第4話 死別

 ある日の夕方、病院に行っていた母さんから電話があった。祖父母が二人揃って息を引き取ったということだった。夜中になると、母さんは疲れた顔をして帰ってきた。父さんも久しぶりに帰ってきた。慌ただしく葬儀の準備が進み、家族葬でささやかに二人を見送った。

 家族三人が揃ったけれど、家庭のあたたかさというものはいまいち感じなかった。一ヶ月ぶりに会う父さんは、学校のことや友人のことなど、最近の僕の様子を、弔いのごたごたの合間にぽつぽつと訊いてきた。夜な夜な家を抜け出して警備兵と交流をしているなんて間違っても打ち明けられないけれど、それ以外に特に語ることもなかった。

 葬儀や挨拶回りが終わると、父さんは勤め先の研究所へ戻っていった。しばらくは父さんと顔を合わせることもない。

 母さんは祖父母を見送って、どこか抜け殻のようになっていたが、すぐに日常の生活に戻った。

 僕は天体写真の本を抱えて自室のベッドに寝転がった。

 小さい頃のことを無闇に思い出す。オレンジ色の夕暮れの明かりが灯る公園で、一人、ブランコに乗る。小さな体、短い手足で鎖を揺らす。その頃、まだ元気だった祖母が、ご飯ができたわよ、と優しい声で僕を呼ぶ。皺深い手を握り、家に帰る。ずっと寂しいままで生きてきたけれど、小さい頃は、確かに幸せだった。今よりずっと、幸せだった。

 幸せの欠片が一つ、僕の手から零れていった。悲しいという感覚が漣のように胸に流れて塵のように積もっていった。

 開いたばかりの本をぱたんと閉じて、仰向けになり、両腕を広げる。

 じいちゃんも、ばあちゃんも、天国へ行ってしまった。地上の毒霧。それを吸って天国に行けるなら、僕だって、行ってみたい。

 ねぇ、ルシオン。防護服なんていらない。僕も地上に行ってみたいよ。死んだって構わない。柱の中の螺旋階段を上って、外に出たいよ。

 ルシオンは冷めた目で返事をするだろう。

 そんなことはできないさ、と。

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