第2話

「もうすぐ、就寝のお時間です。ジャスミン姫はベッドルームにお戻り下さいますようにお願い申し上げます」

 ちなみに、姫と呼ぶのはレンだけだ。

 それに、レンだけはジャスミンに馬鹿丁寧な言葉を使ってくる。慇懃無礼というやつだ。

(私が嫌いというのも、チェリーと関わってほしくないのはわかるけどさ)

 もう少しチェリー話して居たかったと思うのは許される範囲だと思うのだが――

「では、わたくしたちはこれで失礼いたしますわ」

 チェリーとレンは世話係たちにあてがわれたテントに戻って行った。

「仕方ないか」

 出入り口に板を立て、椅子を前に置く。

 屋敷ならば鍵をかければいいのだが、テントでは鍵となるようなものはない。

 出入り口の前に荷物を置くことで鍵の代わりにしているのだ。

 私は掛け簡易ベットに横たわった。何だかとても眠い。

 意識が混濁し始めた時、甘いにおいがした。コツコツと足音が聞こえ部屋の中に来た。

(なんで……荷物はきちんと置いたはずなのに)

「ジャスミン様、チェリーです」

 チェリーベッドのすぐ隣にいた。

「なんで入って来れたの?」

「扉の前にはなにも細工はなされていませんでしたわ。ダメではありませんか。きちんとしないと。」

 釈然としないジャスミンだが、チェリーは雑談を開始する。

「……で――なんですよ」

 ジャスミンは目をこすりつつ聞いていたが、抵抗虚しく瞼が閉じてしまう

「寝てください。朝には起こしますから」

「ごめん。そうして」

 と声になったかどうか判らない。ジャスミンは深い闇に落ちていった。




「バカな人。あんなものすぐにどけられるわ」

 意識のある者が一人になった部屋に独り言が木霊する。

「私など信じる貴女が悪い」

 振り下ろした彼女の右手には白銀の刃が握られていた。

 虚ろな瞳には紅い液体が映っているだけだ。

 相手を傷つけた刃はそのまま彼女の喉元にすいよせられた。

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