第6話 失踪

 下校時刻には夕暮れの明かりが灯る。西から差す、ちょっと薄暗いオレンジの光。影が長く伸びる。地上でも、こんな夕方を迎えるんだろうか。

 学校からの帰り道、祖母との思い出の公園に差し掛かると、「ちょっと君、少しいいかな」と、黒いハンチング帽を被った青年に声を掛けられた。

「いきなりごめんね。君がエトラ君だよね。ルシオンのところへちょくちょく来た」

 僕は面食らって青年の顔を見た。僕の警戒を察したようで、彼はハンチング帽を取り、人懐こく微笑んで自己紹介をした。

「驚かせてごめんね。僕はレムネス。ルシオンの同僚だよ」

 彼はルシオンとコンビで仕事をすることが多く、ルシオンが柱の警備をしている間、レムネスは町の巡回をしていたらしかった。

 僕がルシオンの元へ通っていたことは、町の巡回中、僕らのことをちらりと遠目に見ていたから知っていたとのことだった。

「君の名前はルシオンから聞いたよ。家庭の事情も。最近は夜に出歩かなくなったようだね。家庭が落ち着いたのなら良かった」

 警備兵は住人の情報をある程度探り、把握しているらしかった。僕が何も言わないのに、レムネスは母さんが家にいるようになったことを知っていて、暗にそれを仄めかした。僕の祖父母が亡くなったことも調べが付いているんだろう。夜に一人で外を出歩く素行不良な未成年の素性を警備兵が調べ上げることは、何の不思議もない。

 僕はレムネスが何をしにここへ来たのか分からず、探るようにじっと彼を見た。レムネスは僕を罰するために来たわけではないらしく、声を潜めて僕の耳元で言った。

「実は、ルシオンが行方不明になった」

 え、と、僕は思わず声を漏らした。

「三日前、地上巡回の任務に出たっきり、消息が分からない。警備隊は総力を上げてルシオンを探しているけれど、どこを探しても見つからない。――君も聞いたことがあるだろう、スパイの話。ルシオンには前々からその疑いが掛けられていた」

 僕は心臓がひやりとした。

 ルシオンが――あのルシオンが、スパイ?

 僕の孤独に付き合ってくれたあの人は、悪人か何かだったんだろうか。

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