第17話 圧迫面接とはこのこと

 俺は爽やか君の言葉を聞かなかったことにして、話を進める。




「それで、何が聞きたいのですか?」


「では、神崎さんがこちらに来てからの事を教えてください」




 これはまたふんわりとした質問だな。まぁ、要するに知っている事全て吐けってことか。回りくどい聞き方するなよ。面倒くさい。そんな聞き方するなら、俺も考えがある。




「私は昨日の朝、この世界に来ました。それは皆さんもご一緒でしょう? 朝起きたら自室でなくて、とても驚いたことを覚えています。何が起こったのかわけが分からず、とりあえず自分の身に異変が無い事を確認しました。その結果、髪色が黒から灰色に変わっていました。それ以外にも肉体的な変化が確認できたので、私は自身の身体が元の身体とは別物と考えました。この時点で、最初に疑ったのはゲームの世界です。VRゲームの世界かと考えました。そこで頬をつねってみたのですが、確かに痛みを感じた事もあり、一応現実として考えるようにしました。ゲームだと思うよりもよほど現実的ですから。その次に私は……」


「真面目に話せっ!」




 机をダンッと叩く音とともに、部屋の中に大声が響く。その犯人は刈り上げた金髪に筋肉隆々の若い男。俺に対して、敵意に近い視線を向けていた男だ。


 地球ならその容姿にビビる俺だが、ここはファンタジー世界。しかも、さっきまで殺し合いをしてきた男だ。見た目だけの奴に引くつもりはない。




「大真面目に話しているではありませんか。こちらに来てからの事を、できる限り詳細に伝えているのです。あなた方が欲しい情報でないと言うのなら、聞き方が問題あるのではないでしょうか?」


「お、お前……」




 顔真っ赤にしてプルプル震えてやがる。さては反論されたことがないな、こいつ。見かけで脅してきたタイプか。


 机を迂回してこちらに来ようとした筋肉達磨を、イケおじが止めた。




「やめい」


「でもよ……」


「そいつの言う通りだ。こちらの聞き方に問題がある」




 この部屋の中で最年長らしいイケおじの言葉に反論は出なかった。渋々座り直した筋肉達磨は俺を睨む。




「神崎と言ったな。そちらも質問の意図を分かっているなら素直に答えろ」




 気づいていたか。というか、普通はわかるか。だが、こちらも素直に答える義理はない。




「私はここに来る条件を彼に伝えました。しかし、いざ来てみるとその条件を無視してこの有様です。条件を呑む気がないのなら、私は失礼させていただきます」




 俺は条件という言葉を強調する。そうすると、自然と視線は爽やか君に集まった。




「条件とは何だ?」


「神崎さんの利益、です」


「ええ。私は自分の利益がないことをする気はありません」




 それはそうだろう。俺が労力と時間をかけて集めた資材と情報をタダで寄越せ、というのは虫が良すぎる。




「こんな時に自分の利益なんて……」


「自己中すぎる」




 そんな声がちらほらと聞こえた。ま、分からんでもないがな。


 部屋の中に不穏な空気が流れる。俺に注がれる視線が刺々しいものとなって降り注ぐ。


 正直、雰囲気に流がされやすい日本人ならここで折れる。俺は空気読まないけど。それに、一応メリットも存在するのだ。この雰囲気の中、敢えて俺から歩み寄りを示すことで信頼を得やすくなるし、俺の親しみやすさをアピールできる。と普通は考えるだろう。でも、俺はやらない。だから言っちゃう。




「自己中? 何の苦労もせずに他人の利益を奪おうとする、その魂胆こそが厚かましいという自覚はあるのでしょうか?」




 ワァオ、殺気ビンビン。でも無言。図星かなぁ? 何か答えろよぉ。


 正に、一触即発という場面。


 爽やか君は必至に打開策を考えているようだが、それなら早くしてくれ。筋肉達磨が立ち上がったぞ。筋肉達磨が達磨になる前にどうにかしろよ。


 イケおじは様子を見ているな。この状況で未だに営業スマイルを維持している俺を警戒はしているが、敵意はない。冷静だ。歳のなせる業か。


 おいおい、茶髪君はそんなにオロオロするなよ。俺は大丈夫だって。


 俺を囲むように人の壁ができ、筋肉達磨が先陣を切ろうとしたその時、この部屋の扉が開いた。




「神崎ってやつが見つかったって……おい、何だこれは?」




 飛び込んできたのは青い髪の背の低い女。一瞬、子供かと勘違いしたが、物の言い方と雰囲気が大人びている。そのアンバランスさが、その人の存在感を引き立てていた。


 その人のおかげで雰囲気は緩和されたが、俺を取り囲んでいる奴らは黙りこくったままだ。




「村正さん、実は……」




 村正と呼ばれたその人は、爽やか君から事のあらましを聞く。そして、呆れたように息を吐いた。




「そんなことで、こんなことになってんのかい。馬鹿だねぇ、アンタたち」




 お、俺の味方か? もしくは女神か? 


 俺は聞き耳を立てて、事の成り行きを見守る。




「神崎の言ってることは当然じゃないか。商品を買うのに金を払わない奴を、客とは言わないんだよ。それは単なる強盗さ」




 村正さん、マジ女神。崇めていいっすか? 爽やか君よりも役に立つじゃない。




「その神崎ってやつは誰だい?」


「私が神崎です」


「アンタか。目つきが悪いねぇ! ハッハッハ」




 笑い事じゃないんですよ。苦労ばっかりで良いことないですよ。そう言いたかったが、俺の味方になってくれそうな女神様の機嫌を損ねるつもりはない。それに、美人の笑顔は素晴らしいからな。心のオアシスだ。

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