第14話 反省できる大人なんだよ

「やったか……」




 首を落としてもまだ立ち上がるなら、そいつは物の怪の類だ。俺に勝てる要素はない。諦めて逃げよう。


 そんな俺の決意は意味を成さず、気配探知から反応がスッと消える。どうやら本当に死んだらしい。


 さて、種明かしといこう。といっても単純なものだ。死を悟ったゴブリンが死を恐れるなんて馬鹿な真似はしない。してくれるならそれで構わなかったけどな。だから、俺は火球を出しても突っ切ると予想した。そしてゴブリンは俺の予想通りの行動をしたわけだ。




「シールドって便利だわ」




 無属性魔法のシールド。文字通り、半透明の壁を出現させる防御系の魔法。そのスクロールをファイアボールのスクロールと同時に取り出して使っただけだ。


 半透明の壁は普通に目視でき、側面に回れば攻撃可能なことはすぐわかる。だが、火球による陽炎がゴブリンの視界を歪ませ、シールドに気がつく間を与えなかった。


 この半透明の壁はゴブリンの攻撃から身を守ると同時に、火球が俺に被害を与えないための盾としても利用させてもらった。ゴブリンが火球を避けても俺は無事だし、火の粉とか飛んでくることもなく、俺は安心して火球のコントロールに集中できる。


 種明かしを終えたそのタイミングで半透明の壁は消える。破壊されるか、時間で消えることも確認できた。




「それにしても、このゴブリン強かった~。よく勝てたな。俺」




 レベルアップしていなかったら、ゴブリンが俺を侮っていなかったら、ゴブリンも隠し玉を持っていたら。勝ったことは嬉しいが、反省すべき点は多い。帰ったら書きだして、対策を考えないといけないな。俺は即興でアクロバティックな戦法を取れるほど優秀じゃない。事前に対策をできるだけ練るタイプだ。だから、FPSみたいなゲームは弱いんだ。




「このゴブリンの鑑定結果は……魔道具、というより装備品か」




 今気がついたがこのゴブリン、腕輪を付けていた。かなり優秀なもので、全ステータスが少しずつ上がるらしい。そりゃあ強いわけだよ。貰おうっと。


 それと短剣。こいつはヤバいですぜ。装備者の同族に対して切れ味が上がり、同族を殺すほど成長するとか書いてあった。つまるところ、このゴブリンは仲間のゴブリンを殺しまわっていたようだ。道理で1匹でいるわけだ。




「気持ち悪いが、貰っておこう。置いといても意味ないし」




 誰か、もしくな何かに持っていかれるのは面白くない。そして危険だ。俺が責任を持って回収しておこう。




「てか、大丈夫だよね? 呪われてないよね?」




 鑑定もできなさそうなゴブリンが、この短剣の特性を理解していたとは思えない。ならば、呪いによって動かされていたと考える方が自然だ。


 その考えにたどり着いた俺だったが、やはり俺は迂闊だったようだ。普通に回収しようと、その短剣を手に取ってしまったのだから。




「うぇ!?」




 変な声が出ちゃった。だって、頭の中に直接囁かれるように「殺せ」という声が聞こえた気がしたから。しかも、鑑定するまでもなく、この短剣の名前と特性まで理解してしまった。




「呪いの武器じゃーん。ヤになっちゃう。もう」




 今なお「殺せ」と囁く短剣に、俺はイラつく。俺は他人に、俺のやる事を勝手に決められることが大っ嫌いなんだ。このぶっころ剣は錬金素材行き確定だ。


 俺は手に持ったぶっころ剣を睨みつける。




「うるせぇ。ぶっ殺すぞ」




 ぶっころ剣は黙った。脳内に響く「殺せ」の合唱は無くなり、俺のイラつきも治まる。


あのイラつきも、呪いの効果かもしれない。内なる凶暴性を目覚めさせる切っ掛けとしては十分な効果だ。


 おれはぶっころ剣をマジックバッグに入れて、腕輪と角も回収した。それ以外は特質すべきことはない。


 俺は腕輪に一度、綺麗にする魔法をかけてから装備する。ゴブリンの腕サイズだった腕輪は、俺の腕にぴったりのサイズに大きくなり、違和感なく装着できた。




「魔法ってやっぱりパネェわ。サイズは変わるし、装備するだけで身体能力が上がるとか、もうわけわかんね」




 ほんの少し体が軽くなった気がする。心持ち槍も軽い。少しだけ強くなった気がする。これも錬金術で作れるなら、錬金術って滅茶苦茶強いのではないだろうか。まさかチートスキルか。やったね。




「さて、そろそろ帰るか。今から戻って、暗くなるまで待機。帰宅だな」




 日中は人が出歩いている可能性が高い。バレても問題ないくらいのステータスにはなっただろう。知らんけど。この場で確認すればよいって? 俺は全て片付いてから見る派なんだ。いっぺんに上がった感覚が好きだからな。


 というか、疲れた。早く帰りたい。それが本音。待ってろ、マイルーム。俺がもうすぐ帰るからな!


 今から帰れば、日が傾く前に建物に到着できるだろう。そうすれば、暗くなるまで待つ時間は少しですむ。場合によってはそのまま帰ってもいい。


 俺は帰宅の決心を固め、意気揚々と歩き出した。

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