第13話 ロイドの素性と提案

 ロイドの身分が騎士と明かされて、クロエは驚き半分、納得半分といった気持ちだった。

 チンピラ三人への大立ち回りは、高度な戦闘技術を持っている人のそれだったから。


 曰く、騎士は軽い犯罪を取り締まる憲兵より装備が重装で、主に国防を担っているらしい。

 

 普段は王城に出勤し、日々訓練に励んだり、街をパトロールしたり、時たま王都外のいざこざを収めに行ったりするのが仕事だそうだ。


 今日は休日で非番だったらしい。


 そして今いる場所は王城に近い北区と呼ばれる地域で、この家は騎士団のメンバーに充てがわれた庭付き二階建ての一軒家とのこと。

 周りには同じように騎士団のメンバーの家や、貴族の屋敷がひしめいており治安もそこそこ良いらしい。


 確かに言われてみると、一人暮らしにしては内装も綺麗で広々としたい家だなあという感想を抱いていたが、ロイドが重要な役職に就いていると訊かされれば納得である。


 というざっくりとした説明を受けた後、ロイドが提案する。


「とりあえず風呂でも入るか? まずは身体の汚れを落とした方が良い」

「お、ふろ……ですか?」


 初聴きの言葉にクロエがこてりと小首を倒す。


「なんだ、知らないのか? 並々にお湯を入れた箱に身体を浸けるのだ。疲れた時は最高だぞ」

「そ、そんな催し物があるのですか……!?」


 びっくら仰天するクロエ。

 ロイドが珍獣でも眺めるように言う。


「催し物というほど大袈裟なものでもないぞ。庶民の家にはついていない場合も多いが、この家には僥倖なことについていてな。王都は海と大きな川に面していて水源も豊富だから、そういった習慣があるのだ」

「と、都会ってすごい……」


 山に囲まれた実家では、身体を清める行為といえば身体を拭くか、さっと水を浴びるかくらいしかなかった。

 ちなみにクロエは身を清めるためのタオルを使うことも制限されていたため、屋敷の敷地内を流れる川の水を人目を盗んで浴びていたものである。


 夏は気持ち良かったが、冬は地獄だった。


「あ、だが、治癒していない傷とかあるのであれば、沁みるだろうからさっと拭くだけでも……」

「い、いいえ大丈夫です!」


 もうかれこれ二週間、まともに身を清めていなくてとても気にはなっていたのだ。

 本音を言うと雨に打たれてでもいいから身体の汚れを落としたい気持ちであった。


 そして何よりも。


「お風呂とやらにとても興味があります入ってみたいです是非に是非に入りたく存じます入らせていただけると至極光栄でございます」

「わかった、わかったから落ち着け。言葉が変なことになっているぞ」

「あっ……ごめんなさい」


 思わず乗り出していた身を引っ込める。

 先程から舞い上がりすぎだとしゅんとするクロエを見て、ロイドは小さく笑う。


「……なんか可笑しなことでもありました?」

「いや、いちいち面白い反応をするな、と思って」


 言われて、何故だかクロエの頬がかあっと熱くなった。


「早速湯を溜めてくる。適当にくつろいでいてくれ」

「は、はい、ありがとうございます」


 リビングから出ていくロイドを見送る。

 こんなにされっぱなしで良いものかと、クロエは胸に罪悪感を抱くのであった。

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