誤解のないように言っておくが、俺の見解としては、前向きなのは良い事だ。

 良い事であるし、そうあるべきだと思う。

 前向きな人は、居るだけで周りに+の影響力を与える。


 周囲の人間に笑顔を振り撒き。

 足が踏み出せずにいる人の背中を容易く押せる。

 明るい方向に一直線であり、信頼され易い。


 良い事尽くめだ。


 けれど……世の中、良い事だけが正しい訳ではない。

 眩しい光は、時に日陰が好きな人間に嫌われがちだ。

 眩し過ぎる光は、そういった人達をジリジリと焼いて燃やし尽くしてしまう。


 そしてまた、影響を与える存在というのも、それはそれで辛いものだ。


 俺はそれを、身を持って体感している。

 身を持って知っている。


 日陰者の反撃が――如何に生々しく、ねちっこく、陰湿なものなのかを……。


 未来も、知る事になる。



「やってられるか! こんなもん!!」


 それは、合唱コンクールが一週間後に迫った日の放課後に起こった。

 せっかくの体育館使用日なのに、担任の先生が職員会議で遅れるとの事で、学級委員長である未来が指揮を執る事になったのだ。


 普段の真面目さや、練習に励む姿勢を見ての抜擢もあるのだろう。


 しかし、俺から言わせると、こんなものは先生の悪手以外の何者でもない。


 面倒な合唱コンクールの練習に。

 面倒な生真面目学級委員長が、無駄とも思える熱血ぷりを発揮するのだ。


 先生という抑止力がなかったら、当然、怠ける奴は怠ける。

 怠ける奴がいたら、未来は当然注意する。

 そしたら怠ける奴と未来はどうなると思う?


 決まっている――



 衝突だ。



 怠けたい組(ほぼ男子)VS真面目組(ほぼ女子)の構図が瞬く間に出来上がってしまったのだ。


 当然に当然の重なり……こうなるのは必然だったとも言える。


「受験が迫ってんだぞ!? こんな事やってる暇があんなら、自主勉の一ページでもしたいんだよ!! こっちは!!」

「勉強は終わった後すれば良いでしょ!? どうせ遊ぶ時間欲しさでそんな事言ってるんでしょ! 受験生が聞いて呆れるわ!!」

「はぁ!? 勝手に決めつけんな! お前に何が分かんだよ!! ブスっ!!」

「ブスって何よ! ブスって!!」

「ブスだからブスつったんだよ!!」

「何よ!!」

「何だよ!!」


 怠ける奴らの代表と、未来の取り巻きの一人である女子生徒が言い争いを始めた。

 こうなってしまうと、収集がつかなくなる。


 だから言ったのに……ちゃんと周りを見て、動かねぇと反発を引き起こすんだよ……。

 ったく、どうするんだ? この状況……。

 先生でも呼びに――



「はいはい! 二人共それぐらいにして」


 ここで場を収める為に動いたのは未来だった。


「仲良くしようよ、中学校生活最後の行事なんだよ? 争っちゃ駄目だよ。終わり良ければ全て良しって言うでしょ? 思いっきり楽しんで良い思い出にしようよ! 受験の事が不安なら、私から先生に伝えてみるからさ、あともう少しで本番だし、否が応でも終わっちゃうから、それまで頑張ろう! ね?」

「…………ちっ! 分かったよ! やればいいんだろ! やれば!」

「うん!」


 お、どうやら一先ず収まったようだな。

 上手い事やったなぁ、未来の奴。


「じゃあもう一回、課題曲いくよー! サビの部分が揃ってないから、皆意識してね! さぁ皆! 並んで並んでー!」


 舌打ちと共に、渋々並んでいくクラスメイト達。

 一応、この場は収まった。

 収まった……の、だが…………。



「ちっ……何よ、調子乗っちゃって」



 先程の男子ではない、とある女子がそんな風に小さく不満を漏らしていた。

 それも……が……。

 当然、先程の男子も、これで納得した訳ではないだろう。

 クラスの悪い雰囲気はまだ、全然、払拭されていない。



「さぁ皆! 優勝目指すよー!!」



 ちゃんと分かってんだろうな? 未来……。


 大変なのはむしろ――――だぞ?




 

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