第2話 ステータスが出て来た
朝が来た。
部屋が明るくなったのを感じ取り、俺は目を開ける。
「……」
俺は言葉を失った。何故かって? そりゃあ、起きたら知らない部屋にいるんだもの。寝起きの頭が停止したのさ。
「夢……ではないな」
頬をつねってみたが、そこには確かに痛みがあった。そもそも、この方法の真偽は知らんが。
次に俺は自身の身体を確認する。着ているのは長年愛用のくたびれたジャージだ。寝る前と変わっていない。だが、その下は変わっていた。何と、アラサーとなって気になり始めたお腹周りが、あら不思議、引っ込んでいるではありませんか。
「ん~、悪くない」
腹筋こそ割れていないが、よく引き締まったウエストは素晴らしい。下を向いてお腹周りを確かめていると、視界の端に何かが見えた。気になって手を伸ばすと、灰色になった髪の毛だった。
「白髪……ではないな。黒からこんな色になっちまって、苦労してきたんだなぁ、俺」
髪色が変わった事には驚いたが、灰色は嫌いではないし、禿げでないなら、まあ良いか。後で確認したが、下の方の毛も灰色だった。そして、息子は一回り大きくなっていた。やったぜ。使う機会はなかったけどな。
「体に異常なし。次は……どこだここ」
何となく声も変わっているようだが、これだけ変わっているんだ。声も変わっていてもおかしくはない。どうせなら顔もイケメンに生まれ変わってないかな……ないか。
ベッドに座り、周囲を見回すと、部屋の全体が見えてくる。
部屋自体は広い。教室一つ分はあるだろう。片側にはすりガラスの窓がズラッと並び、三方の壁の内、二方向にはドアが付いている。そこに、ポツンとベッド。そして、部屋の真ん中にリュック。うん、実にシュール。
「ゲームならミミック確定だろ。リュックだけど」
裸足のままリュックに近づき、恐る恐る触れてみる。どうやら罠はないみたいだ。手に取って確かめてみると、床に何かが落ちる音がした。
「おうっ……鍵かよ。ビビらせんな」
この部屋から出る鍵だろうか。とりあえずジャージのポケットに突っ込み、リュックを漁る。
「これ、あれだな。バックパックか。知らんけど」
バックパックとは登山とかでよく使われる、大きめのリュックだったはず。違いは知らん。高校の同期が、バックパック背負って登校していたが、こんな感じのものだったはず。あれよりずっと簡素な造りだが、丈夫そうだ。
「中身は何じゃろな~。御開帳~」
中には色々入っていた。まず目に飛び込んできたのは布だ。広げると服だった。ブーツも入っている。武骨で分厚いナイフと水筒、大きめの四角い金属の缶。その他、ナイフとかを装着するベルト、包帯などのこまごました物。以上。
「物騒な匂いがしてきたなぁ、おい。サバイバルかよ。というか、ここ何処よ」
今まで考えないようにしていたが、ついに口に出してしまった。
朝起きたら知らない場所に居て、事情も分からず武器やらを渡される。ゲームで例えるなら、これから脱出サバイバルが始まるだろう。外にゾンビが居たら完璧だ。
「とりま、着替えるか。ゾンビ居たら嫌だし」
ササッと着替えるとサイズはぴったりだ。色合いも黒っぽくて目立たないし、気に入った。そして、マイジャージよりも動きやすい。ついでにベルトとナイフを装備する。
「冒険者レベル1ってところかな。これでステータスとか言って、ステータス……画面が……」
出て来たらよくある転生のものの導入だな、と言おうとしたら出て来た。ステータス画面が。
あまりに現実離れした光景に、俺のキャパシティは溢れた。せめて、見なかったことにしたいと思い、閉じてくれと念じると、あっさりステータス画面は消えた。
「言葉で反応するわけじゃないのか……」
そう思って、心の中でステータスを念じると、ステータス画面が出てくる。どうやら声に出さなくて良いらしい。
よかった。声に出して言わないといけないなら、人前で声を出さないといけなくなる。それは恥ずかしい。
想定外ではあったが、ステータス画面についてわかったし、何よりここが地球ではない事が判明した。
「新手のVRとかでないなら、これは決まりだな」
死んだ記憶も、神様に会った記憶も無いが、見てくれが変わっているのだから、転生と呼ぶべきだろうか。どっちでも良いか。そんなもん。
考えるのをやめた俺は、ステータス画面を呼び出した。
―
レベル:1/30
種族:ヒューマ
基礎魔力:E+
基礎物理攻撃:F-
基礎物理防御:F
基礎魔法攻撃:E-
基礎魔法防御:F+
基礎俊敏:E-
スキル:魔法陣Lv.1 錬金術Lv.1 気配探知Lv.2 隠密Lv.3 言語理解 生活魔法
―
「判断基準がわからねぇ……」
まず種族とは何だ。エルフでもいるのかこの世界は。それはそれでアリだが、ヒューマとは何ぞや。ヒューマンをもじった感じか。だったらヒューマンで良いだろうがよ。
そしてステータスのFの多さよ。レベルが1だから仕方ないにしても低くないか。
スキルも強そうなものないじゃんよ。ユニークスキルとかあってもいいんだよ。ワンチャン、錬金術ならあるかも知れんが、俺は銃の構造なんて知らんぞ。
「考えても埒が空かんな。よし、次」
再び思考を放棄して、今度は金属の缶を手に取る。そして、蓋を開けた。
「これは、あれか。カ〇リーメ〇ト的サムシングなやつね」
10×10の計100本、カ〇リーメ〇トもどきが入っていた。一食一本だとして、約一か月分。その期間で自給自足できるようにならなければならないようだ。意外と厳しくないか。食料があるだけマシか。
続けて水筒を手に取る。蓋がコップになるタイプの水筒で、500mlのペットボトルくらいの大きさだ。
「で、この水筒は……空かよ」
どこかで水を汲む必要があるな、と思った矢先、身体から何かが抜かれるような味わった事の無い感覚がして、水筒から手を離した。自身の身体を弄って異常が無いか確認してから、再び水筒を手に取る。
「水が入ってやがる……どういうシステムだ、こりゃ」
水筒の中からちゃぷちゃぷと水音が鳴り、試しにコップに向けて傾けると水が出て来た。美味しい。
「このファンタジー世界から考えると、魔力を消費して水を創った、ってところか。まじファンタジー」
食料と水の目途が立ち、バックパックも漁り終わったので、部屋の探索をするために立ち上がった。
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