第3話 いや、マジ無理

 バックパックの検分を終えた俺は立ち上がる。そして、窓に接している壁側のドアに手を掛けた。鍵がかかっているということも無く、すんなりと開いたドアの向こうは六畳ほどの部屋だった。




「デカい鍋と机しかねぇな」




 子供一人なら余裕で入れそうな変わった形の鍋と、その隣に四角い机が置いてある。それぞれ側面に複雑な模様が書かれていて、怪しさ満点だ。




「鍋はア〇リエシリーズっぽいな。で、机はビル〇ーズか。となると、錬金術の部屋かこれは」




 有名ゲームに似た雰囲気を放つそれに近づくと、まるで昔から知っているかのように、使い方が理解できた。ついでとばかりにスキルに関する情報も知ることができた。使い方を試行錯誤する必要は無くなったが、誰かに勝手に脳みそを弄られているようで、気持ちよくはない。


 鍋にはかき混ぜ棒が入っているだけで、他には何もなかった。材料が何もない時点で作れないと脳みそが教えてきたので、部屋を後にする。




「こっちが外に出るドアか。開けたら目が覚めるとかならないかな。……よく考えたら、現実もクソだったわ。なら目なんて覚めなくていいわ。あ、でもやっぱり、地獄だったら目が覚めて欲しいかな、うん」




 ドアの前に立つと、緊張感からか少しだけ足が竦むような感覚に襲われた。気を紛らわせるように思考を口から垂れ流してから、ドアノブを握る。


 力を込めてドアノブを捻りドアを開けると、目の前には大きな窓が見えた。左右を見渡すと、片方は行き止まり、もう片方ははるか向こうまで廊下が続いていた。




「どこだよ、ここ……」




 何となく大学のキャンパスじみた雰囲気を漂っており、少しだけ懐かしさを感じた。


 誰もいない廊下から窓の外に視線を移すと。同じような建物が見える。窓に近づいて観察すると、ここと繋がっているらしい。




「つーか、ここは五階か。景色は……大自然に囲まれた、緑生い茂る環境です、ってか」




 窓から確認できる限り、この建物は森の中に建っているように見える。あわよくば、もっと快適な都会が良かった。


 そんな呑気な事を言っていると、突然、視界の隅に閃光が走る。ビクッと体を震わせその方向に視線を向けると、はるか向こうの山脈で爆発と思しき土煙と、遅れてビリビリと振動と爆発音が聞こえてきた。




「……」




 言葉を失った俺に追撃を掛けるが如く、土煙の中から長細い物体が浮かび上がる。それの先端がカパッと開き、光の玉が作られて地面に向かって放たれた。その直後に先ほどと同じく、閃光が走り、振動と爆発音が届く。




「……マジかよ……」




 細長いそれは羽根らしきものを羽ばたかせて、遠くに飛んでいった。


 このクソショボ装備であれと戦えってか? はいクソゲー。




「いや、マジ無理」




 勝てっこないだろあんなの! 何あれ。空を飛ぶわ、えげつない攻撃するわ、無理無理マジ無理。どうしろってんだよ。




「考えるだけ無駄だな。空飛ぶ即死トラップの対処法なんて知らん」




 俺はあれを見なかったことにして、この建物の探索をすることにした。一応、バックパックは背負っている。部屋を出たら戻れない、何てのはよくあるものだからな。


 振り返ってドアを確認すると、鍵穴が見えた。ドアの開閉確認を終えてから、最初に拾った鍵を刺してみる。ガチャッと音が鳴り、ドアに鍵がかかった。どうやら、この部屋の鍵らしい。


 鍵が開くことも試してから、しっかりと戸締りをして探索に繰り出す。




「片っ端から開けてくか。サバイバルならダラダラしてると死ぬからな」




 サバイバルゲームならば、最初は資材の確保が重要だ。これだけ大きい建物なら多少は何かあるだろう。下手に閉じこもっていても手持ちの食料をいたずらに減らすだけだ。


 最初にいた部屋を俺の部屋とすると、その隣にある部屋から探索を開始することにする。




「さーてと。先ずはお隣から調べましょうねー」




 俺はウキウキしながらドアノブに手をかけて捻るが、びくともしない。何度捻っても動かないドアノブを観察すると、これも鍵穴が付いていた。




「鍵穴……誰かいるのか。その可能性を失念していたな」




 俺の部屋から出る時はドアに鍵などかかってなかった。つまり、扉が閉まっているということは、既に探索を始めているということだろうか。




「マズいな。資材が盗られるのは良くない」




 サバイバルとはゼロサムゲームの側面が強い。資材が多い程、有利に物事を進めることができる。このファンタジー世界でどれほどそれが通用するかは定かではないが、俺も資材集めを急いだほうが良いだろう。




「他人がいるなら、スキルも使った方がいいか……迷ってる暇はないな。使おう」




 俺は自身のステータスに存在していたスキルの内、気配探知と隠密を使うことにする。使い方は簡単。意識するだけ。自分では変化が分からないが、多分出来ている事だろう。大丈夫。たぶん。


 そのドアは諦め、次に向かう。そこはトイレだった。




「トイレか。そう言えば、朝からずっとしてなかったか」




 トイレを見た途端、急に尿意が現れる。膀胱が悲鳴を上げている声が聞こえ、俺は急いでトイレに駆け込んだ。




「ふー、スッキリした」




 小だけでなく大もした俺は大満足だ。最近、ストレスばかりで便秘気味だったから、随分と溜まっていた。ついでに掃除用具入れに入っていた、軽い金属の棒を持ってきた。明らかに掃除用具ではないし、何かに使えるかと思ったのだ。




「おれはぼうをてにいれた!」




 誰もいない廊下に、俺の声が空しく響いた。

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