第7話

 コウモリの化け物は前に進み、中村は後ろに下がり一定の距離を保っていた。そんな緊張の状態で中村は何度目かの唾を飲む。

 『今お前の体はある程度回復してある。痛みはほとんどないし身体能力が上がってる。このまま戦えばおそらく勝てるぞ』

「わかった」

 先に動いたのはコウモリの化け物でコウモリの化け物は中村に走り出し、ある程度近づくと空を飛び、中村の上を通過する。中村はその隙にコウモリの化け物が飛び立った方向とは逆の方向に走り出す。

『おい!何で逃げる!?』

「無理だって!あんなのに勝てるわけないだろ!」

『逃げ切れるわけないだ…後ろ!』

中村が振り返るとコウモリの化け物はもう目の前に来ていた。中村は反応できずコウモリの化け物の攻撃を食らってしまう。コウモリの化け物の攻撃は運良く聖剣にぶつかり中村は後ろに吹き飛ばされそのまま木に衝突する。

「あっ……いだ…」

背中を強く打ち付けた中村はその場に倒れる。そんな状態の中村にコウモリの化け物は走り出し中村の腹に蹴りを入れる。

「ガハッ」

再び木に体を打ち付けられる。コウモリの化け物はそのまま3度中村の腹を蹴る。中村は口から血を吐き、骨の折れる音が辺りに響く。

 コウモリの化け物は中村から少し離れ空を飛ぶ。

『おい、生きてるか』

「痛くて……話したくない……」

『いいか?これが最後のチャンスだ。ヤツが降りてきたらカウンターでヤツを斬る!それしかない』

「体が痛くて立てない」

『お前の力が足りなくてもう体を操れない。自分で立ち上がれ。あとお前の力が少なくなるからタイミングまで黙ってるからな』

「わ、わかった」

中村は剣を杖代わりにしてどうにか立ち上がる。そして剣を剣道の上段のように構える。

『なんだその構え?』

「高校の時に剣道の授業で習った方法!他の構えは知らない!ってか喋らないんじゃないの!?」

『やっべ』

アウグは思い出したように黙り出した。

 コウモリの化け物は最後の旋回を終え突撃する。中村は剣を強く握りしめタイミングを待つ。コウモリの化け物はとても速くアウグがタイミングを取らなければ当てるのすら難しいだろう。

 コウモリの化け物は中村の寸前まで来た。

「まだ!?」

中村が聞くもアウグは何も反応しない。そしてコウモリの化け物は腕を伸ばせば届く位置にいた。

『今だ!』

「やあぁ!!」

中村は掛け声と共にコウモリの化け物の左翼を斬り落とす。

「があぁぁ!」

コウモリの化け物中村から数メートル離れた場所で顔から落ち、ゴロゴロと転がり木に叩きつけられる。

「や…やった……」

中村はその場に倒れる。

「はあっ……はあっ……やった…やったぞぉー!!!」

『ああ、おめでと。じゃ俺は少し眠る。起きるまで起こすなよ』

「っああ」

アウグはそう言って黙り出した。

(これからどうしよう)

中村はそんなことを考えながら立ち上がるが膝を付いて倒れてしまう。

(あ、無理だ)

中村はそのまま目を閉じてしまう。

 それからすぐに足音が聞こえた。ゆっくりと顔を上げるとそこには片翼を失ったコウモリの化け物がこちらに向かって歩いていた。

「貴様……よくもやってくれたな」

コウモリの化け物は飛ぶ体力はなくゆっくりとした速度で歩いてきていた。その速度はとても遅く歩いただけで逃げ切れるものだ。だが、今の中村は全身ボロボロで立ち上がる気力もない。そしてコウモリの化け物はとうとう中村の目の前まで来てしまう。そして右翼を高く掲げる。

「死ね」

その声と共に右翼を振るう。

 その瞬間、森の奥から何か紫色の細長い物が飛び出してきた。その細長い物はコウモリの化け物の背中に突き刺さる。突き刺さったときそれが何かわかった。それはサソリの尻尾のような物だ。ただし、その大きさはサソリの尻尾の数倍で長さも別物だ。

「き、貴様……」

それだけ言うとコウモリの化け物はその場から消滅した。

「な、なに?」

 サソリの尻尾が伸びている方向から足音が聞こえる。やがて相手の姿が見え始めた。それは、先程首を斬られたコブラだ。しかも斬られた首はくっついていて首には傷1つ断面1つ付いていなかった。さらに折れた腕は元通りに治っていた。

「コブラ?」

 ただし、少し違うところがあった。コブラからサソリの尻尾が生えている。さらにその顔は白目をしていて口角を上げた笑顔に似た表情をしていて、先程の化け物に似た表情をしていた。


 「え?」

中村が驚いているとコブラはこちらに尻尾を伸ばしてきた。中村が気づいたときにはもう目と鼻の先にあった。

「や、」

ヤバい、と思ったときには体が勝手に動いて聖剣が尻尾を防ぐ。

「あ、アウグ!」

『おまっ!これどういう状況だ!?』

「ごめんわからん!!」

『そうか!しばらく体借りるぞ!』

 その瞬間、中村の目の色が代わり、黒色から赤色に代わる。

 アウグは中村の体でコブラに一気に近づく。しかしコブラは尻尾を戻しアウグに当てようとする。アウグはギリギリでそれを躱し、コブラに再び近づく。

 それに対しコブラは右腕を前に出す。するとその右腕が黒く変色し、化け物のような腕になりさらに剣のような形になる。

 アウグは聖剣でコブラに一撃を放つ。コブラも右腕で防ぐ。が、右腕はあっさりと切断され、そのまま体を切り裂く。が、コブラはカウンターで尻尾でアウグを吹き飛ばす。アウグは受け身を取りながら着地する。着地の瞬間にコブラは一気に近づきアウグを蹴り飛ばす。

「ガハッ」

木に打ち付けられたアウグはその場に倒れる。それと同時にアウグの力はなくなり、緑の目は黒の目に戻る。

「うそ……でしょ」

中村は立ち上がる気力もなくコブラが歩いてくるのを見ることしかできなかった。

 コブラは中村に一気に走り出す。

(やば)

その瞬間、コブラの足がボン!という音と共に血が吹き出した。

「え?」

コブラはその場に倒れる。中村が呆然としているとコブラが立ち上がった。

「あーいってー」

そんなことを言いながら。

「えっと……コブラ?」

「よ、ムラスケ。事情は話すがちょっと待っててくれ」

そう言うとコブラは右のポケットから何かを取り出す。それはワイヤレスイヤホンのような通信機だ。それを右耳に差し込むと誰かと話し始める。

「もしもーしおれおれ、俺だけど」

(オレオレ詐欺!?)

「うん。そうそう。今から帰るわ。うん。連れてくねー」

コブラは通信機をポケットにしまうと中村に近づく。

「そんなわけで行こっか」

「どこに?」

「なあに、いいところさ」

(嫌な予感しかしない)

中村は嫌な予感と共にコブラに担がれた。

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