第21話 社畜時代と変わってない
あー、身体がだるおも~。
俺は昼間貰った、椅子に横たわっていた。病院の待合室にあるような長椅子だ。ベッドよりも固めだが、ごろ寝をするには申し分ない。
何? 更年期障害? それもある。だが、それ以外にも理由はある。
あの髭熊野郎、覚えてろよ。何時かその髭を全部剃ってやるからな。髭を洗って待っていろ。
ガチムチのおっさんに、ビシバシとシバかれまくった俺と門番君は大変な目に会った。最後の方は、レベルが上がっているはずの俺より、門番君の方が元気だった。もしかしなくても、俺のステータスって低い? だよなぁ。知ってた。
となると、昨日の話し合いはかなりヤバかったのではないだろうか。門番君であれなら、それよりも強いらしい髭熊は相当強い。棒術Lv.7ってなんだよ。バケモンかよ。てか、地球で何したら、棒の扱いなんて上達するんだ。意味わかんねぇ。
「それすら超えるイケおじと爽やか君は何者だよ。よく俺、無事だったな」
小耳に挟んだが、イケおじは剣道と居合の道場の免許皆伝者だって話だ。それなら強いのは分かるが、爽やか君は何なんだ。はぐらかされたって言っていたが……。
「もしや、日本を裏で操る財閥の子孫か……。まさか、あの血族は滅んだはず。俺が知らない生き残りがいただと……」
え? どうした急に? フッ、知られてしまったのなら仕方ない。教えてやろう。俺は日本の陰を司る一族の末裔。暗殺や諜報など、表立って言えないような仕事をするのが、俺の使命さ。
んなわけあるかーい! 嘘だよ。そんな能力があるなら、真っ先にクソ上司をぶっ殺すわ。
しかし、マジで爽やか君は何者だ? 俺より若そうだが、そのカリスマは人を引き付けるものがある。立っているだけで嫌われる俺とは大違いだ。
ただ、俺みたいな少し個性的な人間の対処法は心得ていなかった。自頭は良いが、社会経験は足りないな。
個性的な自覚はあるのか、だと? もう少しまともなら会社を辞めるか、クソ上司を殺しているから。マジで。
ま、抜け目ない人間……エルフだが、悪い目はしていなかった。掌の上で転がされないように気を付ければ問題ないか。できるかは知らんけど。
「だが、身体強化を学べたのはデカい。魔力はあるからな」
そう、棒術だけでなく、身体強化のスキルも俺は手に入れたのだ。これは偶然で、槍が魔力を流せば威力が上がるのなら、俺の身体にも魔力を流せば強くなると思ったのだ。そもそも、異世界ものではあるあるの展開である。完全に失念していた。
俺は身体強化のスキル上げとして、今もほんの少しだけ魔力を流してスキルを使っている。魔力操作のレベルも上がりそうだ。
「錬金術……やるのか……」
はっきり言って、この疲れた状況でやりたくはない。晩飯も食ったし、身体も綺麗にした。眠くはないが、動きたくない。
「しゃーねぇ。やるか」
作りたいものは沢山ある。魔力が余っているのに使わないのは愚行が過ぎる。
俺は身体強化を止めて、立ち上がった。
「さーて、作りたいのは下級ポーション、紙、インク、糸、それとゴブリンが持っていた武器を使った何か」
とりあえず、簡単に作れそうな紙から作ることとしよう。
俺は作業台に拾った木の枝と魔石を置く。それだけだ。
「紙作りって。確か洗濯ノリか何かを入れた覚えがある。ガキの時だったから定かではないが、入れなくてもいいのか?」
家で和紙を作ろう、みたいなファンシーなオモチャで作った記憶があるが、昔過ぎて朧気だ。だが、頭に浮かんだレシピに必要な素材は木の枝と魔石のみ。不安だ。
「ま、いいか。作ってから考えよっと」
俺は目を瞑り、集中しながら魔力を流す。そして、目を開けるとそこには、A4サイズの紙束があった。
「作れちゃったよ。ご都合主義は素晴らしいな」
俺は試しに一枚手に取って手触りを確認し、部屋の蛍光灯に透かして見る。
ちなみに、俺の部屋にもスイッチがあって、電気がついた。どこから電気が来ているのは分からないが、考えるだけ無駄だという結論に至って、放置を決め込んでいる。
手触りは、コピー用紙と比べて少しザラザラしている。色も薄くついていて、全体的にわら半紙に近い出来上がりだ。品質は低品質。コピー用紙よりも品質は低い。試しに魔法陣を書いてみるが、魔力を流しにくく、その上、少し強く流すと魔法陣が途切れてしまった。
「これは……品質で魔法陣にも変化があるのか。高品質の物なら、もっと魔力を込めて魔法陣を書けると? そうなると、威力が上がるのか、多分」
明確には分からないが、多分そうだろう。どちらにしろ、実験は必要だ。
「そうなると、インクも威力に関係あるのか? 炭か煤集めは必須か。面倒な」
インクのレシピには、他にも木材や石材を使ったものがあった。俺は木材と石材を材料にする予定だったが、品質が関わってくるなら、材料の選別から始めないといけない。
俺はとりあえず、木材と石材のインクを作ってみた。材料の他にも、入れ物を用意しなければならないので、手ごろな大きさの石を、生活魔法の物体の形を整える魔法で成形した器を用意した。
「木材は兎も角、石材は石の色を引き継ぐのか。混じって変な色になっちまった」
木材インクは低品質の黒、石材インクは普通の品質で黒っぽい灰色となった。適当にペンも作って魔法陣を書いてみると、木材インクは書きにくいし、魔力は流しにくい。石材インクはボールペンと同じくらいだった。
「インクも関係あるな。品質を上げる方法も考えないとな」
品質を上げるには材料自体の品質の他に、方法が無いか、錬金術も用いて考えては試しに作り、結果を書き出してはまた作る。それを繰り返していると、気がつけばずいぶん時間が経っていた。
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