第23話 ゲルドン杯格闘トーナメントへ出発!

 ルーゼリック村のある日の朝──。

 俺、ゼント・ラージェントがこの村にやってきてから、2ヶ月がった。


 今日は、「ゲルドンとの特別試合に出場する権利」を手に入れるため、旅立つ日だ!


 場所は、グランバーン王国の中央都市ライザーン!


 この2ヶ月間、ルーゼリック村のエルフの武闘家ぶとうかたちと修業をした。

 おかげで俺はかなりせた。16歳の時と同じ体重──だいたい55キロくらいになった。


 俺は、村の広場で美しい村の風景を見ていた。


すきありだ! ゼント!」


 ビュオッ


 すさまじい勢いの蹴りが、横から飛んできた。


 危ねえっ!

 

 俺は素早くかわし、蹴りを防いだ。

 俺はすぐに構え、周囲を見回した。左の方にローフェンが笑って立っている。

 こいつの奇襲攻撃は、もう慣れっこだ。大迷惑だがな。


「あらよっ」


 オルファンの横蹴りの連続攻撃だ。俺は手でそれを下段払いし、素早く──。


 シュッ


 左ストレート! パンチだ!


 ローフェンの鼻先で、止めてやった──つもりだった。しかし、ローフェンも手の平で、俺のパンチを受けていた。


 ちぇっ、見事な防御だ!


「やるねえ~」


 ニヤリ、とエルフ族の武闘家ぶとうか、ローフェンが笑った。

 長身、イケメン。蹴り技が得意、女にモテる。

 俺とは正反対の男だ。


 俺は文句を言った。


「お前の奇襲攻撃、慣れてきたがな。あいかわらず、汚ねえぞ!」

「ひゅー」


 ローフェンは汗をぬぐいながら、口笛を吹いた。


「ゲルドン杯格闘トーナメントは、スポーツじゃねえ。闘いだ。よそ見して蹴られてKOされても、言い訳にはならねえぞ」


 まったく……ローフェンのヤツは負けず嫌いだが……言っていることは正しいか。


「た、大変です!」


 アシュリ―が俺の方に駆け寄ってきた。


「隣村のドルバースさんが!」


 村の入り口の方から、松葉杖まつばづえをついた小男が、二人のホビット族に付きわれて歩いてくる。


「ドルバース! どうしたんだ?」


 ローフェンが声を上げた。松葉杖まつばづえの男は、ドルバースという男だ。ホビット族。

 ホビット族は、エルフ族とよく交流している。


 俺も、このドルバースという男とは、何回か話したことがある。小柄だが、立派な武闘家ぶとうかだ。ドルバースとローフェンは幼なじみらしい。


「ゲルドンにやられた」


 ドルバースはローフェンに言った。


「な、なんだと!」


 ローフェンは声を上げた。俺とアシュリーは顔を見合わせた。


 ドルバースは、腕にも包帯が巻かれ、顔にも傷があり、満身創痍まんしんそういだ。


「ライザーンの酒場で、大勇者ゲルドンとケンカした。ヤツは俺の席に座っていて、どいていくれなかったんだ。すると、弟子のクオリファが途中で入ってきて、二人がかりでやられた」

「ふ、二人がかりだって? ゲルドンが、弟子と?」


 俺は驚いて叫んだ。


「ゲルドンのヤツ、そんな卑怯ひきょうなことを」

「おい、お前……ゼント」


 ドルバースは俺に言った。


「ゲルドンと闘うって言ってたな。あの野郎、本当に恐ろしいヤツだ。大勇者と名乗っているが、人の心がねえんだよ」


 ドルバースは俺に近づき、俺の腕をつかんだ。


「ゼント! ゲルドンと闘うんだったら、気を付けろ。何をしてくるか、わからねえぞ……ううっ……」


 ドルバースは片膝をついて、転んでしまった。俺はあわててドルバースを支えた。彼はそうとう、体が痛んでいるな。


 すぐにこの村の診療所から、タンカが持ち出され、ドルバースが乗せられた。隣村のホビットの村には、診療所がないから、こっちに来たのだろう。


「ゼント、ドルバースの怪我を見た?」


 後ろから声がした。振り返るとミランダさんが立っていた。


「ゲルドンとの対決……考え直す?」

「い、いえ」


 俺は言った。俺は怒っていたんだと思う。ドルバースは尊敬できる武闘家ぶとうかだ。しかしゲルドンは弟子と一緒に、ドルバースを二人がかりで襲った……。


「ゲルドンと闘わなくちゃならないと思います」


 すると、ミランダさんは一枚のチラシを俺に見せた。



『ゲルドン杯格闘トーナメント開催! 来たれ、武闘家! 

 開催年月 デルガ歴202年11月2日

 開催場所 中央都市ライザーン


☆注目!

 トーナメント3週間前に、大勇者ゲルドンの特別試合を行います。


 特別試合の参加希望者は、トーナメントの出場資格を得て、200万ルピーの費用をお払いください(トーナメントは無料)』



(ううっ……!)


 この参加費用は!


「200万ルピー! 高すぎます!」


 アシュリ―が心配そうな顔で、俺を見る。た、確かに高額だ。


 くそ、ゲルドンのヤツ、そんなに金が必要なのか?


 えーっと、この間、古書を売ったっけな。あれって100万ルピーで売れて……。

 で、旅費、この村の生活費で、半分以上は使ってしまった。

 残り40万ルピー?


 全然足りない!


「ダメだ。40万ルピーしかないぞ。ゲルドンと闘うのは……ムリか?」

「なーに、あきらめてんのっ」


 後ろを振り向くと、エルサが立っていた。

 ミランダさんも言った。


「私が、あなたの分──200万ルピーを払わせてもらいます」

「まさか!」


 俺は声を上げた。


「そんな、200万ルピーなんて大金、ミランダさんに払わせることはできませんよ。練習場所も、寝床も用意してくださっているのに」

「ゼント君、エルサをごらんなさい」


 エルサは杖をついて立っている。2ヶ月前までは、車椅子だったはずだ。

 

 俺が来てから、なぜか少しずつ、車椅子を使わなくなり、自分で立てるようになってしまった。


「あなたが来てから、エルサも負けじと、元気になるよう努力したのよ」


 エルサの顔は真っ赤だ。


「ミランダさんの言うことは本当だよ。ゼント、君が来てから、私は元気になった。だって、20年引きこもりだったヤツが、大勇者と……自分をいじめたヤツと闘おうとしているんだから。負けらんないじゃん……」

「それに、ゼントさんは、私のことも、叔父から助けてくれました」


 アシュリーが笑顔で言うと、ミランダさんは大きくうなずいた。


「ゼント君、あなたは人助けをしたのよ。私の大切な人たちを助けている」

「お、俺は、人を助けようなんて、思ってなかったです……」

「結果的にそうなったのよ。200万ルピー? 私にとってはたいしたお金じゃないわ。大金だけど、君が何と言おうと、ゲルドン側に払うから」

「ミ、ミランダさん!」

「あなたは、『ミランダ武闘家ぶとうか養成所』所属──ゼント・ラージェント。これからは、私たちの仲間よ。いえ──家族よ!」


 家族! 俺が……ミランダさんたちの家族!


 俺は……俺は叔父、叔母が死んでから、ずっと家族というものがなかった。

 

 でも、ミランダさんは、俺を家族だと言ってくれた。


 俺は──胸に熱いものを感じた。涙が流れてしかたなかった。


 するとローフェンは、村に設置された大時計を見て言った。


「おっと、さあ、もう出発しねえとな。ゲルドンと試合をするには、とにかく出場登録を済まさないと。早く行かねえと、間に合わねえぞ。馬車を用意してる。とっとと行こうぜ」


 俺は、心の病に苦しんでいるエルサのかたきをうつため、知人のドルバースのため、ゲルドンと闘うのだ。

 ……さて、どうやってゲルドンの対戦相手に選ばれるかだが……?


 とにかく、村の外の馬車に乗ろう。


 ローフェンが御者ぎょしゃをして、馬車は出発することになった。客車には、俺とミランダさん、アシュリー、そしてエルサが乗り込む。


 これから、ゲルドン杯格闘トーナメントの会場がある、中央都市ライザーンに向かう!

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