第24話 大勇者ゲルドンとの再会①

 俺──ゼント、ミランダさん、ローフェン、エルサ、アシュリーの五人は、馬車でグランバーン王国の中央都市ライザーンにやってきた。


 そこには、ゲルドン杯格闘トーナメントを開催されるスタジアムがある。そして、ゲルドンがトーナメント前に行う、特別試合を行う地だ。


「やっと来たな……」


 俺はつぶやいた。宿敵、大勇者ゲルドンと闘うために。しかし、本当にあいつと闘う機会チャンスが得られるのか? それは分からない。




 俺はスタジアムの受付に行った。エルサとローフェンと一緒だ。そこで、書類に色々書かされた。俺はそこで、ゲルドンとの特別試合に必要な、200万ルピーを支払ったことを話した。……支払ったのは、ミランダさんだけど。


 受付の女性は、名簿や郵便物を調べながら言った。


「はい。ゼント様は200万ルピー、お支払いされたことが確認できました。大勇者ゲルドン様との、特別試合の出場の資格がございます。あとは、ゲルドン様のご判断により対戦相手が選ばれます。しばらくお待ちください」


 ミランダさんは、本当に特別試合の参加費用の200万円を払ってくれたようだ。すげぇ……。大金持ちなのか?


「とにかく登録の期限に間に合ってよかったぜ。俺もトーナメント出場に登録できた」


 一緒に、トーナメントの参加資格を登録したローフェンが、言った。


「さーてと、俺は町に行ってくるぜ。都会なんて、めったに来られないからな。──じゃあな」


 ローフェンのヤツ、ウキウキしやがって。どうやら街にナンパしに行くらしい。しょうがねえヤツだ。


 俺とエルサはため息をついて、スタジアムの屋内ロビーのソファに座った。


「どうやら、受付に関してはしっかりしてるようね」


 エルサは言ったが、俺は心配だった。


「200万ルピーはらえば、あとは抽選ちゅうせんだ。もしかしたら、200万ルピー、ムダになっちまうかも」

 

 すると、奥の廊下から、誰かがやってきた。


(あっ……!)


 身長180センチ以上、体重80キロ以上の堂々とした体格の男だった。そしてきらびやかなオーラ。周囲の人間は、彼にお辞儀をしている。

 

 すべてが俺と大違いの男だった。


「ゲルドン……!」


 俺はつぶやいた。彼こそ、20年ぶりに会う、大勇者ゲルドンだった。20年経っていても、そんなに顔は変わっていない。

 俺に暴力をふるい、俺をパーティーから追放した男。エルサの人生をメチャクチャにした男……。知人のドルバースに大怪我をさせた男……!


 俺は立ち上がり、ゲルドンを見やった。


「……ゼント……」

 

 エルサは弱々しく言う。俺は、「大丈夫だ」と言った。本当は恐ろしかったが。


 ゲルドンは廊下の奥の会議室に行くようだったが、ちらりと俺の方を見た。


「……ん?」


 ゲルドンは、俺を不思議そうな顔で見た。足を止め、あごに手をあてて、まじまじと俺の顔を見た。


「……誰だ? お前? 俺に会ったことがあるのか?」

「……ある」

「はて? 何なんだ? お前は」

「ゼントだ」

「……は?」

「ゼント・ラージェントだ。お前が自分のパーティーから追放した、ゼント・ラージェントだ!」

「……おいおいおい、ウッソだろ、おい」


 ゲルドンは半笑いで、俺の顔をしげしげと見た。


「お、お前、本当にゼントか? いや、確かに面影がある」

「あ、ああ、そうだ。本当にゼントだ。会うのは20年ぶりくらいだな」

「……あの時は俺もお前も16歳だったな。……ん? で、お前、このスタジアムに何の用だ?」

「お、お前と闘うために、ここに来たんだよ。特別試合をするんだろ」


 俺は、緊張を隠しながら、精一杯言った。


「……はあ?」


 ゲルドンは額を指でこすって笑い、俺をまた見た。周囲の人間がさわがしくなった。

 野次馬の人だかりができた。大勇者のゲルドンが、俺のような一般人と話しているから、珍しいんだろう。

 すると、ゲルドンの弟子、クオリファが前に出ようとした。しかし、ゲルドンはそれを押しとどめた。


「クオリファ、待て」


 ゲルドンは俺の方を見た。


「俺と、闘う? ゼント、何言ってるんだ? 20年経って、頭がおかしくなったのか?」

「お、お前のおかげで、俺の人生はメチャクチャになった」


 俺は緊張しながらも、勇気を出して言った。


「……いや、俺の人生がメチャクチャになったのは、俺自身の責任だろう。だが、俺はお前を殴り倒さなければ気が済まなくなった」

「俺様を……この大勇者ゲルドンを、殴り倒す……」

「そうだ」

「ハハハ!」


 ゲルドンは、両手でパシパシ叩いて、笑った。野次馬たちは、俺を見て眉をひそめている。皆、大勇者ゲルドンのファンだ。


「なんだ、あいつ。偉大なゲルドン相手に、どういった口を利いてんだ?」

「ゼント? 知らねえ名前だなあ」

「何、大勇者のゲルドンにケンカを売ってるの? 信じられないヤツだな」


 野次馬たちはうわさしているが、ゲルドンは構わず言った。


「ガハハハ! 何だって? 俺様を殴り倒すって? ゼント、お前がか? あの弱っちかったお前が、俺を? 何の冗談だ?」

「冗談で言わないよ」


 俺はまたしても勇気を振り絞って言った。


「俺はお前に挑戦する」

「おいおい~。てめーのような弱虫野郎が、20年ぶりにあらわれて、俺に挑戦するってか?」

「待って、ゲルドン!」


 すると、俺の後ろにいたエルサが声を上げた。


「ゼントは本気よ。あなたを本気で倒すために、修業を積んできたのよ」

「ああ? なんだ、お前?」


 ゲルドンはエルサをしげしげと見た。そしてにわかに、笑った。


「こりゃあ驚いた。ゼントが来たと思ったら、今度はエルサか? いや~……お前、せたな。悪ぃが、お前のようなやつれた女は、抱けないぜ。ウヘヘ」

「ゲルドン! あなた、言っていいことと悪いことが……」


 エルサは杖をつきながら、ゲルドンに近づく。


「お前なんか、もう興味ねーよ。ああ? 俺の周りには今、若い女がわんさか寄ってくるんだからよ! どけ!」


 ドガッ


 ゲルドンはエルサを突き押した。エルサは床に倒れてしまった。


「お、お前っ!」


 俺は、これほど怒りを感じたことはない。


 俺はゲルドンの胸ぐらをつかんだ。ゲルドンはピクピクとほお痙攣けいれんさせ、俺をにらみつけた。


「なんだそれは……ゼント」

「お前の胸ぐらを、つかんでんだ」

「おい、マジか……死にたいようだな。今、ここでな!」


 俺とゲルドン……とんでもない再会になってしまった!

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