第25話 大勇者ゲルドンとの再会②

 ここは中央都市ライザーン地区、格闘スタジアムのロビー。


 俺はそのロビーで、宿敵、大勇者ゲルドンと再会した。


 ゲルドンはエルサを突き飛ばした。


 俺は怒り、ゲルドンの胸ぐらをつかんでやった。


 ここで……闘うのか!


「やめなさい!」


 その時、後ろからミランダさんがやってきて……なぜか、皆、騒ぎ始めた!


「ミランダ・レーンだ!」

「マジかよ!」

「ほ、本物だぞっ!」


 ゲルドンを取材していたはずの取材陣が、魔導写真機まどうしゃしんきを、ミランダさんに向け始めた。


 パシャパシャパシャ!


 な、なんだ?


 俺はゲルドンから手を離した。


 ミランダさんは、構わず大勇者ゲルドンと相対あいたいしている。


「大勇者ゲルドン君、お久しぶりね」

「あ、あんたか」


 ゲルドンは舌打ちしながら言った。


「誰かと思えば、国民的スターのミランダ・レーンか」


 ん? 国民的スター? ゲルドンのやつ、何を言ってるんだ?


 ミランダさんは微笑びしょうしているが、ゲルドンは顔をひきつらせている。


「ちっ、読めてきたぜ」


 ゲルドンは俺をにらみつけた。


「お前の後ろに、ミランダ・レーンがついているとはな。何かあると思ってたぜ」


 呆然としている俺をしり目に、記者たちは、ミランダさんに次々と何やら聞き始めた。


「ミランダさん! どうして急に、表舞台に出られることにしたのですか?」

「あなたの『ミランダ武闘家ぶとうか養成所』、有望選手はいるんですか?」


 どういうことだ? ミランダさんって、何者なんだ?


「ゼント! お前、今さら、何驚いた顔をしてんだよっ」


 いつの間にかナンパから帰ってきたローフェンが、俺に声をかけてきた。


「お、お前、まさか……。ミランダ先生が、女子武闘家ぶとうか唯一の、世界武闘ぶとう選手権三連覇の『ミランダ・レーン』って知らなかった……なんてことはないよな?」


 ん? ミランダ・レーン?

 俺が引きこもるちょっと前──20年前。

 伝説的強さをほこった、「ミランダ・レーン」という女子武闘家ぶとうかがいることは、もちろん知っていた。

 新聞には毎日、ミランダ・レーンの特集が組まれ、まさに国民的スターだったけど……。


「そ、そのミランダ・レーンが、ミランダさん……?」

「あったり前だろが! 国民的スターだぞ、ミランダ先生は!」

「マジか!」


 いや、全然気づかなかった。ミランダなんて、ありふれた名前だもんな。


「ゼント……トンマなヤツだな、おめぇは。一緒の村にいて、2ヶ月も気付かないなんて」


 ローフェンが額に手をやって呆れている。


「記者さんたち、さっき『ミランダ武闘家ぶとうか養成所に有望選手はいるのか』と聞いたわね」


 ミランダさんがそう言うと、記者たちは直立不動で声を上げた。


「は、はい、そう聞きました! 確かに」

「いるわよ。有望な選手がね。しかも、ゲルドンとの特別試合を希望している、すごい選手がね。……彼よ!」


 ミランダさんはそう言って、俺を指差した。な、な、な! 何を言ってくれちゃってんの! ミランダさんは!


 ゲルドンは腕組みして、黙って話を聞いている。


 記者たちは、俺を怪訝けげんな顔で見た。


「き、君が、ゲルドンとの特別試合を希望しているのか?」

「体は、小柄こがらだなあ……」

「大勇者ゲルドンとの体重差は明白だ。ミランダさん、何の冗談ですか?」


 すると──。


「冗談? いいえ、本気ですよ!」


 ミランダさんは声を上げた。


「冗談でも何でもありません。試合をやってごらんなさい。私の直弟子じきでし、このゼント・ラージェントは、大勇者ゲルドンをKOして勝ってしまうでしょう!」


 う、うおおおおおおっ……!

 

 記者たちは俺を見て、ため息をもらした。


「こ、国民的スター、ミランダ・レーンの直弟子じきでし……?」

「大勇者ゲルドンをKOだって?」

「す、すごい試合になるぞ! これ! トップニュースだ!」


 あ~、大変なことになってしまった。俺は頭を抱えた。


「おいおいおいおい」


 あわてたのは大勇者ゲルドンだ。


「お前ら……記者さんたちよ。何を言ってるんだ。この男……ゼントと特別試合をするなんて、まだ何も決まってないんだぜ?」

「逃げる気なのね?」


 ミランダさんは言った。


 すると、ゲルドンは……!


「に、逃げるだと?」


 ゲルドンはピクピクとほお痙攣けいれんさせた。


「この大勇者ゲルドンが、誰から逃げると? ミランダさんよぉ?」

「ゼント・ラージェントから、大勇者ゲルドンが逃げるって言ってんのよ! 怖れをなしてね!」


 パシャパシャパシャ!


 報道陣の魔導写真機まどうしゃしんきが、うなりをあげる!


 ……あっ! な、なるほど! これが「必ずゲルドンと闘う方法」か! 記者の前でゲルドンを挑発するってことだ!


 ゲルドンは冷や汗をぬぐって、ひきつりながら笑った。


「フフフ、負けるわけがねえ。ゼントが、ミランダ・レーンの直弟子じきでし? にわかには信じられねえが……」


 ゲルドンはミランダさんの挑発に完全にのまれている。

 

「やるぜ……やってやるぜ! 今度の特別試合! この俺様、大勇者ゲルドンの相手は、ゼント・ラージェントだあああっ!」


 ウオオオオオオッ


 記者から歓声が上がる。


「覚悟しろやっ! 血まみれになるぞ、ゼントぉっ!」


 ゲルドンは俺にそう吐き捨てて、廊下の向こうに歩いていってしまった。


 ……ミランダさんはニヤリと笑って、俺を見た。


 マジか……。

 すべては、うまくいった。


 俺は本当に──宿敵、大勇者ゲルドンと闘うことになってしまったのだ!

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