2
誤解のないように言っておくが、俺の見解としては、前向きなのは良い事だ。
良い事であるし、そうあるべきだと思う。
前向きな人は、居るだけで周りに+の影響力を与える。
周囲の人間に笑顔を振り撒き。
足が踏み出せずにいる人の背中を容易く押せる。
明るい方向に一直線であり、信頼され易い。
良い事尽くめだ。
けれど……世の中、良い事だけが正しい訳ではない。
眩しい光は、時に日陰が好きな人間に嫌われがちだ。
眩し過ぎる光は、そういった人達をジリジリと焼いて燃やし尽くしてしまう。
そしてまた、影響を与える存在というのも、それはそれで辛いものだ。
俺はそれを、身を持って体感している。
身を持って知っている。
日陰者の反撃が――如何に生々しく、ねちっこく、陰湿なものなのかを……。
未来も、知る事になる。
「やってられるか! こんなもん!!」
それは、合唱コンクールが一週間後に迫った日の放課後に起こった。
せっかくの体育館使用日なのに、担任の先生が職員会議で遅れるとの事で、学級委員長である未来が指揮を執る事になったのだ。
普段の真面目さや、練習に励む姿勢を見ての抜擢もあるのだろう。
しかし、俺から言わせると、こんなものは先生の悪手以外の何者でもない。
面倒な合唱コンクールの練習に。
面倒な生真面目学級委員長が、無駄とも思える熱血ぷりを発揮するのだ。
先生という抑止力がなかったら、当然、怠ける奴は怠ける。
怠ける奴がいたら、未来は当然注意する。
そしたら怠ける奴と未来はどうなると思う?
決まっている――
衝突だ。
怠けたい組(ほぼ男子)VS真面目組(ほぼ女子)の構図が瞬く間に出来上がってしまったのだ。
当然に当然の重なり……こうなるのは必然だったとも言える。
「受験が迫ってんだぞ!? こんな事やってる暇があんなら、自主勉の一ページでもしたいんだよ!! こっちは!!」
「勉強は終わった後すれば良いでしょ!? どうせ遊ぶ時間欲しさでそんな事言ってるんでしょ! 受験生が聞いて呆れるわ!!」
「はぁ!? 勝手に決めつけんな! お前に何が分かんだよ!! ブスっ!!」
「ブスって何よ! ブスって!!」
「ブスだからブスつったんだよ!!」
「何よ!!」
「何だよ!!」
怠ける奴らの代表と、未来の取り巻きの一人である女子生徒が言い争いを始めた。
こうなってしまうと、収集がつかなくなる。
だから言ったのに……ちゃんと周りを見て、合わせて動かねぇと反発を引き起こすんだよ……。
ったく、どうするんだ? この状況……。
先生でも呼びに――
「はいはい! 二人共それぐらいにして」
ここで場を収める為に動いたのは未来だった。
「仲良くしようよ、中学校生活最後の行事なんだよ? 争っちゃ駄目だよ。終わり良ければ全て良しって言うでしょ? 思いっきり楽しんで良い思い出にしようよ! 受験の事が不安なら、私から先生に伝えてみるからさ、あともう少しで本番だし、否が応でも終わっちゃうから、それまで頑張ろう! ね?」
「…………ちっ! 分かったよ! やればいいんだろ! やれば!」
「うん!」
お、どうやら一先ず収まったようだな。
上手い事やったなぁ、未来の奴。
「じゃあもう一回、課題曲いくよー! サビの部分が揃ってないから、皆意識してね! さぁ皆! 並んで並んでー!」
舌打ちと共に、渋々並んでいくクラスメイト達。
一応、この場は収まった。
収まった……の、だが…………。
「ちっ……何よ、調子乗っちゃって」
先程の男子ではない、とある女子がそんな風に小さく不満を漏らしていた。
それも……まずいタイプの女子が……。
当然、先程の男子も、これで納得した訳ではないだろう。
クラスの悪い雰囲気はまだ、全然、払拭されていない。
「さぁ皆! 優勝目指すよー!!」
ちゃんと分かってんだろうな? 未来……。
大変なのはむしろ――――ここからだぞ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます