第3話 コブラ
中村の渾身の一撃は大きな拳を避け、腕に命中させその腕を切り落とした。
「オオオ!」
化け物は腕を押さえ膝から崩れ落ちた。
「ハァ…ハァ…やった…のか…」
中村はふらふらになりながらも再び剣を構えた。しかし、化け物は立ち上がることはなく体がボロボロと崩れていってやがて消滅した。
それを確認して中村はその場に仰向けに倒れた。
「なんかめっちゃ疲れた」
息を切らしながらもどうにか体を起こすと正面に3つの黒い影が見えた。山田達かと思い振り返るが後ろに2人の姿があった。
「え、まさか…」
中村の嫌な予感は当たり、正面の3つの影はやがて見える位置まで現れそこにいたのは先程の化け物3匹(?)だ。
「嘘でしょ…」
中村はどうにか立ち上がろうとするが体に力が入らずその場に倒れてしまう。
真ん中の化け物が右手の拳を握り先程の化け物同様大きくした。
(あ、おわた)
中村は何度も立ち上がろうとするが力が入らずやはり立てない。
そんな時後ろからライトが照らされた。振り返ると山田らの後ろからライトが照らされていてそのライトは少しずつ近づいていた。
「ヘイヘーイ!生きてっかー!」
その男の声とともに近づいてくるそれをよく見るとそれは1台の黒いバイクだとわかった。そのバイクからはエンジン音は聞こえず、土を弾く微かな音しか聞こえなかった。もし夜の道路でライトを照らさずに乗っていたら気づけないだろう。
そのバイクは中村の横を通りすぎると前輪を大きく持ち上げウィリー走行になりその前輪を真ん中の化け物の顔に当てそのまま後ろの木まで轢いていった。
「死ね!とっととくたばれ!」
暴言を言いながら全身黒い服を着てヘルメットをしたその男は木とバイクの前輪で挟み、さらに前輪を回して化け物を消滅させた。
「おい!急に消滅すんな!」
化け物が消滅したことでバイクの前輪は木に弾かれ、その男とともに逆さに倒れた。
「ごっはー!」
「…なんだあれ?」
そう思ったのは中村だけではなく化け物達も顔を合わせて首を横に曲げていた。
「ったく、少しくらいかっこよく登場させろよな」
男がバイクをどかして立ち上がるとそう言った。
「おいクソども。俺が相手だ。まとめてかかってこい」
その男は化け物に向かって人差し指をクイクイっと曲げ挑発した。
その行為が気に入らなかったのだろう。化け物らは唸り声を上げながら両手を握りしめ大きな拳を作り出した。
そして2匹の化け物はその男に素早い動きで間合いを詰めた。男もそれに合わせて腰から黒塗りの刀を抜き、走り出す。しかもその動きは化け物より早く、一瞬で2匹の間を通り抜けた。
男は刀をしまうと中村の方へと歩み寄った。
「おいおい大丈夫か?」
その背後では化け物が拳を男目掛けて振るっていた。
「危ない!」
中村が声を掛けた次の瞬間、なんと2匹の化け物の首が斬れ、顔がポロっと落ちたのだ。
「うそ…」
中村がどうにか倒せた相手をその男は一瞬で葬ってしまったのだ。そんな声も出てしまう。
男は中村の顔を見下ろす形で凝視した。3秒ほどだったがその間、中村は怖くて目を離すことができなかった。
「あ!お前!中村か!」
「え?」
男が人指し指を指しながらそう言って中村は困惑した。
「おいおい俺だよ俺!おひさ~」
「…ヘルメット取ってもらってもいいですか?」
「あー忘れてた。普段着けてないもんなー」
男はそう言って黒いヘルメットを取った。
男は白髪に黄色の瞳。色白の肌に黒いパーカーと黒いズボンを履いていて左腰に黒い刀、さらにショルダーホルスターを着けていて右腰に銃のようなものをしまっている。パッと見不審者な彼は
「コブラ…」
「よおやっぱり覚えてたか。高校以来か?」
中村は高校時代のことを思い出した。
◆◆◆◆◆
それは高校1年生の夏の時だ。当時クラスでボッチだった中村は友達はおろかクラスの人と話したことさえなかった。ちなみに多少からかわれたことはあったがそれはノーカンで。
運命が変わったのは体育のテニスの時間だ。
「よしお前ら2人組つくれー」
先生がボッチにとっての悪魔の言葉を言ったのがきっかけだ。この体育は2クラス合同で行い、偶数なので余ることはなかった。だから自然と最後まで余った人が中村と組むのが当たり前だった。しかし
「ヘーイ!組もうぜ!」
中村が振り返るとそこには白髪の男の姿があった。
「え、でも…」
「あ俺コブラ。よろしこ」
「おれは中村です」
「よし今日からムラスケな」
「え」
「よしやるぞムラスケ」
こうして2人は初めて出会った。クラスは違ったが2人とも同じゲームをやっていてアニメ好きだったため仲良くなるのにはそこまで時間はかからなかった。
それから高校を卒業して2人はたまに連絡を取る関係になっていた。
◆◆◆◆◆
そして高校を卒業して2人は久しぶりに出会った。もしこれが街中なら少し遊ぶかもしれないがこんな森の中だ。それもできないだろう。
「で、ムラスケ。お前なんでこんなところにいるの?」
「それはこっちのセリフ」
中村は気持ちが落ち着いたようで表情が少し柔らかくなった。
「俺は…おいムラスケ。その剣って」
コブラが錆びた剣を指差す。
「これはよくわかんないんだけどバッグに入ってたの。これ錆びてるけど切れ味すごいんだよねー。アの化け物を一撃で倒したよ」
「…何……だと…?」
コブラは何故か驚いていた。そしてコブラは腰から銃を抜いた。
「え?なに?」
「大丈夫だ」
コブラは中村の後ろ目掛けて銃を2発撃つ。その方向は山田と部下のいる方向だ。
「がっ」
「ぎゃ」
2人は銃で撃たれその場に倒れた。
「ちょ!なにしてんの!?」
「大丈夫だ。これは実弾じゃなくて電撃弾だ」
「電撃弾?」
「要は銃型スタンガン。ここでの記憶持ってるとトラウマになっちまうからね。目が覚めたらちゃんと元いた場所にいるようにしないとね」
「なるほど」
中村が納得するとコブラは今度は中村目掛けて銃を構えた。
「えっと…俺も?」
コブラは微笑むと答える代わりに引き金を引いた。
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