第5話 ファーストコンタクト

「お次は何があるのかな~」




 はい、俺です。未だに資材回収です。めちゃ楽しいです。やめられなです。




「鉄かな? 悪くない」




 マジックバッグなので重くないから、鉄塊だろうが何だろうが、関係ない。サクサクと回収して部屋を見回して出ていく。この繰り返し。楽しい。




「おっと、四階は終わりか。三階にレッツラゴーだな」




 建物に複数ある階段の内、一番近いところから三階に下り、手近な部屋から攻略していく。


 もはやルーティーンと化した作業をしていると、不意に脳裏に何かが近づいてくる気配を感じた。地球に居たら絶対分からないであろう感覚に、俺は思わず気配のする方向を振り向いた。走っているのか、真っ直ぐにこちらに向かってくる気配を前に、俺は急いで対策を考える。


 入り口は一つの部屋の中なので、逃げ場はない。袋小路だ。相手が敵か味方か分からないが、警戒するに越したことはないので、とりあえず、トイレで手に入れた棒を手に持つ。


 何故、棒かって? 拾った武器でもいいが、重くて振り回せる自信がない。ナイフは軽いが近づかなければ当たらない。その点、棒ならば軽くて距離もとれる。その上、相手が味方だった場合、初対面で武器を向けるのは印象が悪くなる。変に警戒されるよりは、話し合いに持ち込むべきだろう。少なくとも俺は、自身の戦闘能力を過信してはいない。


 廊下響いていた靴音が止まり、そいつは姿を現した。茶色い短髪の好青年だ。頭に三角の耳が付いて、尻尾が無ければな。




「す、ストップ! 俺は敵じゃないですっ! だから、それを向けないで下さい!」 




 茶髪君が慌てながら、そんなことを言う。敵かどうかを判断するのは俺なのだ。少なくとも君ではない。そんなことを思いながら、尚も棒を構えたまま、俺は茶髪君の出方を窺う。




「朝起きたらここにいて、外には誰もいなくて、耳と尻尾が生えてるし、訳が分からないんです。誰かいないか探していたら、この部屋の扉が開いていて、それで……」




 段々と泣きそうな顔になりながら、必死に説明をする茶髪君のその目を見て、俺は棒を下ろした。




「なんにせよ、俺と同じ状況なのは分かった」


「あぁ、良かった」


「まずは顔を拭け。男が簡単に泣くもんじゃない」


「すいません……すいません……」


「こういう時は謝罪ではなく、感謝を口にするものだ」


「ありがとうございます……」




 自身と同じ状況の人を見つけて安心したのか、ボロボロと涙をこぼす茶髪君に回収したハンカチを手渡しる。


 しばらくすると、茶髪君は目元を赤く腫らしながら顔を上げた。




「すいません」


「ま、仕方ないさ。いきなりこんな状況になれば、普通はそうなる」




 口に出しといて何だが、それだと俺が異常みたいだな。性格がねじ曲がってるって言ってのは誰だよ、だと? 俺ですが、何か?




「あの、えっと……」




 何か話そうと、しどろもどろになっている茶髪君は、頭がこんがらがっているようだ。仕方ない。社会人として生活してきた俺のコミュニケーション能力を見せてやるか。




「まずは情報共有だ。この世界について知っている事を話せ」




 違うんです。睨んだわけでも凄んだわけでもないんです。だからそんなに怯えないでください。お願いします。




「あ、はい」




 こういう時は気さくに笑って自己紹介からだろ、馬鹿か俺は。茶髪君ごめんよ。おじさんコミュ力ないんだ。


 茶髪君の話によると、どうも俺と同じような境遇らしい。つまるところ、何も目新しい情報は無かった。それどころか、ステータスとかの話は知らなさそうだ。




「君も俺と同じか……」


「ケンスケです。西木 ケンスケ」


「西木君か。俺は……神崎だ」


「神崎さんですね。よろしくお願いします」




 茶髪君のいきなりの自己紹介に、思わず同僚の名前を言っちゃった。ごめん神崎。名前借りるわ。訂正するのも面倒だし。神崎って名前、格好いいし。




「それにしても、ここ、何処なんですかね?」


「さあな。少なくとも地球ではないな」


「何でそう思うんですか?」




 俺は少し躊躇ったが、ステータス関連や空飛ぶ即死トラップのことを伝える。この場では変に情報を隠すよりも、信用を得た方が得だと判断したからだ。




「ステータス。……本当だ」


「わかってくれたか?」


「VRゲームみたいな可能性はないんですか?」


「ゲームなら死んでも復活できそうだが、試したいのか?」


「……嫌です」


「賢明な判断だ。どちらにせよ、現実と思って動いた方が身のためだろう」




 そうですね、と頷く茶髪君は、急に俺の方を見た。その目は真剣だった。




「そのですね、神崎さんが良ければ、一緒に行動しませんか?」




 愛の告白ではなかった。男からの告白なんぞ、全くもって嬉しくはないので、全く悔しくない。これっぽっちもだ。


 さて、茶髪君の申し出はどうするべきか。メリットはある。何をするにも、一人と二人では効率が段違いに異なる。とれる手段も大きく増える。この状況でとれる手段が増えることはもろ手を挙げて歓迎するところだ。


 だがデメリットも存在する。集めた資材は半分に山分けしなければならないし、マジックバッグのようなレアなアイテムは諍いのもととなる。何より、俺は他人と一緒にいることが苦手なのだ。




「いや、ここは二手に分かれた方が良いだろう」




 俺は考えた末にそう言った。


……捨てられた子犬みたいな目をするんじゃありません。男の子だろうに。




「現状、危険な存在は確認できていない。そして、今は資材回収の途中だ。二人で同じところを回るよりも、別れて探索した方が、効率が良い」




 俺は鍵のかかっていない部屋に資材があることを告げる。武器や食料などが存在し、それらでこれからの生活が決まるということも教えた。




「サバイバルゲームみたいですね」


「まぁ、本物の命がかかっている事以外は似たようなものだろう」


「……神崎さんの言う通りにします。ゲームだと初動での失敗が響くので」


「ならバックパックを取ってくると良い。中身を部屋に置いて、鍵を閉めるのを忘れるなよ」




 そう言って、俺は茶髪君に三階の探索を依頼する。三階が終わったら二階に下りるようにも伝えた。俺は一階から探索をしていくことを伝えて、俺達は解散した。

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