第2話 化け物

 パニック状態になりながらも中村は何をすればいいかを考える。

「えっと、と、とりあえず誰かに連絡を…」

カバンを下ろして中に手を入れると妙な違和感があった。

「ん?」

嫌な予感がしつつそれを持ち上げるとそれは錆びた剣だった。

「なんで!?」

中村は剣をしまうと大きくため息をした。

「夢…だな」

地面に座りふと空を見上げると空は薄暗い赤色をしていた。

「空、赤いなぁ」

そんなことを言った直後、

「助けてくれー!!!」

どこからか男性の大きな声が聞こえた。

「なに!?」

思わず立ち上がり辺りを見回した。しかし空が薄暗いのと木が多すぎるせいで遠くまで見えない。

「誰か助けてくれー!!」

「誰かー!」

声が2つになった。中村は走って声のする方へと向かった。


 声のしたところへたどり着くとすぐに木の後ろに隠れ、その場所を見ると人影が3つ見えた。2つの人影が木に追い詰められていて2人とも体を寄せあっていて、1つの人影が片手を伸ばし、距離は少しありゆっくりとした足取りで近づいていた。

 「だ、だ、誰か助けてくれ!!」

「クソォ!なんで博物館から出たらこんなわけわからんところにいるんだよ!!」

どうやら先程の声の主はあの2人のようだ。だが、木が影になっててシルエット以外何も見えない。

「もう少し近寄るか…」

中村は身を屈め、ゆっくりと近づいた。そこでようやく追い詰められている人の顔が見えた。

(あれは山田さん!?と誰だ?襲ってる方はまだ影に隠れてるし…)

「とりあえず助けないと」

中村はリュックを逆さにして中身を全部出して使えそうなものを探した。

「えっと、イヤホン、スマホによくわからん剣、後は…」

他はテイッシュやハンカチ、ノートに本、ボールペンという完全に使えないものしかなかった。

「あーもう!これしかないじゃん!」

中村はポケットにスマホを入れ剣とリュックを持って近づいた。


 その人影は右手を伸ばし、山田を掴もうとしていた。

「ま、待ってくれ!金なら払う!な!自首もするからさ!な!な!だから見逃してくれ!!」

しかしその人影は止まらず山田の首に触れる直前まで手を伸ばしていた。

 その時、人影にリュックが当たり人影は動きを止めた。

「だ、大丈夫ですかー!?」

中村は大きな声で叫んだ。

「中村!た、助けてくれ!」

「誰だか知らないけどたすけてー!」

 人影は中村に気づいたようで振り返った。

「…え?」

中村はその姿を見て思わず息を呑んだ。

 目が人の2倍くらいの大きさで瞳孔などの黒くなっている部分がなく完全に白くなっていて、口は大きく開いていて口角を上げていて笑顔に似ている表情をしていた。ただし、口の中も唇も目と同じく白いが。さらに、木の影で体が黒くなっていたと思っていたが、その肌は日焼け黒くなったというレベルではなく、文字通り完全に真っ黒だ。それ以外は完全に人間の体と同じだが。


 「あ、あ…」

中村はその姿を見てまるでヘビに睨まれるウサギのように動けなくなってしまった。

 中村の狙い通りその化け物は2人から離れたが、こちらに狙いを定めてしまった。

(やばいやばい!!どうしよ!体なんでか動かないしこっちに近づいてくるし!どうしよ!)

 中村が動けないでいると化け物が顔を下にして視線を落とした。その視線の先を見るとそれは錆びた剣だった。

「オオオオオオオオオ!!」

その瞬間、化け物が雄叫びを上げた。

「え、え」

 何が起きたかわかっていないでいると化け物が先程のゆっくりとした動きが嘘みたいに素早い動きで中村に近づいた。そして右手を中村の首目掛けて伸ばしてきた。

「うわっ」

突然の動きで思わず尻餅をついてしまったのが良かったらしく、その攻撃は中村には当たらず、後ろにあった木に命中した。ほっとするのも束の間、化け物はなんと先程の攻撃で木に穴を開けてしまったのだ。

「…マジ?」

化け物が顔を明らかに人間の可動域を越えた首の動きでこちらを見た。それと同時に手を抜き、右手を今度は握りしめた。するとなんということか、その拳が形を変えた。それは顔の大きさはあるであろう岩のようなものに変化したのだ。

 中村はどうにか立ち上がり、化け物と向き合った。

(これ絶対逃げれないよなぁ。後ろの2人は…まだ逃げてないや。おれ、何やってんだろうな…。人助けのつもりが、自分が追い詰められてんじゃん。もう、死ぬしか…)

中村は覚悟を決めて目を閉じた。それを見てか化け物が大きく跳び中村の頭上から大きな右手を振り下ろした。

『諦めるな!』

どこからか声がした。次の瞬間中村に化け物の一撃が落ちてきた。しかしその攻撃は中村に当たらなかった。

 中村が目を開けるとなんと錆びた剣を持った左手1本でその攻撃を防いでいたのだ。

 何が起きているか混乱しながらも中村は化け物を弾き飛ばした。

「なんで?」

中村は理解できないでいたが化け物はそんな余裕を与えず再び襲ってきた。

「オオオオオ!」

中村は両手で剣を構え、中村も化け物目掛けて走り出した。

「オオオオオ!」

「死ねーー!!」

中村の渾身の一撃が放たれた。

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