平穏な暮らしに戻りたい

ヘビブラ

第1話 平穏な暮らしの終わり

 それは8月のあの日に起こった。その日、大学一年生の中村は博物館に深夜の警備のバイトで来ていた。

 理由は色々ある。まず、ここの警備で働いていた人が3人大怪我をしてしまい働けなくなってしまったのだ。大怪我と言っても皆大体全治1週間なのだが。それで困った館長がネットでバイトを雇おうと応募するが、そのバイトに人が来ることはなかった。さすがにそれは予想外だったため、館長は自分の通っていた大学にバイトを応募することにした。その後、大学の教授が1人、バイトを探していたことを思いだし中村に連絡を取ることにした。

 期限は1週間で給料は80000円。電車代も博物館側が負担してくれるし、乗り換え無しとのこと。時間は20:00~6:00までと遅いが深夜アニメが見れない以外そこまで問題なかった中村はそれを受けることにした。

 そして、そのバイトもいよいよ最終日を迎えた。


 警備室にある大きなモニターの中にいくつもの監視カメラの映像が映し出されていた。それを椅子に座って見つめる1人の姿があった。

 黒髪に黒目、体はやや痩せ型で警備服を着て眼鏡をかけた男性、中村だ。

 中村は机に置いたお菓子を食べながらその映像を見ていた。勿論泥棒がいたり心霊現象が起きてるわけもなく、ただ博物館の展示物が映ってるだけだ。

 中村が壁にかかってる時計をチラリと見ると丁度2:00を指していた。

「あと四時間か…」

そう呟くと同時に後ろのドアが開き、1人の男性が出てきた。

「おつかれさんっと」

その両手にはマグカップを持っている男性は中村の食べてるお菓子の近くにその1つを置いて中村の隣に座った。

「ありがとうございます山田さん」

「いいって。それよりお前今日で終わりだろ?」

「はい。短い間でしたけどありがとうございました」

中村は座ったまま頭を下げた。

「いいって気にすんな。そうだ、お前にとっておきのプレゼントあったんだ。少し待ってろ」

山田はそう言ってコーヒーを飲み干すと席を立って部屋から出ていった。

「なんだろ?」

中村は不思議に思いながらも飲み物を飲む。

(ココアだ。久しぶりに飲むけどうまいな)

「…ん?」

ココアを飲み干すと中村は机に突っ伏した。

「ねむ…い……。………」

そのまま中村は眠りについてしまった。

 中村が寝て少しして警備室の扉が開いた。山田が入ってきた。

「やっと寝たか」

山田は映像が映ってるモニターのコンセントを抜き映像を消した。

「わりぃな。少し眠っててくれ」

そう言って山田は部屋から出ていった。


 警備室から出た山田は裏口に来ていた。

 山田が裏口を開けるとそこには1人の男性の姿があった。男は全身黒い服を着て背中に大きなリュックを背負っていた。

 「よう、待ったか」

「遅いですよ山田さん。夜とはいえ、外は暑いんですから」

「中も冷房ついてないぞ」

「なんでですか!?」

「そりゃ閉館してんだからつけるわけねぇだろ」

「あっ、それもそうですね」

「それじゃあ行くぞ」


 2人は1階の階段前で足を止めた。

「よし、それじゃあ俺が1階、お前が2階を担当しろ。これが盗むリストだ」

そう言って山田は折られた紙を手渡した。

「はい。じゃあいってきます」

「おう。終わったらここ集合な」


 「よっと」

山田はガラスを警棒で割って中から錆びた剣を取り出した。

「これの何処に価値があるんだか」

そう言って剣をしまおうとしたがここであることに気がついた。それは

「カバン忘れた」

山田は警備室へ駆け足で向かった。


 警備室の扉を少し開けて中を覗くがまだ中村は寝ていた。それを確認した山田は扉を開ける。ロッカーを開けて中から大きめの茶色のカバンを取り出した。山田は中村を見るとニヤリと笑った。

「…そうだ」

山田は中村のロッカーの鍵を盗み、ロッカーの鍵を開けた。中からリュックを取りだしチャックを開けた。そしてそのリュックに錆びた剣をしまった。

「悪く思うなよ」

リュックをしまい、鍵を閉めて中村のポケットに鍵を戻して部屋を出た。


 ――1時間後。

 開店前で待ってる部下に駆け足で山田が近づいた。

「やーごめんごめん待った?」

「大丈夫です今来たところですから。…なんかデートみたいですね」

「気持ち悪いこと言うな。一瞬そう思ったけど!まあいい。とっととずらかるぞ」

「はい!」

 2人は駆け足で裏口へ向かった。そして、扉を開き2人は博物館から出ていった。


 「……ん」

中村は目が覚めると大きなあくびをして顔を上げた。するとそこには何故か画面の消えたスクリーンがあり思わず驚いて椅子から立ち上がった。

「え?え?なんで?」

理解できないで辺りを見回してると時計が目に入った。時間は5:30を指していた。

「や、ヤバい寝てた!えっと、落ち着け落ち着け落ち着け~。」

中村は大きく深呼吸を2回して落ち着くと再び椅子に座った。

「えっと、たしかこういうときは…」

(あれ?教わってなくね?)

「とりあえず原因探さないと」

中村は立ち上がりモニターの近くに行った。すぐにコンセントが抜けてるのを発見したのですぐに指し直した。

「なんで抜けたんだ?」

不思議に思ってるうちにモニターの映像が映り出した。そこにはガラスケースが割れ、中の展示物が無いものがいくつもあった。

「え、泥坊!?と、とりあえず見に行かなきゃ」

中村はロッカーを開けてリュックを取り出した。

「なんか重いな…まあ、気のせいかな。とりあえず行こう!」

リュックを背負い中村は扉を開け、すぐに扉を閉めて前を見た。するとそこは何故か廊下ではなく知らない場所にいた。

 タイル床だった床は何故か土の地面に変わっていて、通路だった筈なのに何故か壁は見当たらず辺りには木々がたくさんあった。

「え……、なにこれ…?」

思わずそう言葉が出てしまった。


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