど、寝ないと明日がやべー」
外は真っ暗。体感的には、日付はとうに変わっているな。ハハッ、社畜時代と変わんねー。
作業部屋の壁際に机を複数設置して、その上に並べられた成果の数々を見る。
「品質向上剤を作れたのは大きかった。ポーションも安定して作れるようになったし、紙とインクの補給にも目途がたった。悪くない。明日……今日が怖いが」
しれっと集めていた薬草の8割は使ったが、十分な成果だ。他の外で集めた素材もほとんど使った。後悔はない。
明日は外に出る予定だが、そろそろ寝ないとマズい。支障が出る。でも、まだ作りたいものがある。
「あの短剣をどうするかだが……策はある」
その策とは、気にしない作戦だ。呪いも錬金術の糧になるだろう、と楽観的な考えのもと編み出された、究極の作戦。
俺が思い浮かべたレシピ通りに、俺は作業台に材料を置いていく。短剣、高品質のミスリル少量、魔力をたっぷりと含んだ金属、あのゴブリンの角と魔石を含めた、大量の角と魔石。
俺は深呼吸をして、高鳴る心臓の鼓動を押さえる。俺の錬金術のレベルではできるかどうかは怪しいが、こまねいていては、スキル上げはできない。ただでさえ、ステータスの低い俺は、スキルでカバーしなければならないのだから。
「やってやるさ」
俺は目を閉じて、魔力を流す。これまでとは比べ物にならないくらいの量が流れていくが、躊躇しない。完成品を思い浮かべ、反発しあうような感覚のある材料を、一つになるように魔力を込めていく。頭痛が頭を駆け、倦怠感が身体を襲う。実際は数秒の出来事だろうが、体感的に何分にも感じられた。
そして、それは完成した。
目を開けると、そこには俺が望んだものがあった。一見すると、単なる円柱状の物体だ。よく見れば、それは剣の柄だということがわかる。でも、それだけ。
俺は柄を手に取ると、頭痛が治まらない中、魔力を流した。
「できたぞ……。まさに、ビームサーベル……。てか、痛ぇ……」
柄から灰色の刃が伸びる。魔力量次第で、形も威力も思うが儘。その上、ステータスの貧弱な俺でも簡単に振り回せる重量。正に俺にぴったりだ。
頭痛がひどくなった俺は、すぐに刃を引っ込め、机に置いた。そして移動し、長椅子に横たわる。
「ぐぉ……、痛ぇ……。だが、できた。ハハッ……笑うと酷いな……痛いわ」
人生で一番つらい頭痛に耐えながらも、俺はニヤニヤするのを押さえられない。
なんたって、あのビームサーベルだぞ。切ってよし、回転させて盾にするもよし、温泉だって作れちゃう。そんな優れものを手に入れたのだ。嬉しくないわけなかろう。もっとも、熱量はないから、温泉は無理だけど。
俺の計画は他にもあるが、その第一歩としてビームサーベルを作れたことは大きい。あの機構は応用が利く。素材とスキルレベルが揃ったら、すぐにでも製作に取り掛かるつもりだ。
俺は横たわりながら、ビームサーベルを巧みに使いこなす様子を思い浮かべる。
槍を使っている俺の懐に飛び込んだ敵が、ビームサーベルに驚き切られる様は面白い。
「懐に入れば、俺の方が有利だ!」
「それはどうかな?」
「ビームサーベルだと!?」
「隙あり!」
「グワーッ」
てな感じで、戦うのだ。絶対に面白い。何故相手がビームサーベルを知っているとか、戦闘中に会話する余裕ないだろとか、お前弱いじゃんとかの批判は受け付けません。持ち帰ってくださいませ。
実際、あのビームサーベルの利点は多い。先述したが、ステータスが貧弱な俺でも振り回せるし、魔力が多く、魔法攻撃力の方が高い俺には使い勝手が良い。それに、柄しかないので持ち運びやすい。相手の不意を突ける武器だ。
「あー、だいぶ良くなってきた……。魔力が回復するポーションでも作った方がいいか」
俺が作った下級ポーションは怪我や骨折などの外傷を直す魔法薬だ。風邪には効かないし、魔力も回復しない。スクロールにも回復魔法のヒールがあるが、それと同じだろう。
俺の攻撃手段はどれも魔力に依存している。魔力が枯渇した途端、俺は何もできない雑魚にジョブチェンジしてしまうのだ。魔力を回復させる手段は必須になる。
「あぁ、それと、ビームサーベルに名前を付けるか」
流石に外でビームサーベル呼ばわりするのはなぁ。俺がサブカルチャー大好き人間だということを、周囲に知られたくない。だってさぁ、この人相で魔法少女とか見ているんだぜ? ギャップがヤバいでしょ。主に悪い方向で。
俺が長身イケメンイケボだったら、それでもギャップ萌えになるだろうが、この俺では無理。現実見ようぜ。
「うーん、名前か……」
何だろう。名案が浮かばない。あだ名をつけるのは大得意だが、格好いい名前を考えるのは下手だな、俺は。ポチとかタマでいいか、面倒だし。
名前を考えていたら、すっかり頭痛は鳴りを潜めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます