第4話 資材集めが一番楽しい
「おた~から~ザックザク アッソレッ ホイサッ」
現在、俺はご機嫌だ。ド下手くそなオリジナルソングを歌っちまうくらいにな。何故かって? 聞きたい? 聞きたいよね? しょうがないなぁ、話してやるよ。
ほら、このウエストポーチがヤバい。ダサいだって? 分かってねぇなぁ。なんたってこれ、マジックバッグなんだぜ。すごいだろ? そうだろ? マジックバッグ万歳!
「お、これは剣か。何かよさげ」
装飾は最低限だが、美しい細身の直剣をマジックバッグ入れる。入れると言っても、剣に触れて念じれば、マジックバッグに入るのだ。出すときも欲しいものを念じれば手に現れる。
小さいウエストポーチなので、動きに一切干渉しないし、重くない。出し入れ自在なのでサイズも関係ない。どれだけ入るかは知らないが、今のところ問題はない。
「あー、楽しい」
マジックバッグ、マジチート。持ち物制限をなくせるとか、ぶっ壊れもいいところだ。おかげで探索が捗って止まらない。おかげで俺は今、四階にいる。五階は探索し終えた。
どうやらこの建物は五階建てで、漢字の“王”に似た形らしい。所々、鍵のかかった部屋が散見されるが、やはりどこも開かなかった。しかし、これまで誰とも出会っていないので、最初の仮定は間違いで、誰も部屋から出ていないか、それとも誰もいないか、の二択だろう。
「人が苦手な俺には丁度いいや」
結論の付けようが無いので、探索に集中する。
これまでの探索の成果は、武器だけでも剣や槍、斧、それ以外にもたくさんあった。それ以外にも、コピー用紙やボールペンのような雑貨、コーヒーやココアなどの粉末飲料、軍用レーションのような日持ちがする食料が手に入った。
「お、また魔石か。錬金術に必須らしいから、ありがたい」
そう、ちょくちょく出てくるのがこの魔石だ。大きさや形は不揃いで、色も様々。錬金術に大量に必要だ、と入って来た知識には載っていた。
「ふぅ、流石に疲れたな。休むか」
殆ど休憩なしで探索し続けていたのだ。流石に疲れる。疲れた状態では効率も悪くなる一方だ。そのことを、是非かの上司には知ってほしい。理解できる頭を持っているかは疑問だがな。
そんなことを思いながら、俺は座って水筒を取り出す。そう、この俺はこの水筒の使い方をマスターしたのだ。身体に存在する魔力を水筒に向けて流す。すると水が生成されるという仕組みだ。調子こいて水浸しになったのは秘密だ。
「あぁ~、身体に染み渡るぅ」
毎日の残業と寝だめするだけの休日とは違う、確かな充実感と疲労感が心地よい。自分のやりたいことを自分のためにする、そんな当たり前のことがこんなに楽しいとは思わなかった。転移してきた時はどうなるかと思ったが、これならありかもしれない。
ただ休憩するのも何だかもったいないから、スキルの確認でもするか。一応、サバイバルだしな。
「ステータスに変化なし。錬金術は実践あるのみ。魔法陣も同上。気配探知と隠密は効果の真偽不明。言語理解は……外国人か、この世界のジモティーが居る可能性あり。残るは生活魔法だけか……」
頭に入って来た情報を頼りにすると、火を起こす魔法、飲み水を生成する魔法、風をおこす魔法、物体の形を整える魔法、光源を創る魔法、日陰を創る魔法、綺麗にする魔法の七つをまとめて生活魔法と言うらしい。それぞれ魔法起動のキーワードがある。
「えーっと、火はマズいし、水もいらんな。風でいいか。……ブリーズ」
身体から魔力が引き出される感覚が分かる。それと同時に、ふわりと風が巻き起こり前髪を揺らした。ただ、それ以上の事は起こらない。
「……これだけか」
あまりにしょうもない魔法に、俺はガックシと肩を落とした。これが必要になる場面が浮かばない。断続的に風が吹くなら扇風機代わりにもなったが、これではスカート捲りもできるか怪しい。
「いや、待てよ。転生ものの知識を思い出せ。こういうのはイメージが大事なんだ。もっと扇風機みたいな風を想像しろ、俺」
そう自分に言い聞かせて、俺はもう一度、ブリーズ、と唱えた。
「お、おお! 実験は成功だ!」
ふんわりとした風が頬を撫でる。それも一回きりではなく、断続的に。
イメージでどうとでもなるのなら、他の生活魔法も使えるのではないかと思い、俺は次々に使っていた。
「フッフッフ、また一つ賢くなっちまったぜ……」
イメージで魔法に変化が変わるほかにも、意識的に魔力を多く使えば強く、少なくすると弱くなることも発見した俺は、得意気に笑う。
ちなみにキーワードを唱えなくても、唱える魔法を知っていれば、無詠唱で発動できる事も発見した。
「魔法が楽しくて時間かけすぎたな。行くか」
魔力は減ったが、体力は回復したので、俺は次の資材回収のために立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます