第23話 ゲルドン杯格闘トーナメントへ出発!
ルーゼリック村のある日の朝──。
俺、ゼント・ラージェントがこの村にやってきてから、2ヶ月が
今日は、「ゲルドンとの特別試合に出場する権利」を手に入れるため、旅立つ日だ!
場所は、グランバーン王国の中央都市ライザーン!
この2ヶ月間、ルーゼリック村のエルフの
おかげで俺はかなり
俺は、村の広場で美しい村の風景を見ていた。
「
ビュオッ
すさまじい勢いの蹴りが、横から飛んできた。
危ねえっ!
俺は素早くかわし、蹴りを防いだ。
俺はすぐに構え、周囲を見回した。左の方にローフェンが笑って立っている。
こいつの奇襲攻撃は、もう慣れっこだ。大迷惑だがな。
「あらよっ」
オルファンの横蹴りの連続攻撃だ。俺は手でそれを下段払いし、素早く──。
シュッ
左ストレート! パンチだ!
ローフェンの鼻先で、止めてやった──つもりだった。しかし、ローフェンも手の平で、俺のパンチを受けていた。
ちぇっ、見事な防御だ!
「やるねえ~」
ニヤリ、とエルフ族の
長身、イケメン。蹴り技が得意、女にモテる。
俺とは正反対の男だ。
俺は文句を言った。
「お前の奇襲攻撃、慣れてきたがな。あいかわらず、汚ねえぞ!」
「ひゅー」
ローフェンは汗をぬぐいながら、口笛を吹いた。
「ゲルドン杯格闘トーナメントは、スポーツじゃねえ。闘いだ。よそ見して蹴られてKOされても、言い訳にはならねえぞ」
まったく……ローフェンのヤツは負けず嫌いだが……言っていることは正しいか。
「た、大変です!」
アシュリ―が俺の方に駆け寄ってきた。
「隣村のドルバースさんが!」
村の入り口の方から、
「ドルバース! どうしたんだ?」
ローフェンが声を上げた。
ホビット族は、エルフ族とよく交流している。
俺も、このドルバースという男とは、何回か話したことがある。小柄だが、立派な
「ゲルドンにやられた」
ドルバースはローフェンに言った。
「な、なんだと!」
ローフェンは声を上げた。俺とアシュリーは顔を見合わせた。
ドルバースは、腕にも包帯が巻かれ、顔にも傷があり、
「ライザーンの酒場で、大勇者ゲルドンとケンカした。ヤツは俺の席に座っていて、どいていくれなかったんだ。すると、弟子のクオリファが途中で入ってきて、二人がかりでやられた」
「ふ、二人がかりだって? ゲルドンが、弟子と?」
俺は驚いて叫んだ。
「ゲルドンのヤツ、そんな
「おい、お前……ゼント」
ドルバースは俺に言った。
「ゲルドンと闘うって言ってたな。あの野郎、本当に恐ろしいヤツだ。大勇者と名乗っているが、人の心がねえんだよ」
ドルバースは俺に近づき、俺の腕を
「ゼント! ゲルドンと闘うんだったら、気を付けろ。何をしてくるか、わからねえぞ……ううっ……」
ドルバースは片膝をついて、転んでしまった。俺はあわててドルバースを支えた。彼はそうとう、体が痛んでいるな。
すぐにこの村の診療所から、タンカが持ち出され、ドルバースが乗せられた。隣村のホビットの村には、診療所がないから、こっちに来たのだろう。
「ゼント、ドルバースの怪我を見た?」
後ろから声がした。振り返るとミランダさんが立っていた。
「ゲルドンとの対決……考え直す?」
「い、いえ」
俺は言った。俺は怒っていたんだと思う。ドルバースは尊敬できる
「ゲルドンと闘わなくちゃならないと思います」
すると、ミランダさんは一枚のチラシを俺に見せた。
『ゲルドン杯格闘トーナメント開催! 来たれ、武闘家!
開催年月 デルガ歴202年11月2日
開催場所 中央都市ライザーン
☆注目!
トーナメント3週間前に、大勇者ゲルドンの特別試合を行います。
特別試合の参加希望者は、トーナメントの出場資格を得て、200万ルピーの費用をお払いください(トーナメントは無料)』
(ううっ……!)
この参加費用は!
「200万ルピー! 高すぎます!」
アシュリ―が心配そうな顔で、俺を見る。た、確かに高額だ。
くそ、ゲルドンのヤツ、そんなに金が必要なのか?
えーっと、この間、古書を売ったっけな。あれって100万ルピーで売れて……。
で、旅費、この村の生活費で、半分以上は使ってしまった。
残り40万ルピー?
全然足りない!
「ダメだ。40万ルピーしかないぞ。ゲルドンと闘うのは……ムリか?」
「なーに、あきらめてんのっ」
後ろを振り向くと、エルサが立っていた。
ミランダさんも言った。
「私が、あなたの分──200万ルピーを払わせてもらいます」
「まさか!」
俺は声を上げた。
「そんな、200万ルピーなんて大金、ミランダさんに払わせることはできませんよ。練習場所も、寝床も用意してくださっているのに」
「ゼント君、エルサをごらんなさい」
エルサは杖をついて立っている。2ヶ月前までは、車椅子だったはずだ。
俺が来てから、なぜか少しずつ、車椅子を使わなくなり、自分で立てるようになってしまった。
「あなたが来てから、エルサも負けじと、元気になるよう努力したのよ」
エルサの顔は真っ赤だ。
「ミランダさんの言うことは本当だよ。ゼント、君が来てから、私は元気になった。だって、20年引きこもりだったヤツが、大勇者と……自分をいじめたヤツと闘おうとしているんだから。負けらんないじゃん……」
「それに、ゼントさんは、私のことも、叔父から助けてくれました」
アシュリーが笑顔で言うと、ミランダさんは大きくうなずいた。
「ゼント君、あなたは人助けをしたのよ。私の大切な人たちを助けている」
「お、俺は、人を助けようなんて、思ってなかったです……」
「結果的にそうなったのよ。200万ルピー? 私にとってはたいしたお金じゃないわ。大金だけど、君が何と言おうと、ゲルドン側に払うから」
「ミ、ミランダさん!」
「あなたは、『ミランダ
家族! 俺が……ミランダさんたちの家族!
俺は……俺は叔父、叔母が死んでから、ずっと家族というものがなかった。
でも、ミランダさんは、俺を家族だと言ってくれた。
俺は──胸に熱いものを感じた。涙が流れてしかたなかった。
するとローフェンは、村に設置された大時計を見て言った。
「おっと、さあ、もう出発しねえとな。ゲルドンと試合をするには、とにかく出場登録を済まさないと。早く行かねえと、間に合わねえぞ。馬車を用意してる。とっとと行こうぜ」
俺は、心の病に苦しんでいるエルサの
……さて、どうやってゲルドンの対戦相手に選ばれるかだが……?
とにかく、村の外の馬車に乗ろう。
ローフェンが
これから、ゲルドン杯格闘トーナメントの会場がある、中央都市ライザーンに向かう!
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