始まりは新緑の中 完

朝香るか

第1話

 何処からか叫ぶその声はこの世の終りを示すには十分だった。


 ――何時か世界は壊される――

「早くしなさいよ、あんたたち」

 強気に言い放つ少女。眼尻はあがりぎみ、口に紅をさしている。11歳になろうとしている細身な女性だ。豊満な肢体とはいいがたいが、幾重にも重ねた衣によってごまかしている。

「すみません、ジャスミン様」

 返す男たちは皆卑屈な態度で応じる。

「いい加減にアイツを出してって」

 傲岸不遜な態度を取り続ける彼女はジャスミン=ローズ。それなりに豊かな生活を送っている中流貴族である。

「ですから主様は出かけておりまして」

 彼女は昔から、地位ある大人を嫌っていた。大人達は、傲慢に振る舞い、自分の知る知識を得意気に話す姿が何より不快だった。

 


 遠くから彼女の父親の声が微かに聞こえる。

『娘に変わりは――い?』

 父親らしい低く、厳かな声だ。

『先程――伺ったところによれば〝山奥の生活は疲れた〟とのことで』

 話しているのは護衛の兵士らしい。

 コチラの様子を報告していることはわかるものの明確な会話は聞こえてこない。

「いるじゃない。会わせてよ」

 あわてる男たちを尻目にジャスミンは父親の声が聞こえたほうへ足を踏み出した。張りの兵士が二人立ってる出入り口がパサリと音を立てた。

「ああ、ジャスミンか。また今日も泊まるからな。心しておけよ」

「いやだ。もう私は……」

 今日こそはと意気込んだのにジャスミンの父親はさっさと行ってしまった。

「どうして私の気持ちを聞いてくれないのよ」

 私は父のいる宿営所から自分用にあてがわれた宿営地に戻されてしまった。

 父親が頑固になり、私が反抗している原因は巷にでまわる預言書にあった。書にはこう記されていた。


【12までのある女には闇の加護がある。精霊が王とし、その者は望むまで不老不死の力が宿る】


「何が預言書よ。私たちが時を無駄にするだけよ。馬鹿みたい」

 吐き捨てたとき可憐な声が響いた。

「そう言うものではありませんわ」

 世話係のチェリーが立っていた。

「だって、選ばれるなんてあり得ないわ」

「ジャスミンさまなら必ず選ばれますわ」

 いつも、いつも彼女のはっきり言う物言いにはびっくりだ。チェリーは一つ年下だがジャスミンよりも総てにおいて能力が高い。

「チェリーが選ばれればよいのに」

「ふざけないで下さいね」

 本心で言ったのに、にこりと笑って即答される。

「大体、何故そんな事を思われるのです?」

「だって、それは――」

「それはチェリーが“誰より心が綺麗だからだろう?」


(でた。チェリーに憑いている厄病神)

「レン、どういう意味よ。ジャスミン様がふさわしいわ」

 レンはチェリーのお幼馴染で同じ世話係として働いている。

「俺がそう思うだけだよ。お姫様」

 レンがやたらと甘い声でチェリーに囁くと、うって変わってジャスミンには冷ややかな侮蔑を込めて告げた。

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