5
俺の予想通り、事態は最悪な状況へと進んだ。
この学校の女王様に面と向かって歯向かった未来は、罰を受ける事になったのだ。
状況としては、あの場で先生が来ず、山崎が未来に対して暴言を吐き散らしていた方がマシだったかもしれない。
晴らせなかった鬱憤は、溜まり……そして、歪む。
歪んだ鬱憤渦巻き――
イジメへと発展した。
その翌日から、あれだけ人に囲まれていた筈の未来の周りに、誰も人が集まらなくなってしまったのだった。
早い話が、この学校での女王様である山崎一華が圧力を掛けたのだ。
もう未来とは会話すんな。会話したらあんたも酷い目にあうぞ――と。
たったそれだけで、孤立という罰は容易く完成してしまう。
結果、未来は孤立した。
しかし、罰は終わらなかった。
その後未来を待ち受けていたのは、しょーもないイジメ行為だった。
上靴を隠される。
教科書に落書きされる。
机の上に花を置かれる。
くすくすと陰口を叩かれる。
体操服を濡らされる。
制服を隠される。
そして――
放課後の合唱コンクールの練習に、誰も参加しなくなる。
真面目に合唱コンクールに取り組みたかった派閥が、一斉に掌を返したのだった。
「ど、どういう事よ未来ちゃん!? 何があったの……!?」
先生も当然、この異常事態に気付く。
しかし、時既に遅しだった。
もう既に、先生の出る幕は終わっている。
先生の権力を持ってしても、この一件を終わらせる事はもう、出来ない。
未来への罰は――こうして、完成した。
「…………」
合唱コンクールを二日後に控えたその日の放課後。
練習場所となっていた音楽室で、俺は一人、未来の事を待っていた。
しかしとうとう、未来までその場所に来なくなったのだ。
遂に折れたか……。
昔の俺と同じだな。
『自分ができるからって! 俺達に押し付けんなよ!!』
『みんながプリンスみたいに出来るわけじゃないんだからね!!』
『みんな! もうこんな奴ほっとこ!!』
「……っち」
嫌な事を思い出しちまった……。
そんな時だった。
音楽室の扉がガラッと開いた。
未来が来たのか? 先生が来たのか? と、思いきや、現れたのは山崎だった。
女王様の、山崎一華だった。
「あれれぇー? なぁーんだ、前田の奴来てないじゃーん。とうとう諦めちゃったかぁー。居たら、少し煽ってやろうと思ってたんだけどなぁー……ん? あれ? 何でプリンスが居るの?」
「そりゃこっちのセリフだ……って、言いたい所だけど、理由は今聞いたから良いや。随分汚い事考えてたみたいだな……お前」
「ふふふっ、私ってぇ、嫌いな奴は徹底的に潰さなきゃ気が済まないタイプだからねぇー」
「……だろうな……お前は昔っからそうだったもんな……」
こいつと話すのは時間の無駄だな。
未来も来ねぇみたいだし、帰るか。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「帰るに決まってんだろ」
「ふぅーん……てゆーかあんた、まだ一人で合唱コンクールの練習に行ってるんだってね? いい加減諦めたら?」
「放っとけ、お前には関係ねぇよ」
「あるわよ。あんた一人でも練習に参加しちゃったら、私が前田に与える罰が薄れるじゃない」
「知った事かよ」
「私の言う事を聞かないと、あんたも酷い目に合うわよ? 昔みたいに」
…………。
「脅しのつもりか? 随分歪んじまったなぁ? お前も」
「歪むって……あんたねぇ! 本当に、前田と同じ目に――――」
「好きにしろよ。俺は元々、あんな奴らの誰とも馴れ合いたいとか思わねぇから。それにそもそも、そういうのはもう慣れたから」
「…………っ!!」
「じゃあな。……お前みたいな奴と話してる暇はねぇんだよ。俺は忙しいんだ」
それだけを言い残し、音楽室から出る俺。
あーあ、これで俺もやられちゃうかなぁ? イジメ。
ま、別にいいけど。
さぁーて……未来はどこにいるのかな?
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