第18話 ようやく話し合い

「それで? アンタが欲しいものは何なのさ」




 女神、もとい村正さんは俺にそう訊ねる。


 んー、欲しいものかー。今は特にないな。となると……。




「正直なところ、資材と情報を持っている私が、欲しい、と思うものはありません」


「だろうね。でも、資材も情報もないアタシ達に渡せるものはない」




 現状を確認するように、村正さんは淡々と話す。


 実際、村正さんの言う通りだ。このままでは平行線は確実。交渉決裂だ。俺に考えはあるが、個人的にこいつらにそれを言いたくはない。ムカついたからだ。




「なら、簡単だ。アタシは鍛冶のスキルを持っている。アンタの武器やら防具やらを優先的に作る権利でどうだい?」




 ほう、そう来たか。形では返せないから権利。俺の考えとよく似ている。俺も、貸しという形で情報提供をするプランはあった。村正さんの意見の方が魅力的だ。だが、落とし穴もある。




「悪くない意見ですが、それでは村正さんのみ、私に利益を示すだけになります」


「? そうだけど?」


「その場合、私は村正さんにのみ情報をお渡しすることになります。ですが、村正さんが誰かに私から得た情報を伝えれば、その誰かは、私の情報をタダで手に入れることになります」




 村正さんがマージンを取るにしても、俺に利益はない。俺は村正さん一人分の利益しか得ることができず、皆が情報を知ることになる。俺は大損だ。


 俺の言わんとすることを理解した面々は、一様に苦い顔になる。




「それは……生産スキルを持つ方はその条件を飲めますが、戦闘スキルしかない方はどうにもならないのでは……」




 爽やか君は申し訳なさそうにそう言った。


 爽やか君、苦労の多い中間管理職みたいな雰囲気になったな。この短気なやつらを始め、他にもいろんなところの調整をしているのだろう。流石の俺でも可哀そうになって来た。少しくらい優しくしても、バチは当たらないだろう。




「戦闘職の方からは魔物の素材をいただければ、私に異論はありません」


「え? あの……魔物、ですか?」




 しくった。魔物がいることは知らないんだった。茶髪君に空飛ぶ即死トラップのことは話したが、魔物とは言っていない。というか、当時の俺も知らなかった。仕方ない。俺のミスだ。甘んじて受けよう。だが、俺は転んでもただでは起き上がらない男。今決めた。


 何事もないような顔をして、俺は話を続ける。




「ええ、この世界には魔物がいます。その魔物から採れる素材を貰える権利をくださるのなら、情報をお渡しいたしましょう」




 魔物と聞いて、部屋のあちこちからざわめきが聞こえる。困惑と恐怖が多くを占めているようだ。


 当たり前か。ゲームや小説の世界の生物がいると聞いて、驚かない人間は、普通はいない。想像上のものを前に、勝手に恐怖すると良い。そして、俺の持っている情報の価値を勝手に高めてくれ。


 ざわめきが大きくなる中、爽やか君は俺に向き合った。




「神崎さん、一つ確認をさせてください」


「何でしょう」


「それは情報だけですか? 資材も含まれていますか?」




 俺が途中から情報のみを口に出していた変化に気がついたか。抜け目ないな、爽やか君。




「気がつかれましたか。気がつかないようでしたら、資材の話は別でしようと思っていたのですが」


「やられっぱなしは性に合いませんので」




 ニッコリと笑いあう二人の目は笑っていない。




「資材は私も使うので、全て渡すことはできません。それでもよろしいですか?」


「使うということは生産職ですか? こちらもすべてを貰おうとは考えておりません。こちらで回収した資材のリストがありますので、それを参考に、不足しているものを要求します」




 誠意のつもりで言った一言で、俺が生産職であることがバレた。返答はせず、営業スマイルで流しておこう。




「こちらはそれで構いません。そちら側全員がこの条件を飲めば、ですが」


「私の権限の届く範囲で条件は飲ませます。ですが、権限の届かない、別グループは保証しかねます」


「別グループ、ですか?」




 今のところ、こちらに転移してきた人たちが複数のグループを作っているらしい。一番大きいグループは、爽やか君率いるグループで、既に30名を超えているという話だ。


 素直に質問した俺に、丁寧に説明してくれたのは、魔物の情報のお返しだそうだ。そうですか。




「この状況でグループ遊びとは……人間とはしょうもない生き物ですね」


「それは否定しませんが、神崎さんも一人グループみたいなものですよね?」




 誰がぼっちか!? 俺はソロだ! 傍から見れば同じか……。




「都合よく九城さんのグループを使いますので、悪しからず」


「いっそのこと、我々のグループに所属したらどうですか?」


「外部が勝手に勘違いするのは構いませんが、私は対等の立場です」




 誰かの下に就くのはごめんだ。ちょっと生まれが早いだけのクソ上司に頭が上がらない状況で、俺は学習した。




「それは追々考えましょう。神崎さんが納得できるようなグループを作りますので」




 最後の答えはグレーに。白黒つけないところが、実にイヤらしい大人のやり方だ。俺も同類だがな!


 交渉が終わる。俺はそのまま、この世界についての俺の考察と、空飛ぶ即死トラップや魔物の話をして、爽やか君が欲しがる資材を分けた。

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