第11話 その頃、ゲルドンは③

 大勇者ゲルドンは、自分のパーティーメンバーと新聞記者を連れて、モンスター討伐を行っていた。目的は、骸骨拳闘士──スケルトンファイターの討伐だ。


 やっとレインバッド墓地に着くと、さっそく青色のスケルトンファイターが3体、現れた。骸骨そのものモンスターだ。


「いたぞ、スケルトンファイターだ!」


 ゲルドンと同年代、右腕のティーザンが叫んだ。


「B級モンスターだぞ、5分で片づけよう!」


 武闘家ぶとうかのクオリファも身構える。新聞記者は木陰に逃げた。大勇者ゲルドンのパーティーはSランクパーティーだ。こんなB級モンスターは、5分どころか、3分あれば退治できる……!


「あっ」


 すぐに、スケルトンファイターの一体は大ジャンプしてきた。

 ゲルドンはニヤリと笑った。


「今日は素手でモンスターを倒すぜ! まあ、もともと武器は持ってきていないがな!」


 ゲルドンは自分がもよおす「ゲルドン杯格闘トーナメント」の宣伝のため、スケルトンファイターを素手で倒すところを、新聞記者に見せたいようだ。ちなみに、ゲルドン杯格闘トーナメントは、素手の格闘術の大会だ。


 ブオッ


 ゲルドンは、スケルトンファイターの頭部めがけて、右パンチを繰り出した。


 しかし、スケルトンファイターはその細い骸骨の腕で、ゲルドンの右パンチを弾き飛ばした。骸骨なのに、意外にかたくて丈夫なヤツらだ!


 逆に、スケルトンファイターは、前蹴りを放ってきた。ゲルドンは、間一髪、よける!


「ふ、ふうっ!」


 危ない危ない。スケルトンファイターの爪先、拳の先には、しびれ薬と猛毒が仕込まれているのだ。


「ゲルドンさん、まずい!」


 魔法使いのゴンドスが声を上げた。後ろから、沼地にひそむ泥人形型モンスター、マッドパペットが二体、現れたのだ。このモンスターは体力はないがトリッキーなスキルを持っている。


「くそ、やっかいなヤツが来たぜ」


 クオリファはそう叫びながら、スケルトンファイターの一体を、中段蹴りで撃破した。相手は骸骨だ、防御力がない。


「ゴンドス、お前はマッドパペットを火属性魔法で──」


 ゲルドンがそう指示した時、スケルトンファイターの拳の先が、ゲルドンの腕をかすった。や、やばい! 途端に彼の腕がしびれる。それに加えて、猛毒が傷口から入った!


 ゲルドンは多少、パニックになった。


「う、や、やばい。こんなヤツらに」

「ティーザン、白魔法だ。早く、ゲルドンさんを解毒しろ!」


 魔法使いのゴンドスが、大僧侶のティーザンに声をかける。


「わ、分かった。だが、変だ!」


 ティーザンはゲルドンに向かって解毒魔法を唱えているのだが、まったく魔法が発動しない。


「バ、バカ野郎っ。何やってんだ!」


 ゲルドンは青い顔をしながら、ティーザンに怒鳴った。


「しまった、マッドパペットのスキル、『魔力吸収』だ!」


 大僧侶のティーザンは悔しそうに叫んだ。


「お、俺の魔力が全部、吸い取られている。解毒魔法が使えない」

 

 すると危機を察した新聞記者が、たまたま持ってきていた解毒薬をゲルドンに差し出した。ゲルドンはそれを素早く奪うと、それをゴクゴク飲み込んだ。


(く、くそおっ! 素人しろうとに助けられるなんて)


 なぜか、20年前、荷物運びだったゼントのことを思い出した。あいつ、いつも解毒薬を持っていたっけ。


(くそ、こんな時に、あんなヤツのことを思い出してもしょうがない)


 解毒薬のおかげで、ゲルドンの腕のしびれは軽減した。体の熱も少しは解消したので、やっと立ち上がった。

 健闘しているのは、武闘家ぶとうかのクオリファだ。ゴンドスに補助魔法、『素早さ増大魔法──スピーバ』をかけてもらい、スケルトンファイターのパンチ攻撃をかわしきって攻撃している。

 しかし、彼は2体目のスケルトンファイターを殴り倒したところで、横からきた三体目のスケルトンファイターの毒拳をかすってしまった。


 倒れるクオリファ──を見ながらゲルドンは、マッドパペットに猛然と向かう。


「ゲ、ゲルドンさん! 素手は無茶です。俺の予備の武器を使ってください!」


 地面に尻持ちをついている武闘家ぶとうかのクオリファが、背中から自分の半月刀を引き抜き、ゲルドンに投げて渡す。ゲルドンはそれを受け取り──。


「ちきしょう、く、くらええーっ!」


 ゲルドンは刀を一閃、マッドパペットの胴を切り裂いた。


「ちっきしょう! こんなヤツら、素手の格闘術で十分だってのに!」


 ゲルドンが強がったその時、横からもう1体のマッドパペットが抱きついて、ゲルドンの胴に組み付く。


「う、げえ!」


 もの凄い力だ! い、息ができない。クオリファはしびれと猛毒で悶絶しているし、大僧侶のティーザンも、魔法使いのゴンドスも魔力が吸い取られ、立ちすくんだままだった。


「に、逃げるか? ゲルドン」


 ティーザンがゲルドンに向かって叫んだ。


「バ、バカ! 新聞記者が見ているんだぞっ。しかも、俺らはSランクパーティーだ。絶対、倒す!」


 ゲルドンは必死の思いで、そのマッドパペットをひきはがし、そいつも両断した。


『再度警告。あなた──ゲルドン・ウォーレンさんの持っているスキル──【神の加護】の有効期限が切れています』


 まただ! ゲルドンの頭の中に、奇妙な声が響く。


(な、なんだってんだよ! スキル? 有効期限? なんだそりゃ?)


 すると、今度は空から、巨大鳥サンダーバードが来てしまった。これはA級モンスターだ。ヤツの雷魔法【サンダスパーク】は強力。

 サンダーバードは滅多に遭遇するモンスターではない。何で今日に限って?

 スケルトンファイターはもう一体いる。


 ゲルドンは腕のしびれと毒の熱を、再び感じ始めていた。新聞記者からもらった解毒薬が、あまり効いていない。安物の解毒薬だったか。


(ちゃんと、正規品を用意しとけよ!)


 ゲルドンは新聞記者に怒鳴りたかったが、そうもいかない。


 今の状況では、パーティー全滅っ……。


「あーっ、ちきしょおおーっ!」


 ゲルドンは声を上げた。


「逃げるぞおおおおっ」

「マ、マジかよ。俺ら大勇者パーティーだぞ」


 クオリファが腕を押さえながら、つぶやく。


「え? 撤退てったいするの?」

「……この人たち、本当に、大勇者の魔物討伐パーティーなのかよ」


 木陰に隠れていた新聞記者2人は、首を傾げていた。

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