第13話 慣れた頃が一番危ない
「飽きた」
俺は宙に向かってそう訴えた。気配探知に引っ掛かる反応がゴブリンだからだ。偶にスライムもいるが、大体ゴブリンに殴られている。
ゴブゴブスラゴブゴブスラゴブゴブゴブゴブスラゴブゴブゴブゴブゴブ……。ゲシュタルト崩壊し始めたゴブリンという言葉に、俺は盛大にため息をつく。
今も俺はゴブリンを屠り、角と魔石を手に入れたばかりだ。同じ戦法で戦ってばかりで、流石の俺も飽き始めてきた。
そんな俺の叫びも空しく、昼飯を挟んでひたすらゴブリン狩りをする俺は、もはや無の境地に達しようとしていた。
そんな景色も敵も戦法も変わらない俺に変化を与えたのは、一匹のゴブリンだった。そいつはゴブリンにしては珍しく、たった1匹で歩いていた。それだけでも怪しいのに、そいつの纏う雰囲気や、気配探知も普通のゴブリンと違うことを示していたが、ゴブリン狩りに飽きて、注意散漫になっていた俺は気がつかなかった。
俺はいつも通り、必勝法と化した不意打ちをすべく背後に回り、駆け出す。そして、槍で薙ぎ払った。普通なら臓腑をまき散らすだけのゴブリンだったが、このゴブリンは違った。
「なっ!? 避けた!?」
ゴブリンは前方に転がるようにして俺の槍を躱すと、起き上がると同時に俺と向き合った。そして、手にした短剣で俺に切りかかって来た。
「うおっ!」
今度は俺が地面に転がった。無様としか言いようのない避け方で、はっきり言って死に体だった。だが、ゴブリンは追撃を掛けず、俺が立ち上がるのを待っていた。
俺は槍を構えてゴブリンと向き合う。そして嗤われた。
その、俺を見下すような目が、あの忌々しいヤツ等そっくりで、俺は全身の血が沸騰するような感覚に陥った。なのに、頭が異様に冷める感覚もある。
「(あぁ、こいつ殺すわ)」
俺の殺気を感じ取ったのか、ゴブリンが短剣を構えて飛び込んでくる。その動きに迷いはなく、今まで見たどのゴブリンよりも早かった。
だが、それはゴブリンの話だ。今の俺の方が早い。ゴブリン狩りのおかげでレベルアップしたらしい俺には対応可能だ。らしい、というのは、強くなった感覚はあったが、レベル上げは全て終わった後に確認するタイプな俺は、ステータスを確認していないのだ。だから、スキルがどうなっているのかも俺は知らない。
ゴブリンの攻撃をバックステップで躱す。単純な技術では俺より強いようだ。内に入られている時点で、槍の利点が消え去っているので、防戦一方になるのは致し方ない。俺が偶にする攻撃は華麗に避けられてしまう。ぜひ見習いたいものだ。
で、俺は勝てるのか? と思った皆さん。安心してください。ちょっと不安です。
「でもやってみないと分からないよねぇ!」
俺はマジックバッグからスクロールを取り出し、魔法陣の起動のために、ほんの少しだけ魔力を流す。
「グギャ!?」
それは驚くだろうよ。目の前に火の玉が現れたらな。しかも、俺に伸ばそうとした短剣を持つ腕の軌道上なら尚更。
慌てて手を引っ込めるゴブリンに、俺は火球を掠めるようにして突きを放つ。同時に火球―ファイアボールの魔法をゴブリンに向けて放った。
「……へぇ、やるじゃん。片腕だけとはね」
俺もスクロール自体を初めて使ったためか、コントロールが甘く、思っていた軌道からずれてしまった。そのせいでゴブリンに回避できる隙間を与えた結果、左腕を切られたゴブリンの姿が目の前にあった。
正直、この一撃で仕留めるつもりだったので残念な気持ちでいっぱいだ。そう思う俺の口は吊り上がっているが、俺の知るすべはなかった。
ゴブリンは短剣を構える。その目には先ほどまでの侮りは無く、真剣そのものだ。そんな目をゴブリンできるのだな、と俺は感心しながら槍を構える。
「(残念だな、ゴブリン。お前の本性はもう知ってんだよ。俺はお前を殺す)」
俺があの目と嗤いを見た時点で、こいつを殺すことは確定した。泣き喚こうが知ったこっちゃない。生まれたことを後悔しながら死んで行け。
今度は俺から動いた。槍の有利な間合いを取って、連続の突きを放つ。ゴブリンは片腕を失って尚、華麗に避ける。寧ろ、これまで以上に回避が上手になっている気さえする。
だが、これで良い。ゴブリンの傷口から血が止めどなく出ている。このままいけば出血死だ。
「グギャ!」
次第に動きが鈍くなり、槍の攻撃が掠るようになる。このままいけば簡単な話だったが、そうは問屋、ゴブリンが許さなかった。
自身の行く末を理解したのか、捨て身の攻撃を仕掛けて来た。自身を掠める槍を無視して、俺の懐に飛び込んでくる。
「予想通りだな」
俺はスクロールを取り出し、再び火球を発生させた。
こうすれば、ゴブリンが後ろに下がるだろうと思ったから、ではない。
「言ったはずだ。予想通りだ、と」
ゴブリンは案の定、火球を突っ切って俺の方に向かってきたのだ。そして、短剣を突き出して、果敢に攻撃を仕掛けて来た。
でも、俺は避けなかった。必要なかったから。俺の目の前に発生した半透明の壁が、短剣を止める事が分かっていたから。
驚愕に顔を染め、死に体を曝すゴブリンに、俺は容赦なくファイアボールをぶち当てる。
「グギャァァァッ!」
断末魔を上げ、ゴブリンは地面に伏せる。まだ息があるようだ。気配探知にまだ反応がある。
俺は槍を構え、安全圏から首目掛けて振り下ろした。
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